4. 能力検査を装った暴行?
モンスターを殺した男は宙返りをして着地した。
手を振って近づいてくる顔には、状況に似合わずいたずらっぽい表情が満ちていた。
「なかなかやるな。でも無謀だった。長く生きたいなら、モンスターと自分の力量を見極めることだ。」
「どなたですか?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は防衛隊のレオだ。」
「私はユマです。」
「よろしくな、ユマ。モンスターを食い止めるのに大変だっただろうが、もう後続部隊が来たら片付けてくれるから、休んでいいぞ。」
彼の言葉に、しばらく忘れていたことを思い出した。
私は慌ててレンに近づいた。
「レン!」
「くっ、痛いよりも耳が痛いな。叫ばなくてもいい。」
「友達が危ないみたいだし、早く病院に行った方がいいよ。」
いつの間にかレオも私についてきていたのか、隣で口を挟んだ。
「それより、そこに落ちてる腕からくれないか?」
「腕?」
私は隅に落ちていた腕を持って行った。
最初は病院に持っていってくっつけるのかと思ったが、切断面に当てがうではないか。
びっくりした私は慌てて言った。
「床に落ちて菌も多いし、病院でやればいいのに、何してるの?」
感染でもしたらどうするつもりなのかと、胸がどきりとした。
しかし、レンは何事もなかったかのように左腕を動かしてみせると、怪我が嘘だったかのように、その腕で地面を支え、何事もなかったかのように立ち上がった。
「見たか?」
「ほう……」
「それはどういうこと?」
「なぜかできそうな気がしたんだ。」
「君の友達も覚醒したようだな。最近、何か特別な感じがするとか、変な本を触ったことはあるか?」
「…本ですか?」
「そうだ、本だ。」
巨漢の男の言葉に、レンは記憶をたどった。
そして旅行に行く数日前、家で見たことのない本を見つけたことがあった。
もちろんすぐに消えて夢だったのかと思ったが、彼の話を聞くと、ただ見過ごすことはできないと思ったとレンは考えた。
「はい。家で見たことのない本が本棚にあったので取り出してみたんですが、すぐに消えてしまったので大したことないと思っていました。僕が覚醒したことと関係がありますか?」
「あるな。世間では覚醒はただ起こるものだと言われているが、それは半分だけ合っている。覚醒前には前触れがあるからな。とにかく、二人とも覚醒おめでとう。」
◇
「左腕はどうですか?そちらをぶつけましたので。」
「左腕?一度上げてみてもらえますか?特に異常はないようですが。もし心配なら精密検査をしましょうか?」
「大丈夫です。自分の体のことは自分が一番よく知っていますから。」
「ふむ、分かりました。もし後で少しでも痛みがあれば、すぐに来てくださいね。」
事態が収拾され、レンと一緒に医師の診察を受けると、怪我もなく無事だと言う。
翌日。
私たちは防衛隊の建物に入った。
本当はもう少ししてから来ようと思っていたのだが、二人も覚醒したのだから明日すぐに来るようにというレオの言葉に、何も言えずそうすると答えた。
短期間にモンスターの襲撃を二度も受けた時点で、先延ばしにするのは違うとも思ったし……
レンと私はマサヒロ隊長と向かい合って座った。
「葬儀の最中にモンスターに襲われたそうだな?その時、覚醒したことを知ったと。」
「はい。」
「まず、二人とも覚醒おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
聞きたいことはたくさんあったが、まずは彼の話を聞くのがよさそうだった。
レンも私と同じだったのか、私たちは黙って彼を見つめた。
「ふむ…覚醒すればどうなるかは知っているな?」
「知っています。」
「年齢に関係なく防衛隊に入らなければならないでしょう?」
「そうだ、長話はしない。お前たち二人は今から防衛隊に入隊することになる。防衛隊と言っても戦闘員だけがいるわけではないが、報告を受けた限り、お前たちは現場要員として適していると判断する。嫌なら今言え。」
「望んでいたことです。」
「いえ。私もいいです。」
私たちはどちらが先ともなく、肯定の意を表した。
意外だったのは、レンまで躊躇なくそうすると言ったことだ。
活発というよりは勉強や本を好む彼の性格からして、後方に回ったとしても驚くことではなかったのだが、これまでの出来事が心に波紋を呼んだようだ。
「よし。では、しばらくお前たち二人を指導する者を紹介しよう。」
マサヒロ隊長が机の上にあるダイヤルのボタンを押し、誰かを呼び出すと、間もなく一人の男が入ってきた。
「お呼びでしょうか。」
「ああ、ここに座っている二人を君に任せたい。」
「えっ?私がですか?」
「以前会ったことがあるだろう?まだ子供たちだから、一度でも顔を合わせた間柄の方がいいと思ってな。二人にはどうだ?」
