45. 変な人たち
そうしてショッピングを終え、良さそうな店を探しに行こうとした時のことだ。
遠くない場所から、異質な組み合わせの二人組がこちらに向かってやってくるのが見えた。
人数は二人。
一人はスクーターに乗り、もう一人はサウナスーツを着たまま走っている。
走っている方は、スクーターに乗っている男の号令に合わせて、ボクシングのように拳を振るっていた。
「運動をして健康になる」ということ自体は何もおかしいことではないのだが、問題はそこではなかった。
問題は、スクーターに乗っている男の方だ。
以前ラーメン屋で出会った、あの巨体の西洋人だった。
健康のためにダイエットが急務なのは、どう見てもスクーターに乗っている彼の方なのだが、現実はその真逆。
そんな光景を目の当たりにすれば、誰だって違和感を覚えるのが当然ではないだろうか。
あの巨体を支えているスクーターが壊れないのが不思議なくらいだ。
どこのメーカーだろう? 随分と頑丈そうだし、いつか免許でも取ったら一台欲しくなるな。
「あんな変な人たちは危ないって聞くけど……」
本音を言えば知らんぷりをしたいところだが、避けて通るにはもう遅すぎたようだ。
ジョンが満面の笑みでこちらに気づき、手を振ってくる。
「おーい!」
「こんにちは。お久しぶりです」
「元気にしてたか? こんなところで会うなんてな」
運動の真っ最中だからか、ジョンは爽やかに、そして晴れやかに笑っている。
サウナスーツの中は汗でびっしょりのようだ。
だが、どうしてだろう。スクーターに乗っている男の方が、より疲れているように見えるのは私だけの錯覚だろうか?
私の目が節穴でなければ、スクーターに乗っている側の方が、必死に走っているジョンよりも多くの汗を流しているように見えるのだが……。
「こんにちは」
私はスクーターに乗っている男の方にも挨拶をした。
「お? あの時の……ラーメン?」
「ラーメンじゃなくて、ユウマです」
覚えていてくれたのはありがたいが、間違った記憶は正しておいた。
「悪い悪い。あの日のラーメンの味が強烈に記憶に残っててさ。とにかく、会えて嬉しいよ」
ラーメンが美味しかったのは事実だが、自分がラーメンに負けたと思うと少し複雑な気分だ。
「私もお会いできて良かったです。ところで、お二人はお知り合いなんですね」
「まあな。俺は、お前がリヴァイと知り合いなことの方が驚きだぞ?」
「知り合いというか、以前一度お会いしたことがあるだけです」
「そんな言い方されると寂しいなぁ! あの時共に過ごした時間は、何でもなかったってことかよ!」
一緒にラーメンを食べただけなのだが、誰かが聞けば誤解しそうな言い回しをするリヴァイ。
私はぶんぶんと手を横に振って否定した。
「一緒に食べたのは楽しかったですけど、そこまでの仲だった記憶はありません」
「なんてこった……また裏切られたか……」
何の裏切りかは分からないが、勝手に落ち込んでいる彼を放置して、私はジョンに視線を戻した。
「それで、お二人はどちらへ?」
「見ての通り、トレーニングだ」
ジョンは肩をすくめ、人差し指で自分の体を指した。
「フンッ!」
突然気合を入れると、汗でぴったりと張り付いたサウナスーツの上から、ボディビルの大会で見るようなポーズを決めた。
その姿に、隣で黙っていたユイが飛び上がらんばかりに驚いた。
「箱入り娘の私が、こんなものを見ていいのかしら……。ふぅ、おじさんより、隣の人の方が(運動が)急務なんじゃないですか?」
「ん? 俺か? 大丈夫だ。俺はイケメンだから、運動なんてしなくていいんだよ」
リヴァイが余裕の表情で手を振る。
「全然……全然違いますから!」
ユイも彼に負けじと手を振り、断固とした拒否反応を示した。
「ハハハ! お嬢ちゃんはまだ若いから、男の内面を見る目が足りないようだな。もう少し大人になればわかるさ。俺という男の魅力がな」
「絶対にありえません!」
リヴァイの言葉に、ユイは鳥肌が立ったと言わんばかりに自分の肩を抱きしめた。
「ハハ! 会えて楽しかった。またな」
「俺もだ。ジョンのトレーニングを続けなきゃいけないから、俺たちはこれで!」
突如として現れ、嵐のように去っていく二人だった。
ジョンとリヴァイが去った後には、妙な静寂が残った。
「……少し変わった人たちでしたね」
「そうだな」
「もう、美味しいもの食べて忘れましょう」
「Go go let’s go.」
私たちは二人に吸い取られてしまった気力を補給するため、鰻を食べに行くことにした。




