3 華のサークル
大学の入学式は大変に質素なものだった。大学は我々に適当な学籍番号を振り分けて、あくまでも事務的作業のようにそつなくこなした。
「年寄りの説教話ばっかりよ……」
入学式が終わると、私より派手な化粧に身を包んだ女奴もは口々に愚痴をこぼした。ここの会場にいる新入生は、三流ともつかぬ大学に対して根っから期待は寄せていないように思えた。
(こんなんで大丈夫かしら)
先のデートで喰らった仕打ちは未だ私の腑を弄るように苦い記憶として思い起こされるのであった。
私はそうした鬱憤ばらしと言わぬばかりに、大学の新入生歓迎会とやらに頻繁に顔を出した。
「軟式野球部女子マネ募集! おっ!君もやってみない?」
と、今風の洋装に身を包んだ男が声をかけてきたりもした。
「いやぁ、大丈夫ですね」
私は毅然とした態度でそうした誘いを断り続けた。
(あんな部活に入れば私は食い物になる)
そして何より、私には心に決めた部活がある。それが「お笑い研究部」である。もとより私は、お笑いに関していえばある程度詳しいわけだし、人一倍感性も鋭いと考えている。先のデートで傷ついた私は一種の防衛機制のようなものでこの答えに辿り着いたのである。
お笑い研究部は改名後の名前だが、その前進として当時は落研と名乗っていた。落語研究会の俗称である。
その落研のブースの前に立つと、悠然と腕を組みながら座っている小柄な男性がいた。
「ひょっとしてお笑い興味ある?」
「は、はい」
その小柄な男は立ちすくむ私を目の前にして上目遣いで聞いてきた。
「私、ランシャタイが好きです」
「おっほほ、いいねぇ」
「あの矢継ぎ早に展開されるボケが中毒性あって好きですね」
「確かにシュールだよな」
私の居場所はここだったのだ。まず第一にお笑い芸人の名前が共通言語のように流用されていること。そして次に、体育会系特有の押し売りとも言うべき会話(もはや繁華街のキャッチ)が存在しないこと。何にしても、見識の深い人間同士の会話は、小鳥の囀りや夜虫の鳴き声が如く滑らかなもので大変に心地が良い。
小柄な男は私の決然とした目線を感じ取ったらしく、早くも次の部会の話をしてくれた。
「次の部会はこの日にあるんだけど、来てくれる?」
「はい! もちろんです」
「自己紹介くらいしかしないかもだけど、もしかしたら大喜利するかもしれないから」
「いやぁ、楽しみですよ」
私は気付くとかなりの前傾姿勢になっていた。ひょっとすると、私の唾が男の顔面に霧のようにしてかかっていたかもしれない。だがその時の私は、そうした女性としての品位などどうでもいいほどに、お笑いに対する熱にうなされていた。