7. 刑務所で
「こちらでモンスターが確認されたとの通報がありました。」
「刑務所じゃないですか?」
「モンスターは時と場所を選びません。」
レオ班長の代わりに一時的に赴任した班長と、モンスター狩りのために外に出た。
新しい班長と共にする初めての実戦。
彼に対する第一印象は、冷たい、厳格だ、だった。
それもそのはず、成人にもなっていない学生に敬語を使うとは、レオ班長からは聞けない言葉だったからだ。
新任の班長が眼鏡をかけ直し、言った。
「レオさんからお二人の話は聞いております。新人ですが、見どころはあると。」
「私たちにはそんな話はしてくれませんでしたけど……」
いつもすぐに拳が飛んでくるような人だったから。
他の人から私たちのことを褒めていたというのが信じられなかった。
「見た目とは違って恥ずかしがり屋な方です。」
「レオ班長がですか?そうは見えませんけど。」
ありえないと手を振るレン。
褒められたという話よりも、私もそっちの方が驚きだ。
「もう少し付き合えば分かります。人は見た目が全てではありませんから。おしゃべりはこれくらいにして、中に入ってみましょうか。その前に簡単にブリーフィングします。」
モンスター発生により、看守たちが防衛隊に通報したという。
彼らが武器を持っていてもモンスターに対応するのは不可能なので、外に出て通報したのだと。
「A級程度であれば、看守たちが刑務所から脱出することはできなかったでしょう。ランクは最大Bと仮定して動きますので、モンスターと遭遇しても命令なしには動かないでください。」
最悪でもB級であり、実際にはそれ以下だろうとのことだった。
B級であっても彼自身が対処できるため、相手の戦力を把握するまでは、私たちに前に出るなと指示した。
モンスターのランク付けには、その個体の強さが大きく影響するが、人間にどれほどの被害を与えるかも含まれる。
何もない山と都市に現れたモンスターのうち、どちらが人間に大きな被害を与えることができるかといえば、当然、都市に現れたモンスターだ。
しかし、それもB級程度に限った話で、A級と分類されたモンスターの討伐には、都市級の戦力が必要となる。
防衛隊でその程度のモンスターを一人で討伐できる戦力は指折り数えるほどだというが、マサヒロ隊長はそのうちの一人だった。
規格外の場合には国家級の戦力が必要となるが、その程度のモンスターは通常、自分だけの領域を持ち、地縛霊のようにそこから動かないため、事実上、B~A級に分類されるモンスターを一人で処理できるということだけでも相当な実力者だ。
「侵入します。」
私たちは閉ざされたドアを開けて刑務所に入った。
看守たちが出て行く時にドアを閉めただけだったので、侵入自体は容易だった。
「囚人たちがいる場所に行きましょう。」
都市に現れたモンスターがいる場所を探すなら。
大抵は人がどこに多く集まっているかを探せばよい。
ここは刑務所。
囚人たちが運動に出ているわけでもなく。
食事の時間でもなかったので、彼らがいる場所は一ヶ所だ。
慎重に動きながら、私たちは案内板を見て。
囚人たちがいると予想される収容棟へ移動した。
「それにしても…静かすぎませんか?」
レンの言う通り、あまりにも静かだ。
今まで私たちが相手にしたやつらは、遠くからでも怪声が聞こえたり、地形が破壊されたりして「ああ、この近くにいるな」と分かったものだが。
「人を敵対視しますが、モンスターもよく見るとそれぞれ個性があります。それにしてもこれは奇妙なことですね。もしかしたら分かりませんので、今からは討伐よりも捜索に目的を置きます。」
そう言って手信号を決めた。
手を上げて拳を握れば即座に逃げる。
上げた手を前に突き出せば攻撃するという合図だ。
収容棟に到着した。
ここも異常なほど静かだ。
事情を知らない人が見れば、何が起こったのか分からないほどに。
私は鉄格子の向こうに囚人がいる部屋を覗き込んだ。
「何もいません。」
「ここも人がいません。」
明白な異常現象。
「特殊能力を持つやつがいるようです。」
