47. 泣くほど悲しくはありません
「お姉ちゃん!」
「エレナ?」
「お姉ちゃん、すごく会いたかったです!」
「私もエレナに会いたかったわ! その間どこにいたのよ? 家に一度も来ないで!」
エレナを連れて車に戻ると、ケイコが激しく私たちを歓迎した。
正確に言えば、私ではなくエレナを、だが。
「へへ……お姉ちゃんに会いに行きたかったんですけど、個人的にちょっと事情があって。ごめんなさい」
「あ……じゃあ、もう全部終わったの?」
「はい! もう大丈夫だって言われました」
「きゃあー、よかった! 本当に、本当によかったわ!」
お互いに手を合わせながら、ぴょんぴょんと跳ねる二人。
エレナのことを自分のことのように喜んでくれるケイコ。
二人が落ち着くのを待ってから、海への旅行にエレナを合流させることになった私たちは、最後のパズルであるユイを迎えに行くために病院へと向かった。
そして、驚かせてやろうと病室のドアを勢いよく開けた。
「ジャジャーン! 来たよ」
だが、どこへ行ったのかユイの姿は見当たらなかった。
仕方なく、通りかかった看護師を呼び止めて尋ねた。
「この病室の患者さんに会いに来たんですけど、席を外しているようで。どこに行ったか分かりますか?」
「ここならユイさんですね……リハビリ中なので、終わるまであと一時間くらいはかかると思いますよ」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
本当はもっと早く来るつもりだった。
防衛隊に寄ってから来ると伝えてあったので。
空いた時間を利用して、リハビリを受けに行ったようだった。
一時間待てば戻ってくるというので、しばらく待つことにした。
私たちは病室でしばらく待機することにした。
スマートフォンを眺めながら時間を潰していると、ケイコがデリケートな話題を切り出した。
「ユイちゃんが退院したら、どこで過ごすか聞いた?」
ユイが目を覚まし、体もある程度回復してきたのだから、次の人のためにも病室を空けなければならなかった。
ケイコはユイのことを詳しく知っているわけではない。
だが、レンの妹であることや、あの日、旅行中に事故に遭ったことは知っている。
彼女の家族がどうなったのか、レンが任務に出たきり姿を消したという事実までも。
「聞いてみたんですが、元々住んでいた家には帰りたがっていないようでした」
帰りたくないのは当然かもしれない。
あの家はユイにとって長く住んだ馴染みのある場所だろうが。
むしろその馴染み深さゆえに、あの家で暮らすことを嫌がっているようだった。
広い家に一人きりでいれば、空席がより身に沁みて恋しくなるものだから。
その気持ちは、誰よりも私自身がよく分かっている。
「そうよね……まだ手助けが必要な年齢だし。親戚の人は?」
「あまり好ましく思っていないみたいです。親戚の方々も東京に住んでいるわけではないですし」
ユイに残されたのはリハビリ。
家と病院を往復しながら受ければいいので、手間さえ惜しまなければ大きな困難はないはずだった。
問題は、ユイの居場所を決めるのが簡単ではないということだ。
一度ユイに、うちに来て一緒に暮らさないかと尋ねたことがある。
だが、『他の方と一緒に住んでるって仰ってませんでしたか? お気遣いは嬉しいですけど、私は人見知りなので、かえって不便をかけると思います』と言われた。
言葉ではそう言っていたが、ユイは自分が私と一緒に住むことが迷惑になるのではないかと考えているようだった。
「そう……心配ね。それなら……」
ユイの居場所について話し合っていると、ドアが開いて部屋の主が戻ってきた。
「お兄ちゃん!」
病室に入ってきたユイを見て、私は彼女に向かって手を振りながら歩み寄った。
「リハビリ、終わったのか?」
「はい。でも、私がリハビリに行ってたって、どうして分かったんですか?」
「関心があれば、知る方法なんていくらでもあるさ」
「へへ……」
そして私は、一緒に来た二人を紹介した。
「こちらは一緒に住んでいるケイコ叔母さん。そして、こっちはエレナだ」
「こんにちは。ユイです」
「こんにちは!」
「会えて嬉しいわ。ユウマからあなたのことはたくさん聞いてるわよ」
ケイコも旅行に来ることは聞いて知っていたユイ。
だが、ユイの立場からすれば、事前に全く聞いていなかった女の子がもう一人いた。
「あの……そっちの綺麗なお姉さんは?」
どういうことか説明してほしいと言わんばかりに、私を見上げてくる。
何と紹介すべきか。
特に考えてはいなかったが。
ありのままを話すのが一番いいだろうと思った。
そこで私はユイに、エレナがしばらく家で一緒に暮らしていたこと、そして祭りで悪い奴らに誘拐され、セーフハウスで暮らすことになった経緯までを話して聞かせた。
私の話を静かに聞いていたユイ。
話が終わる頃には、その目には涙が浮かんでいた。
「ううっ……」
「えっ? 泣かないでください。泣くほど悲しい話じゃありませんよ」
「ぐすっ……私はそんなことも知らずに……。綺麗なお姉さんが、あまりに可哀想で……」
お姉さん……で合っているのだろうか?
二人は似たような年齢のはずだが。
ともかく、エレナが私たちと海に行くことに賛成してくれたユイ。
エレナが一緒に行くことを嫌がられたらどうしようかとも思っていたが、うまく解決した。
私たちはケイコの運転する車に乗り込み、私たちを待っている海へと向かって車を走らせた。




