凄愴9
雪の日の教会は、蝋燭ではなく蛍光灯が点される。その代わり、外で冷えてしまったからだを温めるため、暖炉で薪が焚かれていた。
少々冷えているくらいの室温になり、ミサが執り行われた。
神父の装いも、いつものシンプルな詰襟の服に、厚手の羽織と毛皮の襟巻きを着込んでいる。クレスラスは足もとまであるロングコートに厚手の手袋を嵌めていた。
胸元に輝く十字架をしっかりと握り締め、神父の言葉を受け止める。だが、なぜか今日はまったく身に入らなかった。
自分が唱える箇所も、いつも感情移入してしまうのに、今日は棒読みのようだ。結局、終わった後に神父に問いただされる羽目になってしまった。
誰もいなくなった礼拝堂で、座るクレスラスの前に神父が立ちはだかる。
「初めてですね。クレスラスがこんなにも神を冒涜するようなことをするのは……」
「神父……様……」
「体調が悪いのなら休みなさいと、いつも言っていますよね?あんな棒読みで神を崇めたところで、神が嘆くだけです」
「神父様、違うのです!」
見上げた先の神父の表情は、硬い。
いつも穏やかな神父が、こんなにも起こっているのは初めてで、クレスラスは混乱していた。
「何が違うのですか……?」
「……」
「―――あなたが話したくないのなら、話すようにさせてあげますよ」
「え……?―――……っ!」
一瞬。気がつけば長椅子に押さえつけられていた。
右肩と両足を、左手と両足でそれぞれ固定され、空いた手で顎を摑まれる。
「美しい、美しいクレスラス……。あなたは私の思い通りに信者を増やしてくれればいいのです。この私の為にね……!」
今まで聞いたこともない、低い声。
押さえつけられる力の強さ。
恐ろしく豹変した、その顔……。
笑っていた目は眉近くまで捲くれ上がり、ぎょろっとした眼球が顕になる。開けた口からは、顎に届くほどに尖った犬歯が現れていた。
「っ……!」
口の端から垂れてくる涎が、首の真横に落ちた。ジュッ、と音と湯気を立て、それが酸性だと示す。
「お前がこのまま私に身も心も委ねれば……お前の力が私のものと混じり、私は更に強大な力を手に入れることができるのだ……!」
「……神父様……。最初から……そのつもりで……?」
「でなければ、お前のような爆弾のような生き物……誰が!」
「―――……!」
神父だったはずの顔はすでに無く、押さえつける手には尖った爪が伸びている。色白だった肌も、醜い色に変わっていた。
「……あなたを信じていたのに!親に売られ、教授たちに弄ばれた俺を、優しく包んでくれたっ、あなたを……!」
知らずに、涙が溢れてくる。
「まったく人を信用しようとしないお前から信頼を掴むのは、正直骨が折れたよ。だが、そんな苦労も、今このときのための布石だと思えば安いもんだ。さあ、喰わせろ!」
口が大きく、狼のように前に伸びてくる。それを開くと子ども一人が余裕で入ってしまうほどになった。
「いっただきま~す!」
口が迫ってくる。
クレスラスは目を瞑り、歯を食いしばった。……せめて、叫び声を上げないように。