没落貴族の娘ですが、家名を取り戻すため蒸気邦で蒸気侍になります。
作者より
この短編は、『蒸気邦』の世界を、新人伝令士テンシの視点から紹介するためのプロローグ的な物語です。
蒸気邦の日常や文化、人々の暮らしを、彼の「最初の走り」を通して感じていただければ嬉しいです。
本編では主人公が変わり、家名を取り戻すために蒸気侍を目指す少女の物語が始まります。
この短編が、蒸気邦という世界への入り口になれば幸いです。
「キネティックコア、起動! 蒸気邦へ行ってきます!」
蒸気中継所は、温かい真鍮と加圧蒸気の匂いがした。
温かい空気の着実な脈動が、換気口を通して押し寄せる。まるで中継所が呼吸しているかのように。銅管が各壁に沿って静かに蒸気を吹いている。計器類がカチカチと動く。円筒が回転する。中の全員が、計画的で、目的意識のある効果的な動きをしていた。なぜなら、建物全体が、圧力とリズムによって動かされているからだ。
天司は、計画的でも、目的意識的でも、感じていなかった。
彼は両手を体の脇に置いて、受付カウンターに立っていた。ここに属している人のように見えようとして。彼は十七歳。配達員としての勤務を始めて一週間。これが、初めての単独走行だった。
先輩配達員の正太が、伝言筒をカウンターの上に置いた。
それは、天司が思っていたより小さかった。漆黒に塗られ、両端が帝国の菊紋の赤い蝋で封じられている。発信元を示す印はない。宛先を示す印もない。ただ、封蝋と、その重みだけ。
「新米配達員には、必ず走行任務が与えられる」 正太が言った。彼は四十代の、がっしりした男だった。前腕は縄のように固く、声には特に感情が込められていなかった。「空路を得る前に、街路を学ぶ。街路を学ぶ前に、屋根を学ぶ」
「はい」
「圧力坂の兵舎。第三中継地点。知っているか?」
「街の地図は、調べました」
正太は、地図を調べた若者を見る、経験者のように、天司を見た。「良し。ならば、迷うことはないだろう」
彼は筒をカウンターの向こうへ滑らせた。天司は両手でそれを受け取り、封蝋を確認した。両端とも無傷。蝋にひび割れなし。それを腰の携行帯に留めた。腰に当たる重みを感じた。軽い。中身は、ほとんど何もないかのように。
何が入っているのだろうと思った。
尋ねなかった。
正太は、奥の壁の備品棚へと移動した。動的核心が、充電台に並んでぶら下がっている。ハウジングの中では、フライホイールが休眠している。それぞれが、細い銅線で中継所の地熱供給に接続されている。正太はためらわずに一つを選んだ。中段、左から三番目。それを充電台から外し、天司のところへ運んだ。
「向きを変えろ」
天司は向きを変えた。核心が背中に装着されるのを感じた。取り付け金具が、配達員のベストの受け皿に、カチッ、カチッ、カチッと、確かな音を立てて固定される。それから、正太の手が接続部を効率的に動かす。締め付け、確認、再び締め付け。
「起動スイッチは、左肩のストラップにある」正太が言った。「仕組みは、わかっているな?」
「フライホイールが運動エネルギーを蓄える。核心は、動きと衝撃から充電し、必要に応じて脚部と腕部のチャンネルを通して放出する。勢いを積めば積むほど、使えるエネルギーも増える」
「そして、もし一気に使い切ったら?」
「核心は冷える。回復するまで、自分の脚で走る」
「回復には、どのくらいかかる?」
「動きによる。普通の走行で十分。衝撃を受け入れれば、より短い」
正太は、天司の正面に回った。彼は同じ無表情な表情で、しばらく天司を見つめた。それから、手を伸ばし、腰の筒を軽く叩いた。
「それを壊すな」
「はい」
「封蝋は、中身よりも重要だ。壊れた封蝋で到着すれば、到着しなかったのと同じだ」 彼は間を置いた。「実際、それより悪い」
天司はうなずいた。
正太は一歩下がり、それ以上は何も言わなかった。その姿勢が、解散を意味していた。
天司は手を上げ、左肩のストラップの起動スイッチを見つけ、押した。
核心が、唸った。
最初は深く、低く、ほとんど聴覚の閾値以下だった。それから、フライホイールが回転を始めるにつれて、音程が上がっていく。ゆっくりとした加速が、徐々に速くなる。ジャイロスコープの重みが、その軸を見つける。最初に背骨に感じた。それから肩。そして、奇妙な、広がる軽さが、腰を通り、脚へと降りていく。まるで、床に押し付けていた重力が、その把持を緩めることを決めたかのように。
彼の装甲は、何も感じさせなかった。
片足を試しに上げた。下ろした。その動きは、ほとんど方向感覚を失うほど、楽に感じられた。
彼は、正太を見た。
正太は、彼を見返した。
「門が待っている」 先輩配達員は言った。
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天司は、走った。
彼は、ただ跳んだのではなかった。圧力弁を爆発させたのだ。ブーツが粘土瓦の縁を蹴るや否や、背中の第三世代核心が、毎分二万八千回転で悲鳴を上げた。内部の歯車が、唸る。制御ローターが、海風に向かって傾く。足首の排気口から、蒸気が噴出した。
シューッ!