人が覚醒すると身体能力が上がったり、以前はなかった能力が生まれたりするように、奴らにも能力があるかもしれないという。
ほとんどは砲弾も通じないほどの無骨な身体能力を基盤とするが、稀に能力を持つモンスターもいるというので、もしかしたら今回がそのケースではないか……
「ゴクリ。」
誰もいない廊下に、喉仏が動く音がひときわ大きく聞こえた。
私とレンは新しい班長を見つめた。
このまま捜索を続けるのか、それとも別の指示を出すのか確認するためだ。
班長が眼鏡をかけ直し、口を開いた。
「帰還します。私一人なら続けていましたが…無理をする必要はありませんからね。報告すれば、防衛隊からすぐに適切な人員を送るでしょう。」
これ以上の捜索は危険だと判断。
引き返すことが決まったが、レンが指し示す方向からモンスターが現れた。
「…あそこ。」
大きさは成人の半分。
これだから目立たないのだ。
カチャ。
瞬間、班長が腰に差していたリボルバーを取り出した。
銃口がモンスターに向けられ、発砲すると。
弾が飛ぶたびに、奴の体にはサッカーボールほどの穴が開いた。
これが臨時班長の能力…
確かに一筋縄ではいかない人物だ。
私たちのような入りたての者たちとは能力の格が違った。
ドスン。
モンスターが床に倒れ、これで終わりかと思ったが。
目を閉じて開くと、私は以前とは違う空間にいた。
◇
レンは腰に差した剣を抜き、構えを直した。
少し前までは3人一緒にいたのに、いつの間にか一人になっていた。
別の空間に移動したのか?
周りを見回すと、そうではない。
元の場所にそのままいる。
私たちを引き離したということは、今の状況は敵が望む形なのだろう。
幻覚かどうか確認するため、レンは剣で腕を軽く切ってみた。
血が出て、チクッとした痛みが感じられる。
幻覚ではないのなら、敵は空間に関わる能力を持っている可能性が高い。
…これで合っているのか?
敵は控えめに見積もってもB級。
運が悪ければA級のモンスターだと推測された。
人生に未練はないが、まだユイが残っているので死にたくないのだが……
その時、曲がり角から班長に殺されたやつと同じモンスターが現れた。
분명体に穴が開いて死んだはずなのに…まさか同じ能力なのか?
レンは剣を立てて近づいてくるモンスターと何度か打ち合い、一撃を加えた。
倒れたモンスター。
これは一体どういうことだろう?
奴の身体能力は大したことはなかった。
敵の情報を把握するため。
剣で死体をまさぐると。
死体がゼリーのように溶けて地面に吸収された。
何が起こったのか気づく間もなく。
再び何かが近づいてくる音が聞こえてきた。
頭を上げて音のする方を確認した。
そこには彼が殺したモンスターと同じやつが現れた。
今度は一体ではなく二体。
それを見たレンの頭の中には不吉な考えが浮かんだ。
仮説に過ぎないが、それを知るには…いや、確認までしてみる必要はないだろう。
すぐに奴らを戦闘不能にして見守った。
死体が消えるのか、それとも残るのかを。
しばらく様子を見ていると。
生命活動だけ中断しなければ。
先ほどと同じようなことは起こらないようだった。
レンはモンスターの死体が消えると同時に別のやつらが現れたのを見て、殺さずに見守っていたのだが、臨時班長は心配ないが、ユマは大丈夫だろうかと心配になった。
鈍いから気づかないかもしれないが……
それでも短い時間ではあったが、訓練を受け、実戦経験も積みながら共に成長してきたので、心配はするが、今の危機をうまく乗り越えるだろうと信じている。
ユマがここから抜け出したとしても。
自分自身が抜け出せなければ何の意味があるだろう。
生きて会うためには、今は自分に集中すべき時だ。
床に顔を押し付けているやつらを残し、抜け出す隙間を探して周りを探した。
しかし、これといった成果を上げられなかったレンは、時間だけを過ごしていると感じ、自身の無力さに怒って衝動的に壁に向かって剣を振るった。
しかし、全く予想もしなかったことが起こった。
コンクリートでできているはずの壁の内部が空っぽに見えるではないか。
