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天使の涙  作者: 聖 怜夕
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凄愴6

 久しぶりに参加したミサも、あまり集中できずにいた。


 神父の姿を見るたびに、あの一言が頭の中をぎる。


 休んでいた間にこけてしまった頬が、参列している女性たちの母性本能をくすぐっていることに気づくことも無く、クレスラスはいつもの仕事を黙々と過ごした。


 ミサが終わり、いつもならすぐ壇上を発つのだが、休んでいた間の礼を含めてまだ座っている人々のもとへ歩く。


 少しざわついていたのに、クレスラスの姿が近づくとシン、となる。女性たちの表情を一通り見渡して、


「みなさん、ご心配をおかけしました。……このとおり復帰できるまで回復いたしました。これも、皆様からのご好意のおかげだと思っております……。ありがとうございました……」


 深く、頭を下げた。


 その姿を後ろから見ていた神父は思う。


―――……うまい遣り方だ……。


「お礼といたしまして、奥の大広間に軽食を用意しています。もしよろしければご賞味いただければ幸いです」


 女性たちはそれを聞くと、我先にと飛び出した。


 残された男性や子どもたちに近づくと、クレスラスは微笑み、


「皆さんもぜひどうぞ。お菓子も用意していますので……」


「やったー!」


「クレス先生、さっすがー!」


 子どもたちも飛び跳ねて走り出す。


 年配の参拝者には、少し狭いが談話室に温かいお茶を用意していると、案内した。


「ほう……。見事ですね」


「ありがとうございます」


「ハイドロヂェン殿。病み上がりにもかかわらず、こんな老人たちにまで気を遣ってくれてありがとう」


「いつも皆様には言葉にできないほどの支援をいただいておりますし。こういったことしかできませんが、喜んでいただいて安心しました」


 数人の紅茶フリークの老人たちには、やわらかい口当たりの、煮込みキャラメルミルクティ。茶葉二倍のお茶に生クリームとキャラメルソース、シナモンパウダーを上からトッピングしている。一見すると若者向けの飲み物だが、上に生クリームを乗せているので冷めにくく、からだが温まるのは早いし、シナモンの香りで気持ちもリフレッシュする。通常の倍の濃いお茶の味も損なわれること無く、きちんと風味良く淹れられていた。


 手作りのスコーンはプレーンとココナッツ、シナモンの三種類。五種類のジャムも用意した。


 人々の笑顔を見てほっとしたところに、子どもたちが早く大広間に来い、と呼びに来た。客人に抜けることを詫び、三人の子どもたちに両手をぐいぐいと引っ張られ、大広間に到着する。


 扉を開けると、一斉の拍手に迎えられた。


 びっくりしていると、子どもたちが声を合わせて叫ぶ。


「クレス先生!お帰りなさい!」


「―――……!」


 堪えられない感情が、内側から溢れてくる。


 何よりも変えがたい賛辞を、一身に受けた。


―――……俺は……神以外の人々にも愛されている……?


 そう、捉えてもいいのだろうか?


 愛なんて時と共に消えていく、その場しのぎの言葉でしかないと思っていた。


 フロムローズの想いすら、無かったことにしようとしていた。


 何よりも……。


「……」


「クレス先生……?」


 突然黙ったクレスラスを心配するように、子どもたちが顔色を覗いてくる。


「まだ、具合悪いの……?」


「……ぁ……いや……」


 大丈夫だ、と言って婦人たちの中に入った。


「ハイドロヂェン様が無事にミサに戻ってくることができてよかったですわ」


「そうですよ。子どもたちが勉強ができなくてつまらないと、駄々をこねて……」


「神父様が、次のミサにはいらっしゃるように、神様に祈りましょうと言ってくださったから……」


「本当に……」


「皆さんの祈りのおかげですよ。助かりました……。熱が高すぎて、あまり覚えていないのですが、たくさんの声を聴いたような気がしました……。きっと、皆さんの声だったのですね」


「まあ!」


「私の声よ!」


「い~え!私だわ!」


「……」


 誰も、嘘も方便という言葉に気づいていない。


「ちょっと、失礼します」


 私だ、私だと争っている輪から抜け、食事をしていた神父の元にたどり着いた。


「神父様……」


「クレスラス。料理、本当に美味しいですよ。皆さんが絶品とおっしゃっていましたよ。……どうかしましたか?もしや、体調が優れないとでも……?」


 楽しそうだったのに、すぐ顔色を変えて訊いてくる。


 それは違うから大丈夫だと言うと、ほっとした様。


「すみません、神父様。……出ますので、皆さんを、お願いします……!」


 少し早口で伝えると、神父の返事も待たずに駆け出した。


 残された神父はしばらく呆気に取られていたが、姿が見えなくなると冷笑を浮かべた。


 その笑みに気づいた者はいなかった。



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