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魔導書を拾う  作者: kjms
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24. 新しい出会い

「こんにちは。奏です。」


明るい顔で挨拶をしてくれた女性と、軽く頷くだけの男性が、これから一緒に働く人々だった。


奏は明るい雰囲気とは裏腹に、体に武器を身につけている。

椅子に座っている男性は、膝の上の犬をゆっくりと撫でていた。

その周りには、数匹の犬たちがのんびりとした様子で横たわっている。


「あ、こちらは焔さんです。」


奏の紹介に、私は焔を見て改めて挨拶をした。


「こんにちは。」

「ええ。」


私の挨拶に、短い返事をする焔。

なぜ彼女が焔の代わりに話すのか分からないが、これから一筋縄ではいかないだろうと感じた。


私をここまで連れてきた人が出て行くと、部屋には私たち三人だけが残された。

時折聞こえる音は、焔の犬があくびをする音だけ。

静寂を破ったのは、お腹から鳴る「グー」という音だった。


「食事に行きませんか?」

「いいですね。ちょうどいい時間です。」


やはり、気まずい雰囲気の時は食事に限る。


奏が席を立ち、上着を着た。

私も椅子から立ち上がり部屋を出ようとしたが、焔はそうする気がなさそうだ。

私が彼をじっと見つめていると、奏が私の服の裾を引っ張り、外に出ようと合図した。


ドアを閉めて言った。


「焔は食堂では食べないんです。」

「どうしてですか?」

「子供たちがいますから。」


子供たち?

ここに子供はいないじゃないか。

彼女が何を言いたいのか意図が掴めない。

錆びついてギシギシ音を立てる頭を働かせたが、答えは見つからなかった。

私が呆然とした顔で黙っていると、彼女が苛立ちを隠せないように顔をぐっと近づけてきた。


そして。


「ワン、ワン。」

「あ……」


その時になって初めて、彼女がペットの犬たちのことを言っているのだと気づいた。


「子供たちが大人しくても、食堂は立ち入り禁止なので、以前も別々に食べていました。」


焔はペットの犬たちをとても大切にしているようだ。

動物は可愛いけれど、飼ったことがないので理解できなかった。

まずは自分が食事をしてから世話をしたり、あらかじめ餌を容器に入れておくこともできるのではないか?


おかしいと思ったのも束の間。

その理由を昼食を食べながら知ることになった。


「もぐもぐ…これ美味しいですね。防衛隊の食事は美味しいから好きなんです。変に舌が肥えてしまって、家に帰ると適当に済ませるなんてことありませんよ。どこまで話しましたっけ……」

「焔さんの覚醒能力についてです。」

「へへ、そうでしたね。焔の覚醒能力はビーストボイスなんです。」

「ビーストボイス?」


私は英語に弱いけれど、何を言っているのかは分かる気がする。

動物の言葉が聞こえるということではないか?


「もぐ…ええ。動物とコミュニケーションが取れるんです。だから、ここに連れてきた子たちを置いて食堂で食べられないって言うんですよ。」


似ていたな。言葉が聞こえるのと、意思疎通ができるのは紙一重だ。


「素敵な能力ですね。動物と意思疎通ができるなんて。」

「私もそう思います。」


覚醒してから防衛隊での義務服務期間は10年。

危険手当やその他の手当をつけなくても、基本給が高い。

だから服務期間が終わってもお金の心配は必要ないが。

今後別の仕事をするにしても、焔のような場合は汎用性の高い能力だった。


私はまだ遠い未来のことなので何も考えていないが。

長く働いている人たちの話を聞くと、服務期間が終わった後の未来を真剣に悩んでいる人もいるらしい。


個人的な意見だが。

ペットトレーナーになったらスーパースターになるのではないだろうか?


「でも、良いことばかりではないそうです。たまに意地悪な奴らと出会うと疲れるって言ってました。私は動物たちと話す気分がどんなものか分からないので共感できませんけど。」


人間で言えば性格が悪いということだろうか?

理性よりも本能が先行する動物なので、その割合は人間よりも高いだろう。


「失礼でなければ、奏さんの能力がどのようなものか教えていただけますか?」


本来なら初対面で互いの情報を交換するのが定石だろうが、そのような雰囲気ではなかった。

これから一緒に動くのだから、今のうちにこの機会を利用して知っておくのも良いだろう。


「知りたいですか?」


茶目っ気のある質問とともに、軽く首を傾げる。

そして、そっと笑顔を見せるが、どこかで経験したことのある出来事だ。

…そうだ、これはケイコ叔母さんが私をからかう前に見せる表情と全く同じだ。


私はここで一歩引くことにした。


「後で焔さんがいる時でも話せることだと思いますので、食事を続けましょう。」


私が手を振って答えると。

彼女は拍子抜けしたような顔をした。


「私の能力は人形使いです。」

「…人形使い?」


その言葉に、私は片方の目を細めた。

以前は戦闘に特化した覚醒者たちとばかり一緒にいたので、能力が直感的で理解しやすかったが、今は人手不足で後方で活動していた覚醒者たちまで大勢合流し、初めて聞くような馴染みのない能力が増えたようだ。


