A家出王女 共通 家出し、行き倒れる・昨夜の惨状
そこは砂漠の中に聳える国。
宮殿にはとても豪胆な王様、ちょっぴり我が儘なお姫様、ラァミャがいる。
二人の個室テーブルには各、常にとれたての果物や果実酒があり、日々贅沢の限りを尽くしていた。
「おっほっほっほっ!」
「あっはっはっはっ!」
違う場所にいるのに笑い声が同じタイミングで響く。
王妃はラァミャが生まれてすぐに亡くなった。
一人娘ということもあり王は甘やかして育てた。
「あー暇だわ」
ラァミャは退屈のあまり眠くもないのに大あくびをする。
何よりも暇が嫌いなラァミャは、禁じられている宝物庫に忍び込む。
日の光すらない夜なのにランプの灯りでとてもまぶしく煌めいている財宝。
宝石を眺め、剣を物色。
しかし、これといった面白味はなく、すぐに飽きた。
「あれは…ランプ?」
黒く寂れた金は、財宝の中で浮いている。
「綺麗なお嬢さん、どうかここから出してはくれませんか?」
「ランプが喋った!?」
「噂では高慢で我が儘なお姫様だと聞いていたのに、典型的な飯能をするのか…」
「うまく聞き取れなかったわ」
「まずこの黒いのを、はがしてランプを擦るだけです」
了承していないが勢いにのせられラァミャは興味本意でランプの汚れをぺりぺりはがしてから擦る。
「ありがとう私はランプの魔神・ケドル・サンダー、得意技は雷落とし」
煙りを纏い、長い髪を一つに結わえた男が姿を表した。
「へーなかなかかっこいいじゃない」
「プリンセス・ラァミャ、どうかランプごと
この部屋の外に連れていってはいただけませんか?」
「いいわよ」
「だめですよね…え!?」
あっさりと承諾したラァミャを二度見するケドル。
「さーてさっそく…」
「ラァミャ!!」
王はこっそり部屋へ戻ろうとしていた彼女を見て憤慨する。
「げげ…」
宝物の部屋にだけは入るなと念をおされていたのに、忍び込んでしまった。
ラァミャは少し罪悪感を抱く。
「あれほどこの部屋に入るなといったではないか!!」
「禁じなくたってこの部屋の物を盗もうなんて思わないわよ!!」
ラァミャは初めて自分を叱った父に逆上し、走り出す。
「待てラァミャ!そういう意味でいったのでは…!」
父の心、娘知らず。
ラァミャは宮殿から出ていった。
「大丈夫ですか?」
勢いで飛び出したはいいが、宮殿で悠々自適に暮らしていた彼女が初めて全力で走ったため、常人の倍疲れて倒れる。
そのまま意識を手放した。
「う…(私…昨日は倒れて…その後は…)」
目をさましたラァミャの視界には見慣れぬ風景。
彼女の部屋と比較し簡素、悪く言えば殺風景だ。
「目が覚めたのか」
部屋に扉らしいはなく、カーテンを開き、ラァミャに声をかけたのは頭に無造作に布を巻いただけの男。
首を覆う金属の輪と腰の短刀を除けばただの平民の格好である。
その後ろに不機嫌そうなもの、にこやかな男二人がいる。
「誰…アンタが私を運んだの?」
「ああ俺がお前をここに運んだんだ」
男は倒れていたラァミャを保護した張本人であった。
「そう(こいつ、姫である私に敬語も使わないなんて無礼な奴ね)」
自分が姫だと言えば、良からぬことを者がいる為、怒りにまかせて口走るのをなんとか堪えるラァミャ。
「ラムが助けてやったのに礼の一つもないのか」
そう言って長髪の男はラムという男の前に出る。
そのままラァミャを強く睨みつけた。
「サァル、育ちの良さげなお嬢さんだし、大目にみてやれば?」
軽薄そうな男は、機嫌を悪くした長髪の男を宥める。
「大したことではない、そう怒るな」
ラムはサァルを落ち着かせた。
「お前がそう言うなら」
当人に言われ渋々納得したサァルは冷静さを取り戻す。
(なんでこんなに睨まれたのかわからない
ああ、平民は良いことをされたら感謝の言葉を言うんだったわね?
