違和感2
二人はサウナを出た。お餅がぐーっと伸びをする。揺れる彼女の長い髪。駐車場から続々と出てくる車のエンジン音。彼の胸はキュッと締め付けられた。
食堂での一コマ。店員の不自然な態度。お餅は本当に存在しているのか? 不安になった彼はお餅の肩に触れてみる。
たしかにそこには人のぬくもりがあった。大丈夫、お餅が存在しないわけがない。
「さ、僕はグループホームに帰るよ」
「私もついていく」
「いいけど、大学のほうは大丈夫なの?」
「,,,」
お餅は何も言わなかった。これ以上踏み入ってはいけない気がした。
二人はグループホームに帰った。グループホームに着くとお嬢が彼らを外で待っていた。その時、ちょうど一階の管理人室兼食堂から一宮が姿を現した。白髪交じりの1000円カットで短く整えられた髪。180センチ80キロの腹の出た大柄な身体。坂下は172センチだから、一宮のことは少し見上げる形になる。一宮がいると坂下は安心した気持ちになる。
「おお、坂下さん。お久しぶりです。俺は今日から一週間、体験入所です」
お嬢は坂下の元へ駆け寄ってきた。坂下がお嬢を抱っこすると、お嬢はにゃあと鳴いた。
「元気にしてましたか、一宮さん」
「おかげさまで。可愛い子猫ですね。ずいぶん坂下さんに懐いているようですが」
「先日の体験入所の時に、グループホーム前で弱っているところを助けたんです。それから一緒に住むようになりまして,,,」
「助けてあげたんですね。とても立派な行為だと思います。えらいです。坂下さんは一人きりでお出かけですか?」
彼は再び違和感に襲われた。お餅のほうを見る。お餅は彼の横に立っている。
「一宮さん、彼女が見えませんか?」
「,,,」
一宮は何も言わなかった。「そうだ、坂下さん。近くにパチスロ屋があるのでちょっと行きませんか?」
「あいにく、お金をあまり持ってなくて,,,」
「それならこうしましょう。俺が5000円、坂下さんに貸します。もし負けたらその5000円は返さなくていいですよ」
「いいんですか?」
「心配しないでください。俺はフルタイムで週5働、20年働いているんですよ? 金の心配はいらないですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「よし!行きましょう」
「さすがに子猫は連れてけないですよね?」
「パチスロ屋はペット禁止です」
「お留守番してろ、お嬢」彼はお嬢を地面に下した。お嬢はすぐにお餅の元へ駆け寄り、お餅はしゃがんでお嬢を撫でている。坂下が心配そうな顔でお餅を見ると、彼女はバイバイと合図するように手を振った。これなら心配いらないだろう。
仕事が大変です。働くって簡単なことじゃないですよね。でも、執筆するために仕事をする。好きなことのために嫌なことをする。生きてくって大変です。




