18. 核爆発に匹敵する威力
世界防衛評議会の2日目。
初日は無事に過ぎた。
もはやテロの危険もなくなったようだ。
残り2日も昨日と同じく何事もなく過ぎてほしい。
レオ班長は私を置いて会議に出席した。
初日には私も会議に出席したのだが。
押し寄せる眠気に耐えきれず、今日は一人で行くから休めと言われた。
その言葉に少し申し訳ない気持ちになったが。
そのような場は、校長先生の長い話以上に退屈で、太ももをつねっても耐えられるものではなかった。
席に座って夕食に何を食べようかと楽しいひとときを過ごしていると、会場からざわめきが聞こえ、ドアが「バタン」と開いて人々が外に飛び出してきた。
人々の国籍が違うので何を言っているのかは聞き取れなかったが、共通して聞こえる言葉があった。
モンスター、雪女、北海道。
雪女?
北海道にいる雪女のことだろうか?
それが今している会議とどういう関係があってこんな事が起きたのか分からないが。
予定外の出来事に当惑した私は、人がはけるのを待って中に入った。
レオ班長のところに行くと。
彼は深刻な顔をして電話をしていた。
じっと立って何を話しているのか聞き取ろうとしたが。
彼も相手の言葉を聞く側だったので通話内容は聞けなかった。
電話が終わった。
「行こう。」
ついてこいという言葉以外は何も言わなかった。
私も少しは空気が読めるので、今は理由を聞く時ではないと分かった。
レオ班長についていくと、会場よりも小さな部屋に着いた。
相対的に小さいというだけで、ここも20人は収容できる広さだった。
全面には大きなスクリーンが降りていた。椅子を引いて席に座った。
しばらく座っていると、顔見知りの覚醒者たちが中に入ってきた。
会場にいた全員ではなく一部だったが、各自が強い気勢を発散しているので部屋が満員になったような感じがした。
しばらくしてプロジェクターが点灯し、スクリーンに映像が映し出された。
「今からご覧いただくのは実際の状況です。」
画面が切り替わり、一体のモンスターが映し出されたが、その周りは一面の雪景色だった。
「北海道の雪女が南下しています。」
あれがその悪名高い雪女だと?
北海道を氷の王国に変えてしまったモンスター、コードネーム雪女。
話にはよく聞いていたが、どのように生み出されたのか直接見たのは初めてだった。
「位置は?」
「…現在、北海道を抜け出し青森県に到着しました。」
「!!」
その言葉に誰かは席から立ち上がり、誰かは静かに外に出て行った。
では、画面に映るあの場所が青森県ということなのか?
今の季節ならまだ雪が降る前なのに、写真に映る場所は一面雪に覆われていた。
誰かが再度確認するため、雪女が北海道を抜け出したのが正しいのかと尋ねた。
「残念ながらその通りです。今この時間にも南下していることが確認されています。」
ざわざわ。
人々の不安なざわめきが部屋中を満たす中。
私もレオ班長の方に身を乗り出し、これからどうなるのか尋ねた。
「止めなければ。ここで待機して、上層部の命令が下り次第出発する。」
「…私たちだけでですか?」
「そんなわけないだろう?動員できる人員は全員出動する。雪女を止められなければ日本は終わりだ。」
そうだろうな。
彼の言う通り、終わりまでいかないだろうが、止められなければ再起は難しいだろう。
座って待っている間、部屋にいた人の大半が退室した。
どこへ行くとは言わずに去って行ったが、おそらく日本を脱出しようと飛行機に乗りに行ったのではないだろうか?
だからといって、彼らを臆病者だと言うつもりはない。
自分の国ではないのに、戦って死ぬかもしれない?