屋根が、彼の下から消えた。
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今日は、配達員としての初日だ。
先輩は、どの新米配達員にも走行任務が与えられると言う。個人的には、ただ私たちが屋根から落ちるのを見るのが好きなだけだと思う。
笑った。
緊張が、興奮に変わった。
再び跳んだ。
そして、再び。
屋根が、彼の下から消えた。
風が、耳元を吹き抜ける。跳躍のたびに、足首から蒸気がシューッと音を立てる。跳躍のたびに、跳躍のたびに、脚が砕けるはずの着地が、代わりに彼を再び空へと打ち上げる。
私は、飛んでいた。
定気坂の街の屋根が、銅の海のように広がる。粘土瓦が、午後の日差しに輝く。煙突が、白い煙を吐き出す。下のどこかで、街は、私には見えない何百万もの命のハミングで、ざわめいている。
跳ぶ。着地する。再び跳ぶ。
これこそが、私が生まれるべくして生まれたことだ。
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市場地区を横断中、低い屋根の上で速度を落とした。下に、子供たちの群れが集まっていた。ミニチュアの動的独楽を回している。それは、地面のすぐ上で、ハミングしながら空中に浮かんでいる。一番高く飛んだ独楽が、勝ちだ。
速度を落とした。
緩んだ瓦で、足が滑った。
街が、傾いた。
一瞬、縁を越えると思った。
その時、核心が唸った。
制御ローターが、うなりをあげた。
身体が、急に起き上がった。
二度、よろめき、バランスを取った。
それが、第三の車輪の役割か。
体勢を整え、広場へと降り立った。
一人の少年が、見上げた。目を大きく見開いて。
「一緒に遊びますか、配達員さん?」
彼は、両方の小さな手で、自分の独楽を差し出した。私は、しゃがみ込み、それを受け取った...
---***---
……彼の荒い指が、私の指に触れた時、全てがより温かく感じられた。
配達員の手は、硬く厚く、何時間も走り続けてきたかのようだった。しかし、彼の握りは、私の独楽を受け取る時、優しかった。蒸気が、彼の肩から湯気のように立ち上る。彼の核心は、装甲の下で、着実に唸っている。彼は、まさに、祖母の夜語りの物語に出てくる英雄のように見えた。背が高く、確かで、街中に秘密の伝言を運んでいる。
私は、彼を見上げて、微笑んだ。
彼らは、国中に伝言を運ぶ。彼らは、蒸気鳥居を見る。彼らは、海岸に沿って走る。彼らは、大門の向こうに何があるか、知っている。
私も、いつか、屋根の上を走りたい。
顔に風を感じたい。自分の足首から蒸気がシューッと鳴るのを聞きたい。
天司の最初の配達が、うまくいきますように。
彼は、私の独楽を回した。すぐに、ほとんどすぐに、それはぐらついた。私は笑い、他の子供たちも一緒に笑い転げた。
次に、少女が前に進み出た。彼女の独楽は、完璧に回転した。誰よりも高く上がった。
「また負けた!」皆が歓声を上げた。
子供たちは、喜びに沸いた。
彼は、幼い少女に、あっさりと敗れた。
「あれは、陽菜だ。彼女は、この独楽遊びが、とても得意なんだ。いつも独楽を改良している」
「彼女は、技師になるよ」 彼らは言った。「あるいは、もっと偉大な何かに」
配達員は、首の後ろをこすった。足首の排気口から、蒸気が静かにシューッと漏れる。
子供たちは、くすくす笑った。陽菜の笑顔が、さらに広がった。
「あなたは、私より、これが上手いみたいだな」 彼は、気まずそうな笑みを浮かべて、独楽を私に返した...
