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インターネットの検索バーに、紫の傘の美女と入力した。すると、次々に画面上に関連映像が上がっていく。その中の一番上の方にある動画をクリックしてみると、幼い頃に見たあの紫の傘の美女が男を狂った形で愛していた。でも、何故だろう。二人で初めて見た時はあれ程興奮を覚えたはずが、今は自然と映像のあら探しをし始めている。垂れ流しで見ていても、思い出はあっさりと偽物に書き換えられた。男優の演技も大袈裟なものだった。しまの言う通り、動画も拡大してしまえば、作り物だと分かった。
ふと、バーボンのアルコール臭が鼻に突き刺さる。貞夫は、今度は自分の名前を検索してみた。何個かめのリンクに亜国貞夫のレビューと出てきた。貞夫は自然とそのリンクをクリックしてみた。
肉屋に恋をの評価は自分で思ったよりも高評価は多かったものの、そんな事よりも貞夫の性格上、批判ばかりを探してしまう。貞夫はある匿名のレビューを読んだ。そこにはこう書かれている。肉屋に恋を、は名作だったが最初のインパクトだけで現実的な恐ろしさは表現できていない、と。亜国貞夫は肉屋だけの一発屋だとも書かれていた。
貞夫はやけになって、バーボンを一気に飲み干した。カッと喉が焼けるように熱くなる。自分でも知っている。だが、世間も貞夫の心を覗き見するように、知り尽くしていた。貞夫は無我夢中で、ホンモノの動画を探した。しかし、動画に上がっているものは粗末なものばかりで、他は運営に消去されていた。
貞夫の手にはいつの間にか携帯が握られていた。そして、連絡先から徳しまの文字を選んで通話を押した。
「例の件、話聞きたいんだが……。ああ、それじゃあ明日の午後に上野の駅で」
眠剤を飲んでも、なかなか眠れず、ようやく眠った頃には3時を過ぎていた。今日の夢の中で、紫の傘の美女の後ろ姿が見えた。貞夫はその傘の中の顔を覗きたくて仕方がなかったが、紫の傘の美女は振り返りもせずに、ただ霧の中に消えていった。