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人の悪意は蜜の味  作者: 帽子
2/2

2話

「いやぁ、思っていたよりもいいもんだね」


やってきましたブルースニク学園。ドキドキのスリル満点な学園生活、心が躍るね。しかもこんなに悪意の匂いがするなんて。食欲がそそられるじゃないか。涎が止まらない。最高の環境だ。

しかし実技かぁ。クリスは俺が攻撃を避けるだけでいいって言ってたけど大丈夫かねぇ。かなり見通しが甘いと思うんだが。まあ俺はこの学園を悪意から守ればいいんだから、今はそっちに集中するか。


「ロキ、そろそろいいですか?」

「ん、ああ、思った通り。動き出したよ。数は二人だね」

「どうするんです?」

「生け捕りにしようか」

「出来るのですか?あちらも対策はしているはずです」

「大丈夫大丈夫。便利な魔法があるからさ」


大分ミトスさんとも打ち解けてきた。最初は不信感を持っていたようだが、今はとりあえず目の前の事を優先してくれてるようだ。


「それよりもクリスたちは捕まえた後の事を考えててくれよ。ただのスパイだったらいいけど、スパイが学園の生徒だったら面倒だろうからさ」

「分かった。取りあえず、生け捕りの方は任せたぞ」

「はいはい、んじゃま行ってきます」


そう言って学園長室を出ていく。二人は色々外交関係も考えないといけないようだ。大変だね。俺は悪意の匂いを辿って今2人のスパイが爆弾を仕掛けているであろう場所まで歩いて行く。

場所は体育館だろうか。その倉庫だ。二人はそこにいた。まあ俺としては二人が誰であるかも予想できていた。何しろ嗅ぎ覚えのある匂いだったからだ。オルグ・エスタリオ。先日ブルースニク学園を追い出された教師だ。恐らくは本人ではなく雇われた者達だろう。さっさと終わらせることにするかね。


「はいどうも、夜遅くにお疲れ様です!」

『!?』


驚いてる驚いてる。その隙に二人には禁術を掛ける。


「ぐっ」

「う、動けねぇ」


うん、良かった良かった。上手くいったようだ。そしてさっさと終わってくれた。


「それじゃあ申し訳ないけど、今君たちが仕掛けた物を全部回収してくれるかい」

「は、い」

「わか、り、ました」


うんうん。聞き訳が良くて結構だよ。と思っていると片方が、


「グァァァ!!!」


お、やっぱり抵抗したか。


「ダメじゃないか。俺は『全部』って言ったんだよ。抵抗は無駄だ」

「はぁはぁ」


よしよし、分かってくれたようだね。


「全部終わったかな。爆弾は起動していないよね?」

「は、い」

「そっちもかい?」

「起動、してません」

「よし、じゃあそのまま学園長室まで行こうか」


そして歩いて行こうとする二人。そういえばまだ二人には教えていなかった。


「あ、そうそう。君たちにはジャミングをかけてるから助けなんて来ないからね。盗聴器も意味をなさないよ。それと、ここ以外に仕掛けてある爆弾は既に回収してあるからね」


うんうん、いい感じに絶望に染まってくれたようだ。俺としては二人の悪意を楽しむことが出来たし万々歳だ。久しぶりにこんな新鮮な悪意を楽しむことが出来た。

しかしなんだろう、二人の悪意に違和感を感じたんだけど。



***



「……よくやってくれた」


疲れたような顔で俺にお礼を言ってくるクリス。ミトスさんは唖然としている。ま、二人のスパイが自分たちの爆弾をその手に持って現れたら驚くか。


「こんなに早くやってくれるとは思わなかった。助かった」

「満足してくれたかな?」

「ああ、十分だ」

「そりゃよかった」


ミトスさんも頷いてくれているところを見ると、不満はないのだろう。つまりこれから俺は、こんな風にスパイや工作員が仕掛けるたびに妨害すればいいんだろう。俺としてもこんなに良い環境を手放す気はない。お互いにいい関係を気づけるのであればそれに越したことはないだろう。


「それで、彼らを雇ったのは誰なのかは分かるか?」

「ああ、先日やめていった教師だ。オルグだったけか。だよね」

「は、い」

「そ、うです」


クリスもミトスがため息をついている。まぁ、そりゃそうか。やめていったくせに、未だに学園に問題を持ち込むんだから。二人からしたら悩みの種か。オルグ・エスタリオ、和平反対派でこの学園の全ての種族の『共学』に反対した教師。かなり異種族に対して嫌悪感を抱いていたようだ。

そして雇った二人。彼らは相当腕の立つ者達のようだ。二人の悪意の記憶を辿ると憲兵のようなことをしていることが理解できた。


「さて、二人とも。名前は?」

「く、バライ」

「ちぃ、ヴェン」

「だってさ」

「……はぁ、助かる」


何でそんな疲れたような目をして俺を見るのかねぇ。ミトスさんまでそんな目をしなくてもいいと思うんだけどな。


「しかし『バライ』と『ヴェン』か」

「有名人?」

「ああ、憲兵の中ではな。二人とも神魔戦争で一緒に戦った憲兵だ。その前からも有名でな。数々の戦争で戦果を挙げていた。よくもまあ雇う事が出来たものだ。大方学園だから子供と教員が相手と思ってなめていたのだろうな」