彼の言葉に、私たちは部屋に入ってきた男を見上げた。
背が高く、がっしりとした肩、筋肉の鎧をまとった男、レオだった。
躊躇する必要があるだろうか。
どうせ受ける教育なら、強そうな人から受ければいいだろうと思い、そうすると答えた。
「どうせお前以外にやるやつもいない。俺がお前を信頼しているのは知っているだろう?」
「とんでもない。」
「やると承知したと受け取ろう。」
そうして、メンターであり班長としてレオが任命された。
そして、確認したいことがあると言って、私たちは彼について訓練場へと向かった。
「これから班長と呼べ。俺の名前はレオだ。隊長から聞いた通り、ひよこ同然のお前たちを一人前にしてやる。難しくはない。親鳥に餌をねだる雛のように、しっかりついてくるものと信じているぞ。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「では、始めるか。」
「何をですか?」
「訓練場に来たなら、体を動かす以外に何がある?」
マサヒロ隊長と別れた後、なぜ訓練場に来たのかと思っていたが、こういうことだったのか。
「言葉で説明するより、体に刻み込む方が早くて長続きするもんだ!」
ヒュッ。
突然飛んできた拳。
かろうじて鍋の蓋ほどもある拳を避けた。
「よし。その調子だ。ここに来たのは、お前たちの能力を確認するためだからな。」
いや、でも最初なら組織図とか仕事内容とか説明すべきじゃないのか?
まだ学生でも、それくらいは知っているぞ!
そんなことはどうでもいいのか、再び攻撃の姿勢を取る様子に、私たちは彼と距離を取った。
「そうやって逃げ回るだけでは何も終わらない。根性を見せろ。」
「習ったことがあって初めて見せられるものがあるでしょう。」
「うまいこと言うな。戦えば僕たちが負けるのに、どうして挑めるんですか?」
「誰が勝てと言った? 本気でやったなら、最初の攻撃でお前たちは死んでいた。戦闘員として配属されたんだ、重要なのは書類を眺める能力ではなく、モンスターと対面して生き残ることだ。昨日お前たちが見せた能力からして、この方法がお前たちを知る上で最も早いと考えただけだ。もう長話はしない。逃げずに、ありったけの力を振り絞って挑んでこい。もうすぐ昼飯の時間だからな、その前に終わらせたい。」
レオ班長の言葉に、私たちは彼を中心に距離を取った。
そして互いに顔を見合わせて頷き、同時にレオへと突進した。
長い間一緒にいたから、言葉を交わさなくても目を見るだけで十分に意思が通じた。
レンは下段を、私は上段を狙った飛び蹴りを!
タタタッ。
しかし、勢いがあったのとは裏腹に、やられたのは私たちだった。
その場でジャンプしたレオが私の足首を掴み、地面へと叩きつけた。
ドスン。
「カハッ……」
地面にぶつかった衝撃で一瞬意識を失ったのか、目を覚ました時には、背中が地面を向きながら空を飛んでいた。
天井が見える。そして、レオの顔も。
「?」
なぜレオが私と並行して飛んでいるんだ?
腕組みをしながら私と一緒に宙を舞っていたレオが口を開いた。
「二回死んだぞ。今のでな。」
ゴンッ――。
頭突きを食らった私は、再び意識を失った。
次に目を覚ました時、私は地面に大の字になって倒れていた。
私は頭を押さえ、膝を支えにしてその場に起き上がった。
頭が割れそうだ。
今日、何度地面に叩きつけられたか分からない。
「身体能力はよく分かった。覚醒して間もないにしては期待以上だ。能力もだいたい把握できた。残るは……レンと言ったか? 確認することは確認しておかないとな?」
グシャッ。
レオがレンの腕を踏みつけた。
「あああ。」
「大げさな。医者は常駐しているから心配いらないぞ。」
回復していくレンの腕を見ながら、レオが低い声でつぶやいた。
リアルタイムで腕が再生される様子を見ている私は、一体これは何事かと思う。
レオが行動派なのはわかるが、それでもこれはあまりにも性急ではないだろうか。
まだ私たちの名札のインクも乾いていないのに。
「こっちに来い。」
手招きして呼ぶ声に不満を飲み込み、近づいた。
レンの腕を見ると、いつの間にかレオにやられた怪我がすっかり治っていた。
「戦いの途中で、どうして呼んだんですか?」
この状況に不満な私としては、言葉がぶっきらぼうになるのは仕方なかった。
先輩であり班長だからこの程度だが、そうでなければ拳が先に出ていただろう。
しかし、そんなことはどうでもいいとばかりに、レオ班長は言いたいことだけを言う。
「お前たちの能力把握が終わった。」
「もう?ちょっと戦っただけで?」
「ちょっとだと?この前も見て、今日も見たんだから二回目だろう。」
「そうだとしても二回だけでしょう?」
私たちはレオ班長の言葉に驚いて目を丸くした。
何も見せていないのに、もう能力把握が終わったと?
