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人は、生きている限り過去からは逃れられない。犯した過ちは、必ず張り紙のように自分の背中にくっついてくる。
シャワーノズルから噴き出す勢いのいい水が頭上から全身を叩く。 そうだ。逃れられるはずがない。もう、一度乗ってしまった船なのだ。
貞夫は、現実逃避をした。しまとの少年時代を思い浮かべた。それは記憶から消し去りたかったものだった。
小学生の頃、放課後、忘れ物をとりに校舎へ戻った帰り、飼育小屋の辺りから妙な物音が聞こえた。貞夫は気になって、体育館近くの飼育小屋へ走っていった。
見知らぬ背の高い男が、小さなウサギを小屋から出していた。貞夫は嫌な気持ちがしたが、その光景から目を逸らさずにはいられなかった。そして次の瞬間、男は鈍器で小さなウサギの体を殴った。ウサギは殴られてもしばらくの間は動いていた。ウサギの体は赤く染まっていた。貞夫の鼓動は激しく高鳴った。何かに縛られるように、身動きがとれないでいると、後ろの方で声がした。
「今の見た?」
振り返ると、そこには徳しまが立っていた。貞夫は何も喋れずにいると、しまは「行こう。今のは誰にも喋らないでおこう」と言って、貞夫の手を引っ張った。
翌朝、ウサギの事件は学校中に広まったが、目撃者がおらず、その事件は結局日にちと共に消えていった。
しまも、あの事件の事を二度と話し合う事はなかった。
今日までずっと、その嫌な出来事を頭の中から消していたはずだ。なのに、しまと再び会ってから、度々あの頃の思い出が蘇ってくる。
汗を洗い流し終え、浴室から出ると、急な頭痛がし始め、タオルを適当に巻いたまま、パソコンのデスク上の精神安定剤を2錠飲み込んだ。それから、寝間着を着てから、自分の作りかけの小説の項目をクリックした。そして、両手で文字を打ち始めた。
『男は叫んだ。だが、叫びは虚しく、中心から男の額は裂けてしまった。それでも、生命力の強さとは時には残酷なもの……。犯人は、男の苦痛が愉快でたまらない、何故なら……』
貞夫はキーボードを両手で叩いてデスクの上にうずくまった。
「くそ!!」
息を荒らげ、キーボードを乱暴にデスクから叩き落とす。自分も同じように床に崩れ落ちると、頭を垂れながら髪を無茶苦茶に掻きむしった。
「分からない分からない分からない、駄目だ駄目だ駄目だ」
貞夫は、床に何度も頭を打ちつけながら、やがて赤子のように泣き叫んだ。