一応礼は言っておいたほうがいいのかしら)
ラァミャは一度サァルを睨み返してから、ラムのほうを向く。
「…助けてくれてありがと」
プライドに反すると思いつつ姫であることを気取られぬよう、礼をのべる。
ラムがラァミャを見るとシャラりと首の飾りが揺れた。
「俺はラム、このスラム街の住民だ」
ラァミャは腰に下げたものに怯えつつ、話を聞く。
「…オレはサァル、ラムの友人だ」
先程の件もあって、眉を潜め、仕方なさそうに名乗る。
結わない髪を揺らし、部屋の簡素な椅子に座った。
「ボクはジャ・スク、よろしくね」
皆、見ればわかることと名前だけを言って、詳細を語らない。
「私は…」
いつものように、姫として名乗る調子で言いかけ、止めた。
ラァミャの名はそのままだとラミア・ミルーニャ・サンドリヤ。
名前を言うと、自分がサンドラマの姫であることがわかる。
名前が問題ではなく長いからだ。
「ラァミャよ」
そもそも皆、彼女をプリンセスと呼ぶ。
彼女の父である王はラァミャと呼ぶし、賓客を除けば、名前を呼ぶ者はほぼいない。
名など呼ばなくともプリンセスで通用することが暗黙の了解だからである。
「異国の精霊の名に似ているな」
「へぇ…どんな精霊?」
「子殺しだ」
サァルはラムの変わりに質問に答えた。
明らかに悪意のある解答である。
「重要な言葉が抜けているって」
ジャスクは苦笑いを浮かべる。
「昔、ギリシアにラァミァーっていう名前の女性がいて、なんか女神様の怒りをかって、自分の子供達を喪う、さらに女神様は目を閉じないように呪いをかけたんだ」
顔色も変えずに残酷な話をした。
「もういい」
名前一つでよくない異国の話をされても困る。
「そんなことより、起き上がったんだからさっさと家に帰れ」
「…帰る家なんてないわ」
ラァミャは、宝物庫に入ったと知ったときの父の顔を思い出す。
きっとまだ怒っている。
宮殿に帰っても追い出されてしまうだろう。
なにより自分から飛び出したのに一晩で戻るなんて、彼女のプライドが許さなかった。
「なら、ここにいろ」
「えっ?」
ラァミャとジャスクはラムの言葉に驚く。
一番反対しそうなサァルは意外と冷静だ。
「あれ~サァル、止めなくていいの?」
ジャスクは彼がラァミャを良く思っていないことから、異議があるのではないかと考える。
「ラムは一度決めたことを曲げないからな」
「ふうん」
納得したジャスクはそれ以上追求しない。
「そもそもこの女を保護すると言い出したのはお前だろうジャ・スク」
「そうだっけ?」
「とにかくラァミャの意見を聞こう」
「じゃあお世話になろうかしら、よろしく」
食事の最中、ひと悶着している間、夜になってラァミャは眠ろうとしていた。
物音がしたのでこっそり見に行くと、丁度三人が家を出た。
ラァミャは彼等がどこにいくのかきになってしかたがない。
(あとつけちゃお)
恐怖より好奇心が勝り、尾行を開始する。
ラァミャは足音をたてないように歩く。
三人が怪しげな集団を引き連れ、裕福な邸宅を荒し回っている。
ラァミャは唖然とした。
人の良さそうな彼等は武力で人の家を荒らす族だった。
いま見付かるとまずい、無意識にそう判断して走る。
ラァミャはなにも見なかったのだと自分に言い聞かせ、あの寂れた家へ戻り、質素なベッドで眠った。
「昨日はまた‘ラマー’の一味が暴れたらしいよ」
スラム街で洗濯をする女達の会話が、ラァミャの部屋の窓から聞こえる。
昨晩見てしまった集団について、噂をしているようだ。
やはり、あれは夢ではなかった。
もしも城が、彼等に狙われたら。
父や城内にいる者らが、呆気なく倒れる姿が頭に浮かび、ラァミャは震えた。
「食事の時間だ」
「いっいらないわ、そこまで世話になるわけにはいかないから」
ラァミャは、気落して、食欲がないだけなのだが、追求されると面倒なので最もらしい方便を言った。
「だが、また倒れるとも限らん」
(どうしてこの男は…)
姫ということを隠していて、ただの行き倒れた小娘だと、自分で少なからず理解している。
ラァミャはなぜラムが自分に優しくしてくれるのか、ありがたくも不安になった。
(でも、こいつは、ラマーだ)
ラムは優しい。しかし、それは上辺だけだと、昨夜の惨状を思い出す。
屋敷内から人が弾き出され、絶えず悲鳴があがった。
