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さよなら恋人、こんにちは相棒

「ねえ、私たちって最近、なんか“恋人”って感じしなくない?」


日曜の昼下がり、ソファに座っていた遥が、コーヒーを飲む翔にぽつりと言った。


「うん……たしかに。悪くはないんだけどさ。ドキドキとか、なくなったよね。」


翔は答えながら、遥の差し出したクッションを受け取る。自然すぎるやり取りに、ふたりして苦笑いした。


大学時代から付き合ってもう6年。

同棲を始めた頃は、何をするにも新鮮だった。

でも今は、一緒にいることが当たり前すぎて、まるで空気みたいだ。


喧嘩もない。問題もない。

だけど“恋”という火は、静かに消えていた。


「ねえ、翔。別れようか。」


「……え?」


「恋人って形はやめて、もっと自然な形になれないかなって思って。」


翔はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。


「それってつまり、“友達に戻ろう”ってこと?」


「ううん、戻るっていうより、“進化”したいの。

兄妹みたいに、家族みたいに、なんでも言い合えて支え合える関係に。

恋って感情がなくても、私はあなたといたい。」


翔は目を見開き、そして静かに頷いた。


「……そうだな。俺も、遥と一緒にいるのが好きだよ。恋とは違うけど、きっとそれ以上に信頼してる。」


翌日からふたりは、寝室を分けた。

キスもしない、手も繋がない。

けれど、一緒にご飯を食べ、くだらないことで笑い合い、悩みがあれば深夜まで語り合った。


友達のようで、兄弟のようで、家族のような――不思議で穏やかな関係。


ある日、遥が風邪をひいて寝込んだとき。

翔はお粥を作って枕元に運び、額に手を当てた。


「昔はキスで治そうとしてたな」


「今は?」


「看病で本気出す。兄として」


「……なんか悪くないね、それ」


ふたりは顔を見合わせ、声を出して笑った。


恋のときめきはもうない。

けれどその代わりに、もっと深く、静かな安心感があった。


そして今日も、ふたりは並んでソファに座る。

「恋人」じゃなくなったけれど、

「相棒」として、これからも一緒に人生を歩んでいく。

恋が終わったあとに残ったものは、

愛よりも強い、信頼という絆だった。


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