16. 図書館の司書、綾乃さん
数ある地域の中から福島市が指名された理由はこうだという。
以前にテロの兆候が一度捕捉されたことがあり、大都市で開催するにはリスクが高い。かといって田舎で開催するには適当な場所もなく、国際社会への見栄えを無視することもできないため、東京から近く、大きくも小さくもない福島市が選定されたそうだ。
理由があってのことではないらしいが、私はそれについて何の考えもない。
どうせうまく決めてくれたのだろうから、私は東京から遠くないというだけで満足だ。
そうして今回のW.D.C(世界防衛評議会)は、合計3日間にわたって開催されることになった。
1日目。
これまでレオ補佐官とあちこちを回りながら、テロの危険にさらされていないか安全点検を行った。
しかし、前の担当者がすでに何度も確認を終えており、私たちが覚醒者の視点で見ても、東京のように不穏な動きは感知されなかった。
「久しぶり。元気だった?」
「お会いできて光栄です。私はいつも元気ですよ。こちらは新しく入った新入りです。」
「こんにちは。ユマと申します。よろしくお願いします。」
「ああ、そうか。レオさんと一緒に来たのを見ると、将来性のある友人のようだね。これからよろしく。」
私は特別任務だと聞いて、評議会でどんな仕事をするのか気になっていたのだが、
ご覧の通り、今のように他国の覚醒者たちと会って顔を繋いでいた。
ただ、初めて会う人たちと会うたびにエネルギーを使うので、訓練するのと同じくらい疲れた。
「いっそ現場の方がマシですね。」
「私もそう思う。だが、ここでの仕事も現場に劣らず重要な仕事だ。私には関係ないが、他の人がいるところでは口を慎むのを忘れるな。」
彼の言葉通り、ここでの仕事が重要だということくらいは私も知っている。
もしかしたら現場よりも重要度が高いかもしれないということも。
マサヒロ隊長が言っていなかったか。
特に何もない限り、次期防衛隊長候補はレオ補佐官が有力だと。
この場に集まった各国の覚醒者たちは、単に強いだけの者たちではない。
私が彼らが誰であるかは知らないが、何人かは一度くらいテレビで見たことがあることから、それぞれの国でも重要な位置にいる人々だろう。
日本が覚醒者強国だと言っても、彼らも限界を持つ人間。
このような時期に孤立を選ぶのは愚かなことではないだろうか。
おそらく…これまでの現場の状況とレオ補佐官だけを見ても、W.D.Cは各国有望株を集めた社交場ではないかと私は考えている。
ただ、なぜこのイベントが他国ではなく日本だけで開催されるのかは疑問だった。
しかし、それもまた日本が国際社会でどれほど高い地位を占めているかを示す姿であり、日本が正しい道を進んでいるという意味なのだから、内心良いことは良いことだと思った。
そうしてしばらくレオと歩き回った。
彼が隣にいると、私にまで関心が向くのだが、
新入りだと言うと、ほとんどの人がすぐに興味を失った様子を見せた。
しばらく忙しく過ごしているうちに、ちょうど空き時間ができた。
「少し休ませてください。」
「ああ、遠くへ行くなよ。」
私は快適に休める場所を探そうと会場を出て、隅の方に入っていった。
ちょうど、自動販売機のある場所には人が通っていなかった。
会場には高級な食べ物がずらりと並んでいるので、わざわざ自動販売機に目を向ける者はいないのだろう。
砂漠でオアシスを発見した気分になった私は、素早く空いている椅子に座った。
飲み物でも飲もうかとポケットを探ってみるのだが。
「ああ…仕方ない。」
私が飲みたい飲み物に比べて、持っているお金が足りなかった。
今なら拳を握って自動販売機を一度叩けばお金が降ってくるのに、というくだらないことを考えていると、
「何が飲みたいですか?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返ると、少し前に挨拶を交わした人だった。
名前は確か…アヤノさんだったか?
「ちょうど、私も飲みたいものがあるので。こうして会ったのも縁ですし、私が奢りますよ。」
「じゃあ、これください。」
彼女の言葉に、私は自動販売機の中の物を指差した。
ガチャン。
「はい、どうぞ。」
よく知らない人だが、
自分のお金で飲むよりも、誰かが奢ってくれるのが一番美味しいものだ。
「ありがとうございます。いただきます。」
私は彼女が差し出す飲み物をためらわずに受け取って飲んだ。
ゴクリ。
少しずつ飲み物を飲み干していく。
お互い食べるばかりで会話がないので、なんだか気まずい。
奢ってもらった手前、心理的なプレッシャーから何か話さなければならないような気がした。
「お仕事は何をされているんですか?」
ああ…自分で言っておきながら呆れる質問だ。
ここにいるのだから、当然防衛隊で働いている人だろう。
私の言葉を聞いたアヤノが、そっと笑って言った。
「防衛隊で働いています。ユマさんは?」
私の名前を覚えていてくれた。
「私も防衛隊で働いています。」
「学生さんですか?」
学生らしい行動はしていないが、
一般的に見ればまだ学生ではないだろうか?
二つの仕事をすることを兼業と言ったっけ?
よし、私は今日から兼業ということにしておこう。
「…はい。」
私の言葉に、彼女は手を叩いて喜んだ。
「やっぱり若く見えると思った!そうだったんですね。羨ましいな…私も一時期はそんな時があったのに…剣を持っているのを見ると…現場職?」
「はい。」
「やりたいことがたくさんあるお年頃なのに、大変ですね。」
「大変なのは皆さん同じですよ。ところで、アヤノさんは防衛隊でどんな仕事をされているんですか?」
「図書館を管理する司書です。防衛隊に入る前も同じ仕事をしていたんですが、ここに入ってからもそうだとすると、私はこの仕事が天職なのかもしれませんね。」
明るい顔で笑いながら話すアヤノは、その仕事を愛しているようだった。
本といえば私とは縁のない物だが、なぜ防衛隊に図書館があるのか分からない。しかし、あまりにも広い場所なので、私がまだ知らない場所もたくさんあるだろう。
後で暇になったら一度行ってみるのも良いかもしれない。
「あ、私を探している人がいるようです。先に行きますね。久しぶりに楽しかったです。Bye bye。」
スーツを着た人が現れ、彼女を連れて行った。
最初は一人でいるのが良いと思っていたが、そばにいるだけで明るいオーラを放つ人と一緒にいるのも悪くなかった。
私は飲み終えた飲み物をゴミ箱に捨てて、会場に戻った。




