50. デボロ vs リヴァイ(1)
今回の件で、キョウスケへの疑念はある程度晴れた。
裏切り者ではないと確定したわけではないが、他の二人と同じ土俵に置いて見られるようになったというだけで、彼にとっては十分な収穫だろう。
最初から疑いを避けるつもりなら、群れを離れて一人になるような選択はすべきではなかった。
ゲームセンターでの突発的な出来事は、キョウスケが自ら招いた種に過ぎない。
アヤノたちがいるカフェに戻ると、キョウスケが合流し、再び動き出す様子が見えた。
デボロもまた、悟られない程度の距離を保ちながら彼らの後を追った。
そうして二番目の場所に到着したアヤノ一行。
デボロは今回もビルの屋上から見守っていたのだが。
一回目とは異なる不穏な空気が漂い始めているのが目に入った。
遠くからアヤノ一行に向かって近づいてくる者がいたのだ。
都会なのだから人が行き交うのは珍しいことではないが、何が問題かと言えば。
この時期にその相手が外国人であり、なおかつアヤノたちのいる場所へ自動車よりも速い速度で接近しているということだった。
「ふむ……」
アメリカの覚醒者と見て間違いないだろう。
他に仲間はいないかと周囲を探ると。
別の方向からも覚醒者らしき男が、二番目の地点に向かって移動しているのが見えた。
アメリカの連中め……これまでは静かにしていたというのに。
ようやく隠していた本性を現し始めたらしい。
今のところ確認できるのは、アメリカの覚醒者が二人。
こちら側はアヤノ、アキ、キョウスケ、ゲンド。その中で実質的に戦闘が可能なのは二人だ。
今まで静観していた連中が今になって動き出したということは、勝算がある戦いだと判断したからだろう。
どうやらアメリカに舐められたらしい。
「よっこらしょ、と」
しゃがみ込んでいたデボロが立ち上がった。
今日何が起きようと、あの四人が自分たちで解決すべきことではあるが、彼の性格上、ただ見守っているだけというのはこれ以上ないほど退屈なことだった。
ボキボキッ。
軽く体をほぐすと。
一番近くにいる覚醒者の元へと向かった。
「どこへそんなに急いでるんだ?」
行く手を阻まれ、足を止めるリバイ。
予期せぬデボロの登場に、かなり驚いた様子を見せた。
「なぜ貴様がここに? 報告によれば、お前はいないはずだが」
「散歩に出たら面白そうなことが起きそうだったんでな。その重い体を引きずって、どこへそんなに急いでるんだ?」
「……お前には関係のないことだ。どけ」
「関係あるかないかは俺が決める。誰に向かってどけと言ってるんだ?」
デボロの言葉に、リバイは頭を掻いた。
「これは困ったことになった。まあ……仕事にはいつだって誤算がつきものだからな。貴様が自ら招いたことだ、後で恨むなよ」
パッ。
リバイはその巨体に似合わず、かなりの速度でデボロに接近し、拳を振るった。
だが、デボロの目には面積の広い的にしか見えていなかった。
非覚醒者よりは速いが、かといって一般的な覚醒者よりは遅い攻撃を余裕でかわしたデボロは、リバイの脇腹に向かって拳を突き出した。
ボフッ。
「……あ?」
しかし、期待していた手応えとは違う状況に、デボロは困惑した。
デボロの拳が、リバイのぶ厚い脂肪に阻まれ、そのまま埋まってしまったのだ。
「ククク、日本の食事が美味すぎて、つい食いすぎちまってな」
リバイが腕を横に薙ぎ払う。
フッ――。
腕が挟まって身動きが取れなかったデボロは、脂肪に埋まった腕を引き抜くべく軽く跳躍し、リバイを蹴り飛ばしながら攻撃範囲から離脱した。
空中でバランスを保ち、地面に着地したが、後ろに下がったのはデボロだけで、リバイは何の影響も受けていないかのように平然と立っていた。
短い攻防だったが、デボロは相手が身体強化系の能力者であることを見抜いた。
覚醒すれば、一般的に過体重だった人間でも理想的な身体へと変貌するため、能力に関連したものでなければ今の姿は成り立たないからだ。
おまけに、戦闘センスも常人の域を超えていた。
まるで格闘技を専門的に学んだ人間を彷彿とさせるほど熟練していたのだ。
過体重の非覚醒者がこれほどの動きを見せることは不可能であり、今の相手の姿は覚醒能力に関連したものだと推測するのが妥当だった。
生半可な攻撃ではリバイに衝撃を与えるのは難しいと悟ったデボロ。
最初は相手を殺すつもりで動いたが、相手の能力を完全に把握するほどの余裕も、決着をつけるまで戦えるような場所でもないため、戦略を変えて「相手の嫌がることだけをする」という方向に傾いた。
戦いとは相手の弱点を執拗に突くのが定石。
相手はアヤノたちのいる場所へ向かい、別の覚醒者と合流することを望んでいる。
ならば、ゲンドが一行を連れて別の場所へ移動するまで足止めさえすれば、デボロの勝ちだった。
デボロはその場ですぐ近くへ駆け寄り、両腕で信号機を抱え込んだ。
バリバリッ。
コンクリートの根元から引き抜かれる信号機。
信号機の柱だったものを野球バットのように構え、リバイに向かって振り回し始めた。
リバイが接近しようとすれば巧みに動き、距離を詰めさせない。
ガシッ。
ところが、リバイが突如として柱を掴んだではないか。
力比べを挑もうとしているのか、柱を力強く握りしめている。
「力では俺には勝てんということを知れ!」
力比べに応じる代わりに、デボロは持っていた柱を空へと押し上げた。
そして高く跳び上がると、拳を握り、持てる力のすべてを込めて柱を叩き落とした。
ゴォォォォン!
再び地面に突き刺さる柱。
もうもうと立ち込める砂埃。
風に吹かれて埃が晴れると、そこには隕石が衝突したかのようなクレーターが露わになっていた。
ドサッ。
信号機の柱だったものが横に倒れる。
クレーターの中心に立つリバイ。
埃が晴れたというのに、リバイの周囲からは蒸気のような煙が立ち上っていた。
「面白い。貴様の言う通り、今の姿では俺はパワーでもスピードでも劣っているようだ。このままだと時間を稼がれるだけだな。貴様も俺とまともにやり合う気はないようだが……最後のチャンスをやる。どけ」
「お前の思った通りだ。時間を稼げば俺の勝ちだっていうのに、なんでまともにやる必要がある? それと俺ももう一度言ってやる。誰に向かってどけと言ってるんだ。お前こそ来た道を帰りな」
「そうか……ここで使うことになるとはな」
その言葉を最後に、リバイの体から立ち上っていた煙が急速に膨れ上がり、巨大だった体が縮み始めた。




