銭湯にて6
彼は若い大学生の、床に広がる血の光景が頭から離れなかった。気分を変えたいと思い、喫煙所へ向かった。扉を開けるとお餅がひとりちょこんと座って煙草をふかしていた。
「早い」
「ああ、ちょっとサウナに入る気分じゃなくなったんでね。君は?」
「女性サウナ、おばあさんがいっぱいで入れなかった」
彼はおばあさんでいっぱいのサウナを想像してみた。生産性の無い老人たちが額に汗して高温に耐えてる姿。きっと室内はお香の匂いが充満しているに違いない。先に逝ってしまった夫たち。
「湯船は? 入らなかったの?」
「湯船もおばあさんでいっぱいだった」
「そりゃどうしようもない」
「救急車」
「ああ、男性風呂で男が転んでね」
「たすかる?」
「それは救急隊の腕次第かな」
彼女は煙草を大きく吸い込んで肺に入れ、そして吐き出した。彼もウィンストンに火を付ける。
「子猫の名前は」
「名前? そういやまだ決めてなかったな」
「見てみたい」
「ウチに来るってこと?」
「うん」
「かまわないけど」
彼女は手を差し出してきた。吸いかけの煙草をよこせという意味だろう。彼は一口吸った煙草を手渡すと、彼女はウィンストンを吸った。
「ニコチンキツい」
「そりゃあ5ミリの人が12ミリを吸ったらキツいだろうね」
「間接キス」
「約束は結ばれたってわけね」
彼女は煙草を返してきた。彼は彼女が口を付けた煙草を一口吸ったが、イチゴの風味がした。
歯が痛いです。
なんとか治療してもらわねば。




