異形の怪物
「逃げろ!」
守が叫んだ。
俺は我に返って反射的に右に跳んだ。
斧が振り下ろされた衝撃で俺は吹っ飛ばされた。
「壁の後ろに隠れるんだ!」
俺が叫ぶと、皆はすでにコロシアムにいくつかあるある壁に向かって走っていた。
壁の後ろで合流した俺達は、全員顔面蒼白だった。
「何やあれ?」
劉賢が聞く。
「わからない。あれがテストって事なのかしら」
「あれを倒せってことか?無理だって。
見ただろ?斧を振り下ろした衝撃で体が吹っ飛んだぜ」
俺が言うが、
「でも、あれを何とかしないとどうしようもないよ。ここでじっとしててもいずれは見つかるんだから」
守が言った。
「そうや、俺は一人でもいくで」
そう言って劉賢が壁から出ようとする。
「待って、劉賢君。何か作戦を立てないと。皆もそれでいいね?」
「分かったわ」
美玲が言う。
「仕方ないか...」
俺もしぶしぶ同意する。が、
「わ、私は戦うなんて出来ないよ」
麗奈が震えている。
「はっ。腰抜けはここでずっとビクビクしとけ」
劉賢が言う。
言い過ぎじゃないかと言おうとしたら、
壁の外を覗いていた美玲が声を上げた。
「ねえ!もうそこまで来てるわよ!」
それを聞いた劉賢が、
「作戦なんか聞いてられへん。俺はいくで」
そう言ってグローブをはめながら走って行った。
「あっ、待つんだ!くそ、僕がこれでサポートするから、2人は敵の注意をひきつけてくれ」
そう言ってハンドガンに弾をこめながら守も走っていった。
「忍君もいこ!」
美玲も日本刀片手に走っていった。
「ここで待ってて。俺達で何とかしてくるから」
麗奈にそう言って、俺も壁から出て行った。
壁から出ると、すでに戦闘は始まっていた。
守が銃で注意をひきつけて、2人が攻撃する、という具合だ。だが、怪物にはあまり効いていないようだ。
「悪い、遅れた!」
叫びながら剣を抜き、怪物の後ろを斬りつけた。
だが、硬い皮膚にかすり傷がついた程度だった。
(効いてない!?)
怪物がこちらに気づき、斧を振り下ろした。
俺はあわてて逃げた。その隙に三人が追撃をかける。
と、怪物が一瞬怯んだ。
よくみると、守の撃った弾が怪物の後頭部にヒットしたようだ。
「弱点は後頭部だ!」
俺が叫ぶが、
「でも私達は届かないわよ!」
美玲が叫び返した。
たしかに、守の銃で無ければ巨大な怪物の後頭部には届かないのだ。
「守!俺が奴をひきつけるから、攻撃後の隙に、弱点を攻撃しろ!」
「分かった!」
俺は走って、敵の正面に立った。怪物は、斧を俺に振り下ろした。
体が反射的に逃げようとしたが、理性で押さえつけた。
(まだだ...まだ....今だ)
俺は思いっきり跳んだ。今度は吹き飛ばされずにすんだようだ。
起き上がると、守が攻撃していた。
怪物はだいぶ弱ってきてるようだ。
チャンスと思い、俺は敵に斬りつけようとした。
その時、弱っていたはずの怪物が急に暴れ出し、俺は体勢を崩してしまった。
その瞬間、怪物が斧を振り下ろした。
他の三人が攻撃するも、怪物は動きを止めない。
(やばいな。ここまでかよ!くそっ!こんなところで!)
俺が覚悟を決めた。その時、
「ダメーーーー!!」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
分かったのは、俺が無事だということと、怪物が倒れて、弱点が丸見えで、チャンスだと言うことだ。
俺は無意識の内に動いていた。
「ソードクロス!」
無意識に叫ぶと、俺の体がうす赤く光り、剣が勝手に縦横に動き、怪物の後頭部を十字型に切り裂いた。
剣は深々と傷跡を残し、怪物は息絶えた。
「やった...のか?」
俺が呟くと、守と美玲が駆けつけてきた。
「やったね、忍君!君が倒したんだよ!」
「さっきのどうやったの?」
「それが、よくわからないんだ。体が勝手に動いたんだ」
俺が困惑していると、ファンファーレがなり響いた。
(なんだ、この人を小馬鹿にしたようなファンファーレは?)
そう思っていると、例の男の声がした。
「おめでとうございます!皆さんは無事テストに合格しました!では合格者がいる部屋にご案内します」
そう言うと、またあの体が浮く様な感覚がしたと思うと、目の前が光で覆われた。