*校庭
正門を通って、土の校庭に足を踏み入れる。
土曜日の午後ということもあり、サッカー部が部活をしていた。
目を閉じると、いつもの黄色の練習着を着てボールを追いかける祐輝の姿が浮かぶ。何度遠くから見つめたことだろう。
校舎をふりあおぐ。校庭に面した3階の小さな窓。あの音楽室の窓から、走り回っている何人もの中からあなたを見つけ出すのは、わたしの特技だったよ。
***
〜中2春〜
新学年になり、新しいクラスになって最初の土曜日。お弁当を食べて、いつものように、親友の天野美奈と吹奏楽部の練習が行われる音楽室に向かう。
「今年も柚菜と同じクラスなんてラッキー!」
「ねー!」
美奈と今年も同じクラスになれたことを喜びながら、30分も早く音楽室についた。
「まだ誰もいないねー」
美奈が音楽室に入り、両手を広げて言う。
「だって早いもん。でもわたし、誰もいない音楽室好きだな」
「分かる! そ、れ、に!」
「なによ美奈、そのにやにやした顔は」
「薮先輩のサッカー姿をこっそりみられる特等席だしねっ」
美奈はそういうとスクバを放り投げて窓辺に走っていった。
「そうだよねー!」
わたしも美奈を追いかけて窓辺に向かう。
薮先輩とは、学校一のイケメンで、サッカー部のキャプテン。この音楽室はちょうど校庭に面していて、
サッカー部のようすがよく見えるのだ。
「今日も薮先輩かっこいいー!」
「うん」
背の高い薮先輩は、探さなくてもすぐに見つかる。
美奈は薮先輩が大好きで、わたしはそんな美奈に影響されて薮先輩に憧れるようになり、先輩のかっこいい姿をよくここから二人で見るのだ。
「あれ? あれ小山じゃない?」
小山が校庭を指差していう。
「小山?」
初めて耳にする名前だった。
「小山祐輝。同じクラスじゃん」
「そうだっけ? まだ新しいクラスの男子分からないもん。どれ?」
「ほら、あの黄色いやつ」校庭に目をこらすと、ちょうど黄色の練習着を着た男の子が、ボールを取った。
「今ボール持ってる人?」
「そうそう。小山二年なのにゲームに出てるなんて、うまいんだー」
「へえ」
走る黄色の練習着を目で追いかける。
どちらかというと背の小さいのに走るのはすごく速くて、あっという間にゴール前。
あ、シュート……!
"ピー"
「すごーい!小山ゴール決めた!」
黄色の練習着の彼は、嬉しそうにガッツポーズをしている。
「あー! 小山、薮先輩に肩ポンポンって叩かれてる! いいなー!羨ましいよ〜」
「美奈ったら誰にやきもち妬いてんの」
美奈に苦笑しながら、わたしの視線は、今はもうまた走り出している、黄色の練習着から離れない。
それからわたしが窓から見つめるのは、薮先輩じゃなくて、祐輝の背中になったんだよ。