どれだけ有能なんだ、こいつ!
一瞬でもこんなやつをつけた、と心の中で罵った隊長に申し訳ない気持ちになった。
「二回なら俺のようなベテランには十分な時間だ。なぜだ?尊敬の念が湧いてきたか?」
「はい。」
正直に言った。
嫌なものは嫌、すごいものはすごい。
「私たちの能力はどんなものなんですか?」
レンは自分の能力がよほど気になるのか、問い詰めるように言った。
「誰から話そうか…ふむ…まずユマからだ。お前の能力は念力系だ。何度か見たことがあるから間違いないだろう。」
「念力ですか?その、目に見えない超能力みたいなやつ?」
「そうだ。まだどう使うか知らないから、攻撃された時に本能的に体を守ろうと防御だけに発動するようだが、違うか?」
モンスターにぶつかった時も、今日のように何かが僕を守ってくれた。
足が変形したのが念力なのかは疑問だが、黙っておくことにした。
僕の身体が変化するのを見た人間が一人いるが、あいつは見た目より口が堅いから、僕が話すまでは秘密を守ってくれると信じている。
「…はい。そんな感じです。」
「これからは意識的に使えるようにしてみろ。」
「どうやって?」
「意志の問題だ。通常、そういう能力はその人の精神に影響されるものだ。だから、似たような能力でも、人によって力の差が最も顕著に出る能力だ。精神力が弱ければ小さな石ころ一つ持ち上げるだけだろうが、お前次第ではビルディングも持ち上げるかもしれないな。」
「はっ!本当ですか?」
ビルディングも持ち上げるという言葉に驚いて聞き返した。
「ハハ!まさか。からかいがいがあるな。」
「……」
やっぱりそうか、いい話だと思ったのに。
そして最終的には、念力を使う時に手の形を作るのが良いという助言を受けた。
手の形は人にとって馴染み深く、精神力の消耗が少なく、様々な方面での活用が容易だからだという。
「俺は俺が考えるに、能力を使うのに適した形を教えているだけで、正解はない。途中で自分の道を見つけたら、それはそれで良いことだ。さあ、次にレン、お前だ。お前は…ふむ、俺の能力と似ているようでもあり、違うようでもあって、曖昧だな。」
「レオ班長の能力って何なんですか?」
「俺か?俺は鉄を食べる能力を持っている。」
「ええ、それがどうして僕と同じなんですか?」
そういえば、それがどうしてレンと同じだというのだろう?
「おっと、人の話は最後まで聞け。俺は鉄を食べると傷が回復する。もちろん、お前のように体が切断されたり、大きな怪我でもな。」
「確かにその話が本当なら、僕と似ていますね。」
「だが、お前と俺の間には大きな違いがある。怪我を回復するのに必要な材料だ。」
「…材料?」
「そうだ、等価交換って知っているか?」
等価交換?
何を交換するのだろうか。
「何かを得るためには、それと同等の価値を犠牲にしなければならないって言うじゃないですか。でも、レオ班長の能力が鉄を食べて負傷を回復させるものなら、等価交換が成立しないと思うんですが?」
「今度は頭の切れるやつが入ってきたな。だが、それは一般的な考え方だ。同等の価値を誰が定めるんだ?お前か?俺か?もし神がいて、俺にこんな能力を与えたのなら、神の立場からすれば人間も鉄も同じ価値だということだろう。」
「…おっしゃることは分かりました。」
ごめん、私は半分もわからない。
私が理解しようがしまいが、二人は話を続けた。
「だが、今言ったことも単なるこじつけだ。あまり気にする必要はない。ただし!能力を使うためには些細な代償が必要だということだ。それがどのような形であれな。ユマは精神力、俺は鉄、お前はどうだか考えてみろ。」
彼の話を聞いて、私も一言言った。
「髪の毛が抜けるとか?」
「それは代償にしてはあまりにも過酷だろう。」
「今、ちょっとお腹が空いているんですが…そんなことないですよね?」
「ないとは言えないな。動いたからかもしれないし、本当にそれが代償なのかもしれない。だとしたら祝福だな。単にカロリーを補充すればいいだけだからな。あくまで俺の推測に過ぎないから、これから徐々に知っていけばいい。」




