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人の悪意は蜜の味  作者: 帽子
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1話

ブルースニク学園、その一室は夜中であるのにも関わらず明かりがついている。今、その一室ではある打ち合わせが行われていた。


「頼むぞ、ロキ。君が頼りだ」


1人は若き学園長、クリス・アルヴァ―ナ。


「ハイハイ、分かっていますって。しっかりと学園の平和を守りますともさ」


飄々と答えるのはロキと呼ばれる男。


「学園長、本当によろしいのですか?」


学園長に意見するのはあるクラスを担当する講師、ミトス・クリストファー。


「心配する気持ちも分かる、ミトス。しかし、君も分かっているだろう。今この状況に置いて、彼ほど適任な者もいないだろう」

「それはそうですが、しかし」

「心配しなくても大丈夫だよ、ミトスさん。悪魔は契約遵守だからさ」


キッと睨みつけるミトス。睨みつけられたロキは「おー、怖い怖い」とまるで気にしていない。

さらに学園長から爆弾が投下される。


「あーちなみに、ロキにはミトスの補佐についてもらいたい。役職は副担任になる」

「え!」「マジで!」


これにはミトスもロキも驚く。何しろ全く聞かされていなかったのだから。

ミトスは慌てて学園長に詰め寄る。


「聞いてませんよ、学園長!」

「そりゃ、今言ったからね」

「……ああ、もうっ!そうではなくっ」

「ミトス、取りあえず落ち着き給え」

「っ」

「ロキはどうだい?何か問題あるかい?」

「ん、俺?驚きはしたけど特に問題はないよ。つっても人にものを教えるとか、流石に無理だと思うんだけど」

「歴史はどうだ。長く生きていたのだろう?」

「確かに教えれるけど、話しちゃいけないことまで話してしまいそうだからマズいんじゃない」

「それでは魔法はどうだ?」

「んー、今の時代の魔法がどんなもんなのか知らないし、流石に俺の魔法をそのまま教えちゃマズいでしょ」

「それもそうか……。実技はどうだ?」

「俺が学園の生徒を傷つけることは契約違反でしょうに」

「契約の見直しの必要はあるが、ある程度相手の攻撃を避けてるだけで十分じゃないか?」

「いやそれ、授業としてどうなんだ?」

「普通なら成り立たないが、君ならば——」


ミトスが見ている前で、どんどん話が進んでいく。

ミトスは頭を抱える。どうしてこうなった。



***


————二日前。


ブルースニク学園、その外れの森には今は使われていない協会があり、その地下には悪魔が封印されているという噂があった。なんでもその悪魔は『悪意を操る』という噂で、この世界の悪意を裏から操っていると言われていた。のだが、


「やぁやぁ、もう来たんだね。忙しい身なのに、こんな所へわざわざご苦労様。取りあえず前の席に座ってくれ。お茶でも入れよう」


中にいたのは紅茶を飲んで本を読んでいる一人の青年だった。見た目二十歳過ぎてはいるのだろうか。黒髪に瞳も黒、背は一般男性と変わらないだろう。悪魔と言われているのだから、魔族が出てくると思っていたのだが。


「悪いねぇ、魔族じゃなくて」

『!?』


学園長も同じことを思っていたのだろう。お互いに顔を見合わせてしまう。目の前の悪魔はクスクス笑いながら紅茶を入れる。あ、いい香り。


「さて、英雄クリスさんと、氷帝ミトスさんが俺に一体何用で?」


またも学園長と顔を見合わせることになる。なにしろこの悪魔とは初対面なのだ。


「参ったな、こちらの情報は筒抜けなのかい」

「そんなことはない。まあこの時代に、俺に悪意を向けてくるのは珍しいから、誰かなって思って調べただけだよ」

「悪意、ですか?」

「ああ、俺を利用しようとしているんだろ?」

「っ」


驚いた。そこまで分かってしまうのだろうか。もっとも利用しようというよりも、協力してもらおうとお願いしに来たのだが。


「ああ、利用という表現は悪かったかな。協力の方がいいかな」


どうもお見通しらしい。私は学園長を見る。彼は隠し事は無駄だと分かると意を決して話しだした。


「私たちはあなたに、学園の運営を協力してもらいに来ました」

「運営?」

「ええ。ちなみに、昨日学園から教師が一人止めることになったのですが、それはご存知でしょうか」

「ああ、あれは傑作だったね!へぇ、辞めさせられたんだね、あの教師。まあ和平が成り立った今、あんなことしたら、そうなるだろうとは予想してたけどね」


やはり目の前の悪魔は知っていたようだ。その教師というのはオルグ・エスタリオ。彼は実技の講師だったのだが、学園の生徒に難癖をつけ、その上体罰と称して暴力行為を働こうとしていた。もれなく返り討ちにされていたが。

問題は、その行為を働いた相手の学生が魔族であったという事だ。天界と魔界と人界の和平が成り立った今、そんな行動をしたら問題となるわけで、結局学園から追い出された。


「で、俺は具体的に何を協力すればいいのかな?」

「具体的には学園に住む者達の安全を守ってほしいです」

「安全ねぇ」

「あなたは悪意に関しては右に出る者はいないと聞いています。ですので、学園の者達を脅かす悪意から守ってほしいのです」

「まった、それを誰から聞いたのかな?」

「アマテラス様です。随分とあなたの事を褒めてましたよ」

「はぁ、あの女神は……」


教師の空をどうするか話し合っていた時、わざわざアマテラス様が訪ねてきてくださり、丁度いい人材がいると言って話していかれたのだ。それはもう自慢げに。何故女神が悪魔の事をここまで自慢げに語るのかは疑問だったのだが。

悪魔は紅茶を飲んでふー、とため息をつく。


「何分急な話だ。無理なら」

「いや、協力するのは別に構わないんだけどね」

「何か問題があるのですか?」

「うーん、まあアマテラスが許可くれたんならいいのかな。くれたんだよね?」

「はい、あなたを雇えば確実に学園を守れるとおっしゃられていました」

「買いかぶり過ぎだよ。でもま、それなら仕方ないか。早く動かないといけないようだし」

「早く動く、ですか?」

「いや、俺が行くんだったら学校に仕掛けられている爆弾をさっさと処理した方がいいのかなと思ってさ」

『!?』


もう工作員が動いているというのですか。そしてそれをもう把握しているといるのですか。アマテラス様がおっしゃっていた通りだ。彼がいてくれるのなら工作員が何かを仕掛けたとしても防ぐことが出来るだろう。しかも工作員を見つけ出すこともできるかもしれない。


「そうそう、まだ自己紹介がまだだったね。俺はロキだ」

「ロキ様ですか」

「うん、そう呼ばれてるよ。学園では様はいらない。敬語も不要だよ」

「分かりました。ミトスもいいな」

「はい。宜しくお願い致します。ロキさん」

「うん、よろしく。じゃあ行くとしようか」


その日、悪魔は封印から解き放たれた。

そしてブルースニク学園は、その日から難攻不落となる。

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