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あの頃のあなた  作者: yui
5/15

*渡り廊下


「懐かしいだろう、その写真」

森下先生の声に写真から顔をあげ、頷く。

「川村たちはもう大学生なのか。早いなあ」

嬉しそうに笑う先生に、わたしまで嬉しくなる。

「思い出話もしたいところだけど、まずは絵をとりに行くか。美術室にあるから、一緒に行こう」

「はい」

職員室を出て美術室に向かう。

美術室は、理科室や大家庭科室などと一緒に、別館にある。本館と別館は隣接されているが、3階にある渡り廊下からしか行くことができない。あとから別館を付け加えるように建てたからそうなったらしい。面倒だと不評の別館だが、音楽室もあるためわたしにとっては親しみ深い。

3階まで登り、渡り廊下を渡る。

別館が好きな理由は、この渡り廊下でもある。両側に窓が付いていて、光が差し込むこの空間はなんだか落ち着く。それに、ここからも校庭が見えるんだ。



「川村さん!」



ここを歩くと、祐輝の声が聞こえる気がする。

あの時の声が。




***




〜中2春〜



クラスで隠れんぼをしてから1週間が過ぎた。

教室では、いつものように小山くんは友達と教壇のあたりで喋ってる。


すごく楽しそう。

何話してるのかな……?


「柚菜? もーしもーしゆーなちゃーん?」

「あっ! 美奈! なに?」

「もうなにぼーっとしてんの。次、音楽だよ。移動しなきゃ」

苦笑しながら言う美奈。

「あ! そ、そうだね」

いけないいけない、またやっちゃった。


あれから、自分でも気づかないうちに、小山くんを探してて、気づいたら目で追っている。変なの。ストーカーみたいじゃん。ほんと、わたしどうしちゃったんだろう。

でも、知らなかった小山くんのことが、いっぱい分かった。


朝はいつもギリギリなこと。走ってくるのか、汗だくなんだよね。

国語の山本先生の授業で居眠りしてること。たまにかくんってなって驚いて起きるよね。

昼休みはすごい勢いで食べて外に行っちゃう。焼きそばパン、好きなのかな?


新しい小山くんを知るたびに、嬉しくなる。幸せな気持ちになる。

こんなの、初めてだよ……



***




少し遅刻ぎみで、美奈と2人で走って音楽室に向かう。

「間に合わないかも〜」

「やばいやばい!」

階段をかけおりて、渡り廊下を渡る。

その時、「川村さん!」と後ろから呼び止められた。

その声に、心臓がとくんと鳴る。

鼓動が速くなる心臓を抑えて振り向くと、やっぱり小山くんだった。

目があうと、さらに心臓が速くなった気がした。


「これ、落としたよ」

差し出された、わたしの楽譜。

「あ、ありがとう」

心臓が苦しいくらい煩くて、目もまともに見れずに受けとる。


なんだか顔が熱い。息も止まっちゃう。

「小山〜」

小山くんを呼ぶ声が聞こえて、小山くんは走って行ってしまった。

渡された楽譜を見る。また胸がきゅーんと締め付けられるような感覚。

「柚菜〜なにしてるの? まじで間に合わないって!」

遠くから聞こえる美奈の焦った声で我にかえり、音楽室に向かって走ったわたしの心臓は、まだいつもより速かった。










あの時はまだ、恋なんて知らなかったから、ドキドキの1つ1つが初めてだったんだ。



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