49. ゲームセンターであった出来事
シンイチロウの頼みを受けたデボロは、アヤノ一行の尾行に乗り出した。
アメリカに伝えた数十箇所の座標があるとはいえ、ゲンドが出発前にリーダーへ行き先を報告していたため、シンイチロウから尾行を頼まれた身としては、彼らがどこへ向かうのかを把握し、追跡するのは容易なことだった。
アキの能力を知っているため、遠くから建物の間を飛び越えながら追いかけるデボロ。
もしアキが異変に気づいたとしても、簡単には近づけない距離を保っていた。
「俺はこういうのはあまり好きじゃないんだがな」
ビルの屋上から、アヤノの一行が第一地点に向かって迂回しながら進むのを見下ろしていると、第三者の視点からは、あちこちに軍人らしき者たちが布陣しているのが目に入った。
「よお」
「ひっ!」
突然の挨拶に腰を抜かす軍人。
「な、なぜお前がここに……?」
デボロが何者であるか、よく知っているようだった。
「なら、お前はここで何してるんだ?」
ドカッ。
あえて探し回ったわけではないが、道中に怪しい奴がいれば気絶させていくデボロ。
アヤノ、アキ、ゲンド、キョウスケ。
シンイチロウの言葉通りなら、この中に裏切り者がいるのだろうか?
いっそ殺してしまえば簡単に終わることを、なぜこうも難しく進めるのか。
殺した後に問題が起きれば、その時に対処すればいいだけのことだ。
完璧に見える計画も、結局進めていけば欠陥が出てくるものだし、不備が見つかっても、進めていればどうにかなるものだ。
やはり、どこかの集団に属するというのは面倒なことだと考えるデボロだった。
ちょうど、第一地点での仕事が終わったのか、四人が集まっていた。
「う、うう……」
目を覚まそうとする軍人に向けて、もう一度拳を振るった。
ゴンッ。
「もう少し寝てろ」
いつの間にか姿を消した四人。
デボロは第二地点へと向かうアヤノ一行に追いつくため、腰を上げて動き出した。
ビルの上を走り回りながら、どこかへ電話をかける。
「どうなった?」
「少し遅くなりそうだ。一箇所じゃなく二箇所行くってさ。今は仕事が終わって休んでる。今日はちょっと遅くなるかもな」
一緒にポップコーンでも食べながら新作ドラマを見る約束をしていたから、今電話をかけるのは不自然なことではなかった。
おかげで、二番目の場所へすぐに向かわず、足を止めていることが分かった。
「そうか。あまり遅くなるなよ。遅れたら俺一人で見るからな」
時々キョウスケと映画を見たりもしていたので、彼が裏切り者だとしても、今尾行されている事実に気づくのは難しいだろう。
電話中に聞こえる音から察するに、またゲームセンターに行ったようだ。
残りの三人が一緒に行くはずがないので、ゲームセンターの周辺にいるはずだ。
地図を見ながらキョウスケがいるであろう場所に到着したデボロ。
高い場所から周囲を見渡すと、窓際に座っている三人が目に入った。
あの三人が陰謀を企てるには性格も合わないし、お互いに監視し合える状況なので、何かを企むにはリスクが大きすぎる。
ならば今、デボロが行くべき場所はキョウスケがいるところだ。
デボロはゲームセンターに入り、キョウスケがいそうな場所を探した。
そして間もなく、ゲームに熱中しているキョウスケを発見した。
遠くからしばらく彼を見守っていたが、これといった特異な行動は見られなかった。
時々酒を酌み交わし、一緒に遊んだりもするので、裏切り者がキョウスケでなければいいと願うデボロだった。
もし本当に裏切り者なら、一抹の躊躇もなく殺すだろうから。
暇な時に時間を共にできる人間が減るというのは、彼にとって大きな痛手だった。
あちこちを忙しく動き回るが、疑わしい行動は見当たらない。
そんな中、キョウスケがガラの悪そうな連中と肩をぶつけた。
「おい! どこ見て歩いてんだ?」
「悪い」
「謝れば済むと思ってんのか? ぶつかっておいてその態度はなんだ」
「あんた、病院に行ったほうがいいんじゃないか? 見たところ大怪我してるみたいだけど。ぶつかったとこ、痛くないか?」
「あ? そう言われてみれば、こいつのぶつかった腕が動かねえぞ! てめえ、これどう落とし前つけるんだ?」
不良たちの脅しに対し、普段のキョウスケなら絶対にしないような行動を取る。
「ごめん。これで足りるかな……」
へらへらと笑いながら、馬鹿みたいに札束を取り出したのだ。
あいつらと何か繋がりがあるのか?
札束の間に情報を隠して渡している可能性もある。
シンイチロウに「我々の中に裏切り者がいるかもしれない」と言われた直後なだけに、普段ならしないような振る舞いを見ると、より疑念が深まった。
かなりの金額を見て、疑いもしないのか不良たちの目が丸くなった。
「ゴクリ」
キョウスケとぶつかった男が、動かないはずの腕で札束をひったくるように奪い取った。
「物わかりのいい野郎だ。次からは気をつけろよ。俺じゃなきゃ、ただじゃ済まなかったぜ」
締まりのない顔でニヤニヤしながら、あぶく銭を喜ぶ連中。
札を振り回して喜ぶ姿は、どこからどう見てもただの地元の不良だった。
彼らとキョウスケがある程度離れた瞬間。
不良の髪の毛の先がチリチリと焼け始めたかと思えば、尻に火がつき、ズボンに穴が空いた。
「お、お前のケツが燃えてるぞ!」
「あちっ! 俺の頭がぁ!!」
その様子を見て爆笑するキョウスケ。
普段のキョウスケらしくなく、なぜ大人しくやられているのかと思えば、彼らに渡した金は彼なりの示談金だったようだ。
大きな不審点はないが、それでも確認せずにはいられない。
キョウスケが去った後、体に付いた火を消そうとヘトヘトになっている不良たちに近づいた。
そして、握っていた札束を拝借して確認してみたが、ただの普通の紙幣だった。
「運がいいと思え。これは俺がもらっていく」
「うう……俺の金が……」
あくまで「借りる」だけだ。
いつ返すかは分からないが。
時間外手当くらいは受け取っておかないとな。
物足りない気もするが、ないよりはマシだろう。




