銭湯にて2
辺りを見て回ったが、ここは中途半端な町以上の価値を見出しえなかった。駅前のちょっとした路地の裏手で外国人のグループが酒に酔ってなにやら談笑していた。彼が前を通りかかると、外国人たちは彼によくわからない言語で話しかけた。お前もビールを飲めと言わんばかりに、ビール瓶をかざしてくる。彼は中指を立て、ファック!と大声で叫んだ。外国人の一人が彼の腕をつかんで仲間に入れようとした。彼はその腕を振り払って、全力でその場から逃げた。酔っ払いとの距離はみるみる広がり、路地を曲がったところで黒人の姿は見えなくなった。
日本も大量の外国人が押し寄せてきて、治安が悪くなってきたな。彼はそう思った。
駅前の路地裏では、朝まで飲み明かしたと思われるグループがあちこちに散見された。キャットフードを買うスーパーも見つけ、彼はグループホームに帰ることにした。時刻は6時45分だった。
玄関の前には子猫がいて、かなり大きいサイズのバッタを今日の捧げものにしたようだった。
「今日も捧げものありがとう。だけどな、バッタは僕は食べないんだ」
二階からバッタの死骸を放り投げ、玄関の扉を開けた。
子猫も一緒に入ってくる。子猫はまた全身を汚していて、タオルで拭いてやった。彼はウィンストンに火を付け、朝食までの時間を待った。
彼は7時ちょうどに食堂へ向かった。中に入ると管理人がテーブルの上に朝食を用意していた。みそ汁からはもうもうと湯気が上がっていた。
「おはようございます」
「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「はい、おかげさまで」
「そしたら、朝食の前にバイタルチェックをしてね」
隅の小さいテーブルにオムロンの血圧計と体温を測る体温計が用意されていて、それを記入するシートが置かれていた。既にシートの一か所が埋められていて、さっきの少年のものだろうか。
「僕の隣の部屋の子、なんていう名前なんですか?」
「桐谷くんだよ、軽度発達障害でね。だけど週に5日、清掃員の仕事をしているよ。歳は25歳。食堂では一切しゃべらない子だね」
「へえ」
彼は食卓について朝食を食べ始めた。
「なんか困ってることとかある? あったら遠慮なく言ってね」
「特には」
「彼女はいるの?」
「いえ、いないです。自分の世話を見るので精一杯なので」
「障害者って大変ね」
「僕は割と楽観的に考えていますが」
「そう。ならいいじゃない。すぐに彼女もできるわよ」
「今日はサウナ行ってきます」
「整っちゃう?」
「できれば」
彼はあっという間に朝食を食べた。礼を言って食堂を出た。冬の空は徐々に太陽が昇っていた。




