迷い子1
「じゃあ、ウチに行こうか」
「うん」
二人は銭湯を出た。駅までの道を並んで歩いた。彼女はジーパンに茶色のコートを着ていた。駅に着くまでの間、会話はなかった。
新大久保駅に着いた。彼は改札に入ろうとすると、お餅は彼の袖を握った。
「どうやって電車に乗るの?」
「そりゃあ切符を買って入るのさ」
「私、電車乗ったことない」
「まさかぁ」
「切符の買い方教えて」
「本気で言ってるの?」
彼女は恥ずかしながらうなずいた。やれやれ、一体どんな人生を送ったら電車に乗らずに済むんだ?
彼は切符を彼女の分買ってやった。彼女に渡すと、不思議そうに切符を眺めている。
「改札のここの部分に入れてみて」
「わかった」
彼女は切符を改札に入れるとそのまま立ち尽くしていた。彼は彼女の背中を押した。
「改札が開いたんだから中に入らないと」
「中に入っていいの?」
「もちろんさ」
二人は何とか駅のホームに降り立った。全く不思議な少女だ。
ほどなくして電車が来て、二人は電車に乗った。彼女は電車内を不思議そうに観察している。
電車が発進した。電車の揺れとともに彼女は転倒しそうになった。
「うわっ!」
彼は彼女の腰に手をまわして彼女を支えた。
「この宙にぶら下がっている丸いものは何?」
「つり革だよ。転ばないようにこうやってつかむのさ」
彼女は彼を見てつり革につかまった。
たった一駅だと言うのに彼はひどく疲れた。
目的の駅に着いた。
彼女が唐突に言った。「お腹すいた」
時計を見ると11時40分だった。もうお昼だ。
「何か買ってこうか」
二人はスーパーに入った。各々弁当を選んだ。そうだ、キャットフード買っていかないとな。
会計を済ませ、二人はグループホームに向かった。
グループホームに着くとにゃあにゃあと子猫が玄関の前で待っていた。子猫はひどく汚れていた。
玄関を開ける。彼女は一緒に入ってきた。子猫は一緒に入ってきた。
濡れタオルで子猫を拭いた。子猫は彼女に興味を持っている。彼女は子猫を観察し始めた。彼女に持ち上げられると、子猫は抵抗しなかった。
「この子、メスだ」
「そうなの?」
「うん。ペニスがついてないもの」
子猫は彼女から逃げた。彼の元へやってくる。子猫はにゃあにゃあと鳴いた。
彼はキャットフードを開け、皿に入れた。子猫はすごい勢いでキャットフードを食べ始めた。
「お嬢」
「何が?」
「この子の名前」
「まあ、メスだからいいんじゃないか」
「お昼食べましょ」
「そうだね」
二人はテーブルに弁当を広げた。お嬢が彼の足元に寄ってきた。彼は目玉焼きをお嬢にあげた。
二人は弁当を食べ終えた。彼は煙草に火を付けた。彼女も火を付ける。
「そろそろ帰る」
「ああ、お疲れ様」
お餅は煙草の火を消すと、手を振って帰っていった。
その後、一週間サウナに通ったがお餅の姿を見かけることはなかった。
こうして彼は一週間の体験入所を終え閉鎖病棟へ帰った。
歯の治療してもらいました~。
いや~、生きてるって幸せ。