「ふふ…聞いただけではどんな感じか想像できないでしょうから、後でお見せしますね。ここで見せるのに適した能力ではないんです。」

「はい、楽しみにしてます。」

「期待していいですよ。」


食事を終えた私たちは、最初に出会った場所に戻った。

ドアを開けて入ると、焔がペットの犬たちに餌をあげていた。

テーブルの上をさっと見ると、空の弁当箱が置かれていて、ここで一人で食べたようだ。


あ、一人ではなかったか。

あいつらは彼の友達と変わらないのだから。


「ご飯も食べたことだし、消化も兼ねてパトロールでも行きましょうか?」


彼女の言葉に、私たちは装備を整えて防衛隊の建物を出た。


移動は車に乗ることになったが、なんと焔がハンドルを握った。

芸能人でも乗るような大きな車で、車内は広かったが、また思ったより狭くもあった。


それがどういうおかしな言葉かというと……


ペロペロ。


焔のペットの犬が尻尾を振りながら私の顔を舐めた。

温かくて湿っていて、変な気分だった。

車の中に犬がたくさんいて、広いのに狭く感じるのだ。


その様子を見た奏が驚いた声で叫んだ。


「あっ、ユマさん、車を降りたら必ず顔を洗ってくださいね。」

「…どうしてですか?」

「犬たちはお尻を舐めることがあるんですよ。」

「!!」


くそっ!胃がムカムカする。

今食べたものが胃から上がってきそうだったので、手で口を覆った。


「何を言ってるんだ。うちの子たちはそんなことしない。」


…そうかもしれない。

しかし、すでにその言葉を聞いてしまった以上、私の頭の中には良くないことばかりが浮かんだ。


くっついている犬をそっと横に押しやった。


一度ネガティブな方向に思考が流れ始めると、次から次へと悪い考えばかりが続く。

そんな私の気持ちなど眼中にもないのか、運転していた焔がバックミラーを見ながら言った。


「うちの子たちがユマさんのことが好きなようですね。動物に好かれる人に悪い人はいないと言いますから。」


無愛想に見えたのに、こんなことも言う人だったのか?


「だからユマさんも理解して、言葉を話せない子たちの世話をしてやってください。」


やっぱりな。

少しは和らぎかけた気分がすぐに沈んだ。


その時だった。


ウーン


持ってきた呼び出し器から信号が鳴った。


「あっ、信号が!ちょうど近くですから、私たちが出動すると伝えておきますね。」


奏が上部に報告し、焔が運転して、私たちは通報があった場所へ移動した。


コンビニに到着した。


ピンポン〜ピンポン〜


「いらっしゃいませ。」

「通報を受けて来ました。」


その言葉とともに、防衛隊から来たことを示す社員証を見せた。


「どのような内容で通報されたのですか?」

「どうやら覚醒者が来訪したようなので、通報しました。」


ん?

私たちも覚醒者だが?


「商品を盗まれたのですか?」

「ええと…それが…CCTVに保存されているものをお見せします。口で説明するよりも早いかと。」


財産被害はないということか。

だが、なぜ通報したのだろう…?

とりあえず状況を把握するため、私たちは録画資料を覗き込んだ。


「うーん……」

「これ何?」


モニターを覗き込む私たちは皆、同時に同じことを考えた。「これ何?」と。

CCTVの録画資料を見ても、これが何なのか全く見当がつかなかった。


モニター映像の中、がらんとした通路の真ん中で、かすかな人影が見えたり消えたりを不規則に繰り返している。

最初は単なる機械の故障で起きた問題かと思ったが、その人影が明確な経路を辿って移動する様子を見て、すぐにその考えが間違いであることに気づいた。


ある瞬間にはコーナー棚の横で。

また別の瞬間には女性アルバイトの隣で。

確かに誰か、あるいは何かがその空間にいる。


そしてついに、仕事中にその事実に気づいた女性アルバイトが悲鳴を上げて店を飛び出す場面を最後に、映像は終わった。


「女性の方はご無事ですか?」

「はい…仕事を辞めると言った以外は、怪我はありません。」


店長の話を聞いて、一つだけはっきりした。

もしあの映像の中の存在が「モンスター」だったとしたら。

あんなに近くで遭遇して無事でいられたはずがない。


自動的に容疑者は覚醒者に絞られた。

しかし、どのような能力でこのようなことを引き起こしたのかは全く分からなかった。


事件は一気に迷宮入りした。

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