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命の灯  作者: 坂上きつね
第一章ー--坂下ー--
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銭湯にて3

 彼は自分の部屋に戻った。桐谷くんの抑圧された精神状態みたいなものが、彼の顔から見て取れたのでそれについてしばらくの間考えていた。

 通常、障害者は身体、精神問わず、家族、親戚から冷たい目で見られる。閉鎖病棟にいればわかることだが、いかに生活保護を受けている若い人の多いことだろう。古沢さんは親族と縁を切りA型作業所で働いている。もちろん障害者は最低賃金で働かさせられるから、月に頑張っても13~14万円がいいとこだ。たったそれだけのお金で一体何ができるというのだろう? もちろん旅行には行けないし、買いたい物だって我慢する生活だ。一体彼ら彼女らの精神は何によって保たれているのか? あるいはそこに哲学的意味なんてないのかもしれない。

 朝焼けのアパートで彼は一人そんなことを考えていた。彼自身は障害について楽観的でありながら、よそ様の障害についてはつい深く考えにふけってしまう癖があった。社会的弱者である障害者。

 でもたぶん健常者と、人生についての問題はさして変わらないものだと彼は思った。それ以上深く考えるのを彼はやめた。

 ウィンストンに火を付け、ぬるくなったコーヒーをすする。今日はサウナという目的があるから楽だと彼は思った。子猫が足元に寄ってきて彼のズボンを登ろうと必死に爪を立てている。

 暇つぶしに桐野夏生の「抱く女」のページをめくった。

 気づいた時には二時間が経過していた。読書は精神の療養だというのは彼の持論であるが、本を読むという行為は何かしら脳にリラックス作用をもたらすことは間違いない。時計を見ると9時20分だった。

 サウナに行く支度をして彼は部屋を出た。子猫も一緒に外へ出た。外は曇りでなんともぱっとしない天気だった。朝方空いていた道路もたくさんの車が行きかっている。彼は子猫の頭をぽんっとなでると、子猫は元気ににゃあにゃあと鳴いた。

 今日は木曜日だった。電車に乗ると大学生らしき集団がたくさん乗っていて電車内はガヤガヤしていた。一駅となりの新大久保駅で降りる。すると学生たちも一斉に駅で降りた。

 この近くに大学でもあるのだろうか、と彼は思った。

 20分ほど歩くと目的の温浴施設が目に入った。どうやら岩盤浴もあるらしい。岩盤浴は値段が高くなってしまうので彼は銭湯だけにした。

 喫煙所があったので彼は銭湯に入る前に一本煙草を吸おうと思った。喫煙所の中に入ると一人の少女がキャメルを吸っていた。

 「服に毛がついてる。犬?猫?」と彼女は唐突に言った。

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