---***---
……彼は、私の手からそれを受け取った。気まずそうに、蒸気が足首からシューッと噴き出し、私は屋根の上へと跳び上がった。
体勢を整えた。子供たちの笑い声が、まだ背後に響いている。腰の筒は、静かな重みだった。まだ届けるべき配達があることを、思い出させる。彼らに最後の一度、うなずき、それから圧力弁を作動させた。
蒸気がシューッと鳴った。屋根が呼んでいる。
跳び上がった。核心が背骨に沿って歌う。街のリズムに戻りながら。
蒸気侍の本部へ向かうルートを続ける。
別の配達員が、あまりに速く私の横を通過し、私たちはうなずき合うだけだった。
蒸気と動きの一瞬の閃光。鉄灰色の装甲の一瞬の輝き。そして、消えた。
彼の顔は見えなかった。彼の名前もわからない。
しかし、彼の速さは、わかった。
彼は、私より速い。より経験豊富だ。彼の核心は、より鋭い音で唸る。長年の勤務を物語る、高い音程で。
彼らが屋根の向こうに消えていくのを見る。
いつか、と思う。
いつか、あれが私になる。
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建物は、周囲の地区の上にそびえ立っていた。鉄と石の要塞。蒸気管が、金属の静脈のように外壁を這っている。圧力排気口が壁に沿って並び、午後の空気にリズミカルな蒸気の噴出を放っている。
速度を落とす。
開かれた訓練場の門を通り抜けて、
私は、軍の兵舎に到着した。
封筒を兵舎の中継将校に手渡したその時、それを聞いた。
カーン!
鋭い鋼の音が、開かれた訓練場から響いた。そして、また。
カーン!
続いて、加圧蒸気の見慣れたシューッという音。
私の足は、頭が命令を下す前に止まった。好奇心が、義務よりも強く引っ張った。一度、周囲を見回し、それから屋根に戻る代わりに、訓練場へと続くアーチ型の門に向かって、こっそりと滑り込んだ。
訓練場は、広く、補強された粘土瓦で舗装されていた。無数の衝撃の跡で傷ついている。その中心で、二人の蒸気侍が、模擬決闘に没頭していた。
彼らは、まるで生きている機械のように動いた。
両方とも、完全な動的戦闘装甲を身に着けていた。帝国の紋章が刻まれた、黒ずんだ鋼と真鍮の層状のプレート。太いホースと銅管が、彼らの手足に沿って這い、背中に装着された唸る核心から動力を供給している。力強い一歩ごとに、蒸気が足首と肩の排気口から、鋭く制御された噴出として放出される。
背の高い侍が、突き込んだ。刀が、空気を切る音を立てて。相手は、響き渡る音で、受け流した。衝撃が火花を散らし、両方の戦士のガントレットから、同期した蒸気の噴射が放たれ、反動を吸収した。背の低い方は、体をひねり、その勢いを利用して、低く回し蹴りを放った。相手は、それを跳び越えた。核心のジャイロスコープ安定装置が、空中で体をひねりながら、うなりをあげ、頭上からの打撃を繰り出した。
カーン!
圧力弁が、叫んだ。蒸気が、白い雲となって訓練場に立ちこめた。彼らの動きの力で、地面がわずかに震えた。彼らは、普通の兵士ではなかった。彼らは、機械の延長だった。全ての打撃、全ての回避、全ての蒸気の噴出は、計算された力だった。
視線をそらせなかった。
彼らの戦い方は、美しかった。残酷ではあったが、正確で、リズミカルでもあった。大地の鼓動そのものが動力を供給する、死の舞踏のように。一方の侍の核心は、持続的な使用で、かすかに橙色に輝いていた。もう一方は、跳躍のたびに、鋭い「シューッ」という噴出で、過剰な圧力を放出していた。彼らの兜は、牙を剥いた守護霊の形をしていて、磨かれた真鍮の面頬が、午後の日差しを反射していた。
一瞬、息を忘れた。自分の核心は、背中で静かに唸っている。彼らが身に着けている怪物と比べると、突然、小さく、単純に感じられた。これが、いつか私がなれるもの。屋根を跳び回る配達員だけでなく、生きた蒸気と鋼のように動ける戦士に。
自分が気づかずに、近づいていたに違いない。
深い声が、戦闘の音を切り裂いた。
「仕事に戻れ、配達員」
教官。こめかみが白髪の、年配の侍。私の倍の大きさの核心を背負って、訓練場の端に立ち、腕を組んでいた。その視線は、厳しかったが、不親切ではなかった。
すぐに背筋を伸ばした。頬が熱くなる。「はい!」
素早くお辞儀をし、急いで立ち去った。ブーツが瓦をカチカチと鳴らす。しかし、外壁を登り、屋根の上へと跳び戻っても、そのイメージは、脳裏に焼き付いていた。刀の閃光。蒸気のリズミカルなシューッという音。蒸気侍の、生の力。
急いで立ち去る。