バライとヴェンが顔を逸らす。図星だったようだ。ふむ、この状態では自主的に話すことはできないだろうし、少し禁術を解くとするかな。


『!?』


俺を除く全員が驚く。まあ急にバライとヴェンが光りだしたら驚くか。


「う、動ける」

「解放されたのか」


2人とも呆然としている。抵抗する気もないのだろう。まあ目の前に神魔戦争で活躍した英雄が居れば抵抗する気も起きないか。一応警告だけしておくかな。


「一応言っておくけど、さっきも言った通り、二人にはジャミングをかけている。転移は出来ないよ」

『……』

「後、奥歯の毒は使用しない方がいい。どうなるかは、まあ教えないでおこうか」

『!?』


効果はあったようだ。二人とも目に絶望が色濃く出ている。


「やり過ぎだ」

「そうかい?」

「ああ、一応二人とも未遂に終わった。そしてその爆弾だが、殺傷能力はないようだ」

「……ああ、そういう事ね」


これは気づかなかった。つまり二人とも学園の生徒を傷つける気なんてなかったのか。違和感を感じるはずだ。悪意が殺意ではなく悪戯だったのだから。

その後は二人が話してくれた。バライとヴェンは先日オルグに雇われたらしい。オルグは学園の魔族の殺害を依頼したようだが、二人が無理だと断ったらしい。そこでオルグが提案してきたのは学園の信用失墜だった。学園で爆発が起こり、学生が怪我をしたとあっては責任は学園側にもとめられる。だからこその今回の騒動だというわけだ。二人はなるべく危険性のない様に配慮していたようだ。

ん?あれ?

ということはだ、


「二人が仕掛けた爆弾はそれだけか?」

「ああ」

「そうだ」


何ということだ。事前に回収した爆弾はまた別件だというのか。

やったね!まだエサが残ってたよ!


「ロキ、他の工作員の方を任せられるか?」

「もちろん。そういう契約じゃないか」

「助かる。直ぐに動きそうか?」

「いいや。悪意が濃くないからまだ動かないんじゃない」

「分かった。じゃあとりあえず今日は解散だ。バライとヴェンの処遇は俺に任せてもらっていいか?」

「構わないよ。二人とも、悪かったね」


バライとヴェンに謝罪をする。なるべく明るく恐怖を与えないようにしたんだが、二人とも気まずそうにこちらを見ている。目には若干の恐怖が。解せぬ。


「さ、こちらです。ロキさん。教員寮がありますので、そこに案内します」

「はい、お願いします。じゃあクリス、また明日」

「ああ、詳しい話はまた明日しよう。今日はゆっくり休んでくれ」


クリスの労いの言葉を聞きながら学園長室を出た。



***



「ふぅ」


ロキが出て行ってようやく緊張が解ける。目の前の二人も同じようだ。


「災難だったな、二人とも」

「ひどいぜクリスさん。あんなの雇ってたなら教えててくださいよ」

「全くだ、。久しぶりに死を覚悟したぜ」

「完全に自業自得だろうが。いくら殺傷能力を抑えたとはいえ、爆弾を学園に仕込もうとしたのだから」


2人とも都合が悪いのが分かっているようだ。こちらを見ようとしない。


「それで、どうだった?」


俺から尋ねた。聞いたのはもちろんロキの話だ。二人とも彼と戦っているはずだ。


「はっきり言って化け物ですよ、あれ」

「ああ、何もさせてもらえなかったからな」


それから二人には彼と戦った経緯を聞いた。もっとも、戦いにすらならなかったようだが。


「恐らく禁術魔法ってやつでしょうね」

「だろうな。人を操る魔法など聞いたこともないが」


本来使用を禁じられている魔法。それが禁術魔法。今では教えれるものもおらず、使える者もいないはずだ。それほどまでに凶悪で、そして、消費魔力が多いのだ。普通の魔術師であれば使った瞬間魔力切れでぶっ倒れるのがオチだ。人間よりも魔力が多い魔族と天使も、使える者は一握りと言われているのだ。


「あれが噂の悪魔ですか」

「確か『悪を喰らう悪魔』でしたっけ?」

「ああ、改めて味方でよかったと再認識しているよ」

「でしょうなぁ、彼がいるだけでこの学園で悪さは出来んでしょうから」

「する者がいたとしても、彼には筒抜けなのでしょうから、学園の安全は守られますね。よく学園に置く気になりましたね。」


確かに悪魔をこの学園に置くことに不安はあった。しかし、今回動いてもらってはっきりした。アマテラス様が言っていたことは間違いなかった。

『彼ほど心強い人はいません』

『彼がいる限り、学園が脅かされることはないでしょう』

彼女が嬉しそうに語っていた。半信半疑だったし、悪魔を学園に置くことに不安はあった。

しかし、彼は契約を守ってくれた。彼は予想以上の働きをしてくれた。多少抜けているところもあるようだが、味方でいるうちは心強いものだ。それに彼だけに任せるつもりはない。私たちも打てる手は打っていかないと。取りあえずは


「バライ、ヴェン。お前たちの処遇を伝える。憲兵を辞めてもらうぞ————」

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