それらは安寧しかしらないラァミャの心を抉った。
ふと、空腹から、ラァミャの腹が鳴る。
「遠慮は要らない質素で申し訳ないが」
「……もらうわ」
ラァミャは食事を頂くことにした。
「ジャスク、今日は奮発してビィフでも食うか」
「だね。早いところ調理しないと腐るし」
前菜は作られていたが、メインディッシュはまだのようだ。
「おそよう」
「サァル。おそよう」
皮肉たっぷりに、挨拶をしたサァル。
ラァミャは気にせず返した。
料理がならび、先ほどラムが言った質素とはかけはなれた豪華な食事をかこむ。
ラァミャにとっては普通のことだが、彼等の生活とは結び付かない。
はっきりと姿を見たわけではないが、彼等が盗賊なのは確実だろう。
食事の間はそれを忘れ、楽しい会話で食事を終えた。
――――そして先程の部屋に戻る。
(もう、今すぐ逃げよう)
ラァミャは、彼等から逃げることを決意する。
意地を張らずに、城へ帰ることを決めた。
王女の正体はまだ知られていない。
実行するなら今しかないのだ。
「ラァミャ王女~」
控えめな声が、近くから聴こえ、ラァミャは辺りを見まわした。
「ケドル、いつからそこにいたの!?」
ランプのから姿を見せたのは魔人ケドル。
彼はふわふわと煙をまといながら浮遊していた。
「ずっといました」
「…!ならなぜ姿を見せなかったのよ」
ラァミャは驚いたが、あまり大袈裟に驚くと、ラム達が来る。
口をおさえ、声を控えめに話す。
「奴等は悪党ですしランプから魔人が出てきたらうっぱらわれますし」
「ああ、なるほど」
ケドルの言い分は正しいとラァミャはうなずきながら納得した。
「ここを出るならランプも忘れずにお願いします」
「いざとなったら雷落としよ」
ラァミャは窓から出る。
ひたすら道を歩く。
「ここどこ」
そして、道に迷った。
「ああどうしよう、今さら引き返せないわ」
後先を考えずただ逃げだしたこと、を後悔し、頭を抱える。
(なんで黙ってるのよケドル)
「ようよう嬢ちゃん金目のもんもってんじゃねえか!」
「それちょーっとかしてくんねーか?」
粗野で乱暴そうな男二人が、ラァミャに声をかけた。
「うるさいわね今忙しいのよ!」
「なんだとぅ!?」
筋肉質な大男はラァミャに殴りかかった。
しかし、拳がラァミャに当たることなく。
大男が吹き飛んだ。
(え?ケドルがなにかしたの――――?)
茫然と立ち尽くしているとラァミャの眼前に、褐色の青年が現れた。
どうやら上から降りてきた様子。
「君、怪我は?」
青年はラァミャの安否を確認する。
「ないわ。……助けてくれてありがとう」
と返事をしつつ、少し考えてから、青年に礼を言う。
「ならいいんだが…こんな場所を一人で出歩いていては危険だよ」
「そうね……道に迷うなんて想定外だったわ」
「……なんというか、イメージ通りだよね」
ため息をつくラァミヤに、青年も苦笑い。
「え?」
「君って地図をみないでガンガン行くタイプだろう?」
「よくわかったわね」
ラァミヤは外に出たことはないし、はじめから地図は持っていない。
(ぷくっ)
持っていたとしても使わないだろうと、ケドルはランプの中で笑っていた。
「私はキロノ。隣の大陸・アミラージェから来た旅の者だ。一応地図は持っているので、よかったら送ろうか?」
「本当?助かるわ。途中まででいいから送って。あ、私はラァミャ。ただのそこら辺にいる若くて美人な娘よ」
「……では、行こう」
「え、ちょっと無視?」
キロノに着いていくと、先程のスラムへ逆戻りした。
「え……あら?」
「違ったのかな?ただの街娘だっていうからてっきり」
「あ、え……ふふふ…ここでいいわ。ありがとうさようなら…!」
ラァミヤはキロノの前から走って去る。
「おお…ラミー。どこに行っていたんだ」
「ちょっとそのあたりを……というかラミーって?」
「ラァミヤだから、ラミーだ。嫌か?」
「別に嫌ってわけではないわ」
(愛称を付けられるなんて何年ぶりかしら)
「そろそろ夕飯ができるぞ」
またも、ラァミヤの腹が鳴る。
(もしかして私、ここから逃げられないの!?)
きっとタイミングが悪かったのよ。私、諦めないわ。
とにかく城に帰れるように、計画を練ってから行動しよう。
とりあえずは味方を作る必要があるわね。手始めに誰にしよう。
―――
【ラム】
【サァル】
【ジャ】
【?】【?】