そんなことは私でも嫌だ。
1秒が1分のように感じられている時。
レオ班長のスマートフォンに1通のメッセージが届いた。
メッセージを覗き込む彼の顔は…私が今まで見てきた中で、どんな時よりも感情がなかった。
彼が席を立ち、コンピューターのある場所へ移動し、機械を操作してスクリーンの画面を切り替えた。
静止していた映像が速く動き始めた。
いや、よく見ると画面は動いているが、ずっと同じ地点を映していた。
その時、マイクを握ったレオが、これまで聞いた中で最も衝撃的な言葉を言った。
「画面には映っていませんが、現在南下中の雪女がいる場所を映しています。大量の無人偵察機が投入されており、今見ている映像はそのうちの一機から送信されているものです。この機体はEMP遮蔽膜が適用されており、高強度の電磁パルスが発生しても問題なく運用できます。 今の時間から約5分後、雪女を目標とする、戦術核に匹敵する威力の火力が投射される予定です。」
「…!!」
誰も彼の言葉に異議を唱えなかった。
まるでそのような決定が下されたことがごく当然であるかのように。
そうして私の人生で最も長い5分が始まった。
◇
いつものように太平洋で任務を遂行中だった潜水艦の艦長は、信じられない知らせを受けた。
「回線を私の方に繋げ。」
「はい!」
今回の事件は彼の軍務人生において重大な事案であるだけに。
ありえないことだが、潜水艦がハッキングされたとしか疑いようのない状況だった。
「艦長、繋がりました。」
指揮席にいた艦長は短く息を吸い込み、暗号通信機を手に取った。
「こちらはノーチラス号艦長ヒロシです。コードレッド指令が下されたのが正しいか確認願います。」
「ヒロシ艦長。信号を受信次第、指定座標にミサイルを発射せよ。以上。」
再確認の結果、異常はなかった。
いつかこんな日が来るかもしれないと思っていたが、それが今とは…艦長は決断を下した。
「今をもってコードレッドを発令する。」
艦長の命令に赤い警光灯が艦内を染め上げると、空気が一瞬で凍りついた。
しかし、皆初めての状況にもかかわらず、多くの訓練に裏打ちされた結果、寸分の狂いもなく各自の任務を遂行した。
「全要員、戦闘準備。発射管稼働確認。」
全てが準備された。
上部から信号が下されると、ヒロシ艦長は首にかけていた銀色の鍵を手に取り、副艦長と同時にそれを鍵穴に差し込んで回した。
カチッ。
発射管が開き、潜水艦全体が振動する。
海水が割れて白い柱が突き上がる中。
炎と水蒸気が入り混じった爆発音の後に弾道ミサイルが日本本土へと飛んでいった。
その日、日本全国では同時多発的に一点を目指してミサイルが飛んでいく様子が観測された。
◇
ドゥドゥドゥン! クククン!
無人偵察機が送ってくる画面の向こうで、
空を切り裂いて落ちるミサイルが連続して爆発した。
炎の嵐が吹き荒れた跡。
大地の熱が冷めないうちに空から灰が降ってくる。
無人偵察機が爆撃地点に移動し、悲惨な様子を送信し始めた。
燃える残骸の中で、見るも無惨に破壊された都市。
いかに規格外のモンスターとはいえ、戦闘機よりも速い、マッハの速度で落ちるミサイルを避けられるはずがない。
これが現代兵器を使った日本の底力。
火器はモンスターには効かないと習ったが、地形まで変える高火力であれば状況は変わる。
しかし、毎回このような火力を使って敵を制圧することもできず、モンスターの出現を制御することもできないため、柔軟な対応が可能な覚醒者が軍人を差し置いて前面に出るのが今の現代戦だった。
武器が要らないというわけではない。
あの爆炎の中では、たとえ雪女でも完全な形を保つのは難しいだろう。
1分… 5分… 10分……
雪女の痕跡は見つからなかったが、
時間が経つにつれて会場の雰囲気は明るくなった。
結局、規格外に分類されるモンスターでも、圧倒的な暴力の前では抵抗できないことが明らかになる瞬間だった。
