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エピローグ

「すいません。この表紙のとこが擦れた本はいくらですか?」

 ある週末の晴れた日。公園の一角ではフリーマーケットが開かれていた。そこで古本を売っている中年の男に若い男が赤黒い本を片手に声を掛けた。

「どっかに値札ついてないかい?」

「いや、値札ついてないですよ」

 中年の男は本を受け取ると、首をかしげながら値札の有無と本の中を確認をする。

「ありゃ、本当だ。困ったなあ」

「じゃあ、これ売り物じゃなかったんですか?」

「いや、ここにあるものは全部売り物だよ。まあ、売れ残っても廃品回収に出すだけだし、値札ついてないのはこっちのミスだ。欲しいなら、持って行ってかまわないよ」

「えっ!?タダでいいんですか?」

「どうぞ、かまいません」

「ありがとうございます!」

 若い男は本を受け取ると嬉しそうに鞄にしまい、軽い足取りで去っていった。その姿を見送ると中年の男はぼそりと独り言をもらした。

「あんな本持ってきた覚えはないけど、いつ紛れたんだ……まあ、落書きの多い本だったし、価値もないだろうから、まあ、いっか」

 その中年の男の前に今度は白髪で丸眼鏡をかけ、腰が少し曲がった老人が足を止める。

「少し本を見せてもらってもええかの?」

「ええ、おじいさん。ゆっくり見ていってください」

 老人は感謝の意味を込めて微笑み、本を物色し始める。そして、一冊の本を手に取り読み出した。

 しばらくすると、中年の男が老人に店番を頼み席を外した。そして、二本の缶コーヒーを手に戻ってきた。

「おじいさんもよかったらどうです?」

 中年の男は持っていたうちの一本を差し出す。

「すまんのう。ありがたくいただくよ」

 老人は読んでいた本を置き、缶コーヒーを受け取り、ひとくち口をつけた。

「あっ、おじいさん!お久しぶりです」

 老人に若い女性が声を掛けてきた。

「やあ、お嬢さん。久しぶりじゃのう。店の最後の日以来かのう?」

「はい、そうですね。おじいさんもお元気そうで何よりです」

「店を閉めてからやることがなくて散歩することが日課になっての。前より元気になったくらいじゃわい。でも、たまに本が恋しくなって、こういう場所に足を伸ばしていまうんじゃ」

 老人は笑いながら話す。それを若い女性は笑顔で相槌を打ちながら聞いていた。

「おじいさんは相変わらず本の虫というか、古書に取り憑かれているようですね。もしかして……おじいさんのほうが取り憑く側だったりしませんよね」

「はっはっはっ!できるものならいっそ取り憑いてしまいたいわい」

 老人と若い女性は楽しそうに笑いあっていた。中年の男も釣られて笑う。

「あっ、いけない!」

 若い女性はふと公園の時計を見て慌てだした。

「どうしたんだい、お嬢さん?」

「私これからバイトで、遅刻ギリギリで近道するために公園横切ってたんです。それで、おじいさんがいるの見かけてついつい声かけちゃって……」

「そうかい?ありがとうの、お嬢さん。ほれ、急いでおるんじゃろ?早く行きなされ」

「はい!それじゃあ、おじいさん、また」

 若い女性は駆け足で去っていった。途中振り返って老人のほうに手を振っていたが、つまづきかけて体勢を崩すが、持ち直して駆けていった。

 その一連のやり取りを見ていた中年の男は老人に尋ねた。

「おじいさんのお孫さんか何かですか?」

「いや、一ヶ月くらい前に閉めたわしの店の最後のお客さんじゃよ」

「へー。どんな店をしていたんですか?」

 老人はその質問に懐かしみながら答える。

「埃っぽい古書店じゃよ」

 そして、閉店の日を思い出しながらぼそりと呟く。


「あのお嬢さん、前と雰囲気が変わったかのう。以前とは人が変わったようじゃ……」

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