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魔導書を拾う  作者: kjms
54/54

54. 空から落ちてきた男

「!!」


キョウスケが消えた場所。

どういうわけか、一個のあんパンだけがポツンと置かれている。

それを見て、誰かが驚愕の声を上げた。


「人間があんパンに変わったぞ!」


いや、そんなはずはない。

どこかに潜んでいる覚醒者が、キョウスケを連れ去ったのだろう。

状況を素早く把握したアキは、ゲンドを連れてアヤノの傍へと動いた。


「移動するぞ」

「キョウスケは?」

「後で探しても遅くない」

「……」


その瞬間。

どこにいたのか、つい先ほどまでアキの探知能力に感知されなかった軍人たちが、フェンスを越えて姿を現した。


突如として現れた者たちに、ゲンドは眉間に皺を寄せて言った。


「周りに人が多すぎる」


ゲンドの覚醒能力は、空間を横断して移動する能力だ。

自分一人だけでなく、一定数の人間まで共に移動させることができるため、汎用性の高い能力だった。

だが今のように、ゲンドの周囲に能力の許容範囲を超える人数がいると、能力に負荷がかかって発動できなくなる。

大量の座標をアメリカ側にバラ撒き、予告もなく訪れた場所でこのような事態が起きたということは、相手が長い時間をかけて準備していたことを意味していた。


アヤノ一行と米軍が対峙を続けている中。


ドスン、と。


空から一人の男が降り立った。


「やあ! 遅れたわけじゃないよな? リヴァイはまだ来ていないのか。俺の勝ちだな」


アメリカの覚醒者、ジョンだった。

そうして周囲を見渡すと……

アヤノを見つけたジョンが手を差し伸べて言った。


「アヤノさん、久しぶり。そこにいないで、俺のところに来ないかい?」

「以前も言いませんでしたか? あなたは私のタイプではないと」

「そんなこと言われると、胸が痛むなあ。これでも結構イケメンだって言われるんだけどね」

「つきまとわれると困るのですが……もしかして、『可愛い』とか『お人好し』だとか、よく言われませんか?」

「えっ? 当たり! どうして分かったんだ?」

「ふふっ、女の言葉をあんまり真に受けてはいけませんよ」


アヤノの言葉を聞いたジョンは、ハッと気づいたように間抜けな顔をした。


「次に会ったら懲らしめてやらなきゃな。まあ……それはそれ、これはこれだ。長い話はしない。俺と一緒に来てもらおう」

「ここでジョンさんと行けば、アメリカに行くことになるんですよね?」

「そうなるだろうね。アメリカだって人が住む場所だ、悪くないよ。故郷を離れれば少しの間は寂しいかもしれないけど、アヤノさんが望むものなら大抵のことは叶えてあげられるし。アメリカは日本ほどモンスターの出現頻度も高くないから、アヤノさんのような戦闘職の覚醒者じゃなくても、比較的安全で心をすり減らす必要がないのがいいところさ」

「私は、それが嫌なんです」

「ん? 何がだい。望むものを何でも叶えるっていう話が?」

「いいえ。安全を保証するという言葉です」

「どうして? 最近の日本の情勢を考えれば、他国への移民も考慮に値すると思うけど。実際、そういう動きもあると聞いているし」


ジョンの言葉に、アヤノは静かに微笑んで言った。


「そうして渡ったアメリカで、私に自由はありますか?」

「自由? アメリカは自由の国だよ」


アヤノの言葉が理解できないといった様子で、首を傾げるジョン。


「表向きはそう標榜していても、自国の利益の前では、私のような個人に対して限りなく冷酷になれる国ではありませんか? 一生、監視される生活を送ることになりそうですが」

「……」

「……そんな経験は、今までだけで十分なんです」

「うーん……そう思うなら仕方ない。尊重するよ。でも、俺はアヤノさんを連れて行かなきゃならない状況なんだ。……悪いけど、そのまま帰してあげるわけにはいかないな」


その時、二人の話を聞いていたアキが割って入った。


「二人きりの話は終わったようだな。一つだけ聞かせろ」

「いいよ。あまり良い状況とは言えないけれど、俺たちの仲だ、そのくらい応じてあげよう」


ジロリ。


ジョンの意味深な言葉に、目は見えずとも険しい視線を送るアキ。

アキは以前、ジョンとカフェで二人きりで会ったことがある。その際、彼の提案を断ったことに遺恨を抱いていたのか、あのような可愛い嫌がらせをしてきたのだ。


「貴様らが考えているようなことではない」


それに対し、ゲンドが肩をすくめた。


「俺たちは何も言ってねえよ。なあ、アヤノさん?」


状況が気まずくなった、アキ。

わざとらしく咳払いを一つして、ジョンに言葉を投げかけた。


「こいつらはどうやって準備したんだ?」


アキの探知にかからなかった米軍のことを指して言った。

数人程度ならまだしも、これほどの人数を彼が見逃すというのは、アキの考えでは不可能に近い。


「ああ、それか……難しいことじゃないから教えてあげようかな。覚醒者が現れてから10年だ。アメリカの科学力は世界一だよ」

「……そうか」


親切な説明ではなかったが、ジョンが何を言いたいのかは理解できた。

テレビでも度々、覚醒者の能力やモンスターを用いた特定の実験が行われているという噂が出ていたからだ。

世の中の動きに関心がある者なら、知らないはずがない。

ただ、漠然ともっと遠い未来の話だと思っていたのだが。

いざこうして当事者として経験してみると、少々驚かざるを得なかった。


ジョンの言葉を聞き、周囲に布陣している半端者の覚醒者たちを詳しく観察するアキ。

胸のあたりから感じる異質な何かが、ジョンが言うアメリカの科学力の結晶であるようだった。

こうして確認した以上、次からは通用しない手法ではあったが……。

ジョンの言う通り、アメリカの科学技術が凄まじいものであることは間違いなかった。

ここからさらに発展すればどのような形になるかは分からないが、それはその時の話だ。

今は、目の前に迫った現実の方が重要ではないか。


「これだけ時間を稼げば十分だろう。これ以上用がないなら退け。死にたくないならな」


殺気立ったアキの警告。

それを聞いたジョンは頬を掻きながら言った。


「そうだね。これだけ時間を稼いだのに、リヴァイの野郎、何でまだ来ないんだか」

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