剣を差し込むと「スッと」入っていった。
レンは一歩後ろに下がって剣を振るった。
キィィィィィ。
人が入れるほど開いた空間。
レンの目には、まるで別の世界へ向かう門のように見えた。
じっとしていれば敵の思うがままになるだろうと考えたレンは、震える心を落ち着かせ、中に入ることを決意した。
「少年、今そこに入ったら死ぬぞ。自殺するつもりじゃないだろうな?」
「!!」
レンは自分を呼ぶ声に振り返った。
そこにはコートを着た一人の男が立っていた。
いつからそこにいたのだろうか。
彼の視線が、床に顔を押し付けているモンスターへと向かった。
レンは慎重に口を開いた。
「防衛隊から応援に来たんですか?」
「どうだろうな。助けに来たんだから…応援には違いないか?」
この男、防衛隊から来た人間ではない。
剣を握るレンの手に力がこもった。
剣撃の有効範囲に入っている男。
だが、斬れるとは思えなかった。
手に力を抜いた。
名も知らぬ男が微笑む。
「なぜ入ったら死ぬと言うんですか?」
「私たちがいる世界の次元じゃないからな。別の世界との境界の間だ。餡パンの餡みたいな場所だ。」
何という比喩かと思うが。
とにかく危険だということは分かった。
「じゃあ、あなたはここにどうやって入ったんですか?」
「友人の助けでな。何人か来たら警戒するだろうと思って一人で来たんだ。よくやっただろう?」
良い印象を与えたいのか、質問に漏れなく答える男。
事実の真偽は確認できないが、好意的な様子を見せたことで安心した。
これも彼が誘導した方向かもしれないが。
だからといって、先に敵対できるわけではなかった。
「他の友人たちは反対したんだが、私も少年に会いに来るのに無理をしたんだ。じっくり話したいんだが、時間がないから長くは話せないな。」
彼がレンに手を差し伸べながら言った。
「私と一緒に行こう。」
「…どこへですか?」
「防衛隊の仕事は何だ?モンスターを殺し、市民を守ることだろう?我々の目的も大して変わらない。少年の妹が病気だと言ったな?防衛隊にいても治療は難しいだろう。妹が目覚めるのを手伝ってやろう。」
ユイのことに言及する言葉に、レンは彼への警戒心を最大限に高めた。
「どのような理由で私と妹に手を出そうとするのか知りませんが、防衛隊でも首を横に振るようなことを簡単にできるなど、信用できる話ではありませんね。」
「私は嘘を口にするのが嫌いなんだ。だからと言ってここにいない人間を呼び出すこともできないし…私が信頼を示す必要があるな?腕を一本切ろう。」
「…?」
レンが正体不明の男の言葉の意味を考える間もなく、男は剣を抜き、片腕を切り落とした。
ザシュッー
血が流れるのを止血もせずに言う。
「私は回復能力者じゃない。私が腕を切ったのは、我々のチームには誰よりも優れた回復能力者がいることを示すためにこんな行動をしたんだ。これ以上信じないなら私にもどうすることもできないが…特に日本でモンスターが多く現れるのは知っているだろう?私は誰も解決しようとしないことをやろうとしているんだ。日本がより安全になるように。」
知っている。
異常なほど日本はモンスターの出現頻度が高いことを。
今まで日本に地震や津波、台風のような自然災害が多いように。
それも人間が制御できないことだから仕方ないと思っていたが、彼の話を聞くと、そうではないようだ。
亡くなった両親と妹が頭に浮かんだ。
レンの心の中に、モンスターへの怒りの火種が点火された。
「我々はモンスターが暴れる原因を取り除くために尽力していることを知ってほしい。私は少年に助けとなる可能性を見出したんだ。」
彼が片腕を上げて余裕のある仕草を見せた。
「嫌ならついて来なくてもいい。強制するわけじゃないからな。私もやる気のない人間はごめんだ。だが、妹を助けるチャンスは今しかないことを忘れるな。」
パッ。
その時、体を赤く染めた今までとは違うモンスターが現れた。
「ちょうど、家主が迎えに来たようだ。少し話してくる。それまで考えをまとめておいてほしい。」