雪女が死んだと判断した政府は、事態を収拾する前に、もし残っているかもしれない死体を回収するため、周辺で待機していた軍兵力を現場に送った。
死体は残っていないだろうが、
雪女クラスのモンスターなら、どの国も喉から手が出るほど欲しがる資源だろう。
これで東京に帰るのか。
各国から集まった覚醒者ももう集まらないだろうし、
W.D.C(世界防衛評議会)はここで閉幕するだろう。
寝床も地味に不便だったし、よかった。
帰り道にケイコ叔母さんへのお土産でも探してみようか……
誰もが祝杯を上げる瞬間、
誰かが人差し指で一点を指し、場に冷水を浴びせた。
「え?あそこ、何かおかしいぞ…?」
皆の視線が再び一点に集まる。
彼の言葉が真実であるかのように、残骸に覆われた丘が揺れ動き、雪女が姿を現した。
それと同時に、氷が雪女を中心に急速に広がり、
爆撃地点を捜索していた兵士たちは、反撃もできずに氷の彫像と化した。
チリチリ……
無人偵察機も力を失い、地面に落ちた。
「……」
「いやー、あそこで生き残るか?」
「だな、無傷でいるのは簡単じゃないだろうな。」
こいつらめ。
お前らには関係ない他国のことだ、ってことか。
彼らとは対照的に、この状況を見守る日本人たちの顔には影が差した。
慌ただしくどこかへ連絡していたレオ補佐官がマイクを握って言った。
「間もなく第二次爆撃が行われる予定です。」
その場から動いていない様子から、雪女がダメージを受けたと判断した日本政府が第二次爆撃を行うという。
私たちは別の無人偵察機に視点を切り替えた。
第一次爆撃の時よりも待つ時間は短かった。
遠くからミサイルが飛んでくるのが見える。
速度があまりにも速いため、あっという間に距離を詰めた。
まもなく雪女に向かって落ちるかと思われたが……
今回は届く前に空中で氷の塊と化した。
凍り付いたミサイルは地面に落ち、粉々に砕け散った。
「うむ。」
「ほう。」
雪女が再び動き始めた。
部屋に残っていた人々はレオ補佐官を振り返って言った。
「さて、どうする?ご覧の通り無傷だが。」
「いいえ。雪女は全く被害を受けていないように見えますが、画面をご覧いただければお分かりの通り、周囲の地形が雪に覆われていません。」
その言葉に再び画面を覗き込んだ。
確かに…最初に来た時は一面の雪の世界だったが、
今は周囲の縁だけが雪と氷に覆われていた。
「そして、日本全国の防衛隊員が雪女を阻止するために動いていますので、我々も今から出発します。」
雪女の南下により、恐れをなしたモンスターたちが地域を移動しているという。
北の方の地域はまさに修羅場、今こそ皆が力を合わせる時だ。
私たちは準備された車に乗り込み出発した。
車は全部で3台。
私とレオ補佐官が乗っている車と、
アメリカと統一韓国が乗っている車が別々に動いた。
元々いた人々に比べれば、ほんの一握りの人数だ。
他の人々はこの事態が発生するとすぐに逃げるように去っていった。
残った2カ国は三国間の軍事協力を結んでいる国なので、このような戦時状況で助けることになっているため、去らずに残っているが、大きな期待はしない方が良いとのことだ。
「…後ろで助けるふりだけするかもしれないしな。とにかく、最終的な解決は我々の役目だ。」
以前のオーガの時とは状況が明らかに違う。
時間が経つにつれて雪女に近づくという緊張感を感じた私は、血が通わないほど拳を固く握りしめた。
エンジン音だけが満ちた車内。
移動中、誰も口を開かなかった。
それぞれが迫り来る戦いに備えている。
まだ到着まで時間があるので、
体の状態を最高にするために休むことにし、目を閉じた。
キーッ。
そうしてどれくらいの時間が流れたのか分からないが、車が止まる音に閉じていた目を開けた。
「前方でモンスターウェーブが発生しました。」