工房の列を通り過ぎる。整備士たちが、圧力管からぶら下がって、漏れを修理している。
彼らは、安全帯でぶら下がり、道具をベルトに付け、手にレンチを持っている。蒸気が、彼らが密封している亀裂からシューッと漏れる。真鍮の継ぎ手が、午後の光に輝く。
一人が、私に気づく。彼は、レンチでのろのろと敬礼をした。
うなずき返す。
彼らの下で、蒸気が石畳の上に溜まっている。空気は、熱い金属と油の匂いがする。
これらは、街を動かし続けている人々なのだ、と気づく。彼らがいなければ、核心は機能しなくなる。圧力本管は破裂する。配達員は、止まる。
少し速く走る。彼らの仕事に、感謝しながら。
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街を見下ろす通信柱を登る。
頂上でバランスを取る。風が、服を引っ張る。
蒸気通信機を取り出す。圧力針が、真鍮の計器の上を動く。
配達完了を報告する。
本部が、受領を確認する。
初めての任務が、完了した。
中継所に戻るまでの残り時間で、私は足を海岸へと向けた。核心の唸りは、背中に心地よいリズムで落ち着いていた。私のルートは、古代の蒸気鳥居が並ぶ長い谷を通っていた。
門は、次々とそびえ立っていた。そびえ立つ朱色のアーチ。石から彫り出され、真鍮と銅で補強されている。地熱蒸気は、その柱に刻まれた水路を着実に流れ、注意深く配置された排気口から、静かに笛を吹きながら、漏れ出していた。それぞれの鳥居が、呼吸しているようだった。温かく、鉱物の香りのする霧が、生きている絹のように、貫の周りに渦巻き、午後の光を捉えて、淡い金色に変えていた。
尾根道を歩くために速度を落とし、核心を低速回転させた。下の旅人たちは、静かに進んでいた。ある者は、アーチの下を通り過ぎる時、深くお辞儀をした。他の者は、ただ立ち止まり、目を閉じ、温かい蒸気を顔に当てていた。古代の建設者たちが、なぜこのように設計したのか、完全に理解している者はいなかった。ある者は、門は忘れられた神々を祀っていると言い、他の者は、それらは大地の生きた鼓動そのものを導いていると主張した。
真実は、建設者たちと共に、とっくに死んでいた。ただ、リズムと、敬意だけが残された。
滑らかな岩棚を見つけ、そこにしゃがみ込んで、見つめた。一つの鳥居が、他のものよりも高くそびえていた。その頂上には、回転する動的風車が、立ち上る蒸気の中で、絶え間なく回転していた。それが奏でる音は、ほとんど音楽的だった。巨大な笛で演奏される、低く、絶え間ない音のように。目を閉じ、温かい空気が全身を洗い流すのを感じた。その瞬間、腰の封筒の重みも、初めての単独走行のプレッシャーも、果てしない屋根の連なりも、全てが遠くに感じられた。
どんなだろうか、と思った。こんな門に満ちた土地を走るのは。全ての道、全ての峠で、ブーツの下から蒸気が立ち上るのを感じるのは。
最寄りの鳥居から、柔らかなチャイムの音が聞こえた。油紙の袈裟を着た僧侶の一団が、その下を通り過ぎる。彼らの動的な提灯は、脇で優しく揺れ、柔らかな琥珀色に輝いている。年配の僧侶の一人が、私の尾根の方へ顔を上げ、小さく、何かを知っているかのようなうなずきを送った。まるで、私の顔に書かれた問いが見えるかのように。
座ったまま、お辞儀を返した。
念のため。
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やがて立ち上がった。動きと共に、核心が再び目覚める。谷の道を進み、土地が開け、定気坂の巨大な外壁が視界に入る。世界の果てそのもののように、地平線を横切っていた。
兵士たちが、城壁に沿って巡回の準備をしていた。彼らが、自分の動的核心を装着し、圧力計を確認し、ガントレットから蒸気のシューッという音をテストするのを見た。彼らは、何年もこれをやってきた男たちの、たやすい自信で動いていた。誰も、壁の向こうにあるものを恐れているようには見えなかった。ただ……好奇心を持って。
階段を登り、日没時に壁の上に立った。大門が、私の下に広がっていた。巨大で、古代の、しっかりと閉ざされている。その向こうでは、未知の領域が、影の山々、遠くのきらめく海、そして、消えゆく黄金の光の層となって広がっていた。物語の中でしか聞いたことのない都市。走ったことのない道。蒸気を味わったことのない鳥居。
私は、長い間、そこに立っていた。風が、配達員のベストを引っ張る。筒は、腰に温かい。
微笑んだ。
「明日は」 私は地平線に向かってささやいた。「もっと遠くまで走る」




