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7羽 ポロリもあるよ

「どうでもいい」と言われてしまった昨日から、どうにも気持ちが乗らないな。オマケにパンツが一枚も乾いてなくて、履いてない。

落ち着くことが出来ないでいて、まるで抜け毛のひどいニワトリみたいにムダに動き回ってしまう。俺だけでなく、色々と。

 心、ここにあらずでこういう時は危ない。

なんて気をつけていたのにダスターの下に隠れていた包丁を握ってしまった。

今朝ピンピンに研いで、最初に切ったお肉が俺の指・・・。しかも利き手。

なんなんだ今日は⤵⤵

 そういや、むか~し勤めていた会社の嫌な上司が


「手なんか切ってんじゃねーよ!!

肉切れよ馬鹿が!!痛ぇだと!?そんなもん接着剤でも塗っておきゃ大丈夫なんだよ!」


って無茶ぶりゆってたなぁ・・・。

 んー、ここには接着剤はないし、あれは滲みて痛かったし(というか激烈に熱かった、が正しいかも)とりあえず輪ゴムで止血だな。

お手洗いで処置するついでに、用を足したのだけど、ウ~ン、出し入れとチャックの上げ下げが難しいかもね。が、履いてないのがここに来て役に立つ。ポロッと出してポロッとしまえばいいんだもんね。

おっと手袋、手袋。

 コレな~、中見えないから忙しくて輪ゴム放置してると、指が冷たくどす黒い紫に変色しちゃっててな~。あれは焦った!今回は気をつけるぞ!っと。


「いや~、っ痛ぅ~う」


指の関節辺りをパクッとやってしまった為にミルのハンドルが回しづらい。でもコーヒー飲みたい。日課だし。


「鶏は・・・アミアミが揚げ物終わってからやってもらうかな。サワリには肉を盛り付けたバットを対面にばっと運んでもらお。

・・・バットをばっと・・・くくっ。

あー・・・いや、ダメだな。「最悪ですぅ」とか言われちゃうな・・・ばっとなだけに♪

くくくっ」


どうにも独り言の癖が抜けない。しかもけっこうしょーもない事で笑っている自分がいる。分かってるよ。ツマラナイだろ?


「分かっちゃいるけどやめられない、ね」


「なにがやめられないんです?」


「うひあ!?ワア、二人ともおはよう!びっくりしたよ!いつ来たの??早くない??」


「ちゃんと「おはよう御座います」って入ってきましたよ?えと、なんか「ばっとなだけに」とか言って薄ら笑いしてた時ですね」


薄ら笑い・・・ええ、はいはい、どうせ俺なんか助平でいつもニヤついてるオトコノヒトですよ。なんか卑屈になっちゃうな。


「あの、コレ一緒に食べませんか?昨日はスミマセンでした。なんかアタマ痛くて無駄にイライラしてて、言葉足らずで当たっちゃってたかなぁって。

・・・テンチョー凹んでて悪い事しちゃったなって。反省です。ごめんなさい。で、コレ」


アタマを下げながら、手提げ袋の中からMoryの缶を取り出して差し出してきた。


「そんな・・・!俺は大丈夫だよ!逆に気を遣わせてしまって申し訳ない!!」


「いえいえ!昨日の帰り道でアミちゃんと

ちょっとひどかったかなあって話してて・・・。それでテンチョー甘いもの好きだから・・・。私たちも頂くから気兼ねなく召し上がってください」


・・・この気遣い・・・ホント、涙でそうになるからやめて・・・。


「うん、分かったよ。ありがたく頂戴致します。丁度、豆挽けたところだから先に着替えておいで。

・・・Moryのチョコミルフィーユか!美味しいよね♪ありがとう御座います♪」


二人が着替えている隙に手袋を取り替えよう。グリーストラップの横の溝の上で手袋をひっくり返すと、けっこう深かったみたいでタパタパっと血が垂れた。


「ふ~ん、まずいねぇ。出来ればあまり知られたくはないんだよなぁ。輪ゴムじゃ限度あるし・・・」


よし。こんな時はテープで!

「おっと!セロハンのぐるぐる巻き攻撃!!

効果はバツグンだ!!」また独り言。

一カ所で山に為らないよう広くしっかり巻いていく。


「よし!でけた!フエッ、フエッ、フエッ~これでバレやしないな」


「なにがバレないんです?」


「うひあ!?って、またかーい!!びっくりして心臓飛び出るっちゅー・・・!!!」


ホントに飛び出るかと思った。ついでに目玉も!マンガなら「パリン!!」て眼鏡突き破るやつ。あれ位びっくりした。

 二人とも、何故にハダカで立っている!?

俺は瞬で目をそらして必死に考えた。

(え?ええ!?何!?・・・アアッ!!わかった!!私たちも召し上がれ♡的な?

いや!待って!心の準備がっ!!)

まあ、浅い思考じゃこんなもんか・・・。


「ちょっ!二人とも服は!?」


実際は意気地なしの俺。直視する事が出来ずに、うつむいたままで尋ねた。


「え?これじゃ、ダメですかぁ?」


「なんかサワちゃんもアタシも昨日、洗濯しちゃったんです。そしたら乾かなくって!

動きやすいし、いいかなって」


ってキミらもかい!!いや少なくとも、俺は上は着てますよ!?いや、まあ動きやすいだろうけど、いろいろ不具合が・・・。俺がエビで動けなくなっちゃうでしょうが!!


「あ、サワちゃんの爺youのパンツ!それアタシも持ってる~。その色、いいよね!!」


「ねー!もう、ここの制服用でいいかなと思ってさ~」


自由なパンツって何?見えてないよ??透けてるの??ん・・・んん??透けて??

 

「そいや、テンチョー、中身がミルフィーユってよくわかりましたね!!さすが甘いもの好き!!」


あああ!!缶の中身が判った時点で気がつくべきだった!さっきまでなんともなかったのに!

 ナイス神様

違った。こんなにもしてくれる二人に失礼じゃないですかぁ!!

 コーヒー飲んでる間に、何とか治まればと、逃げるように外へタバコを吸いにでたが

 ・・・そんな俺の気持ちとは裏腹にそのうち消える筈のスキルが、今日に限って中々治まらない。モモやらプリンやらが行ったり来たりで、目がクラクラ。

 し、仕事が手につかないよ~(泣)

ぼうと熱っぽく、フラフラしている俺を心配したサワリがこちらに近づいて来てしまった。


「きゃあっ!」


後ろ結びにしたエプロンの紐が冷蔵庫の把手に引っ掛かったらしく(俺には見えないが)反動で倒れそうになった。


「危ない!」


冷蔵庫の側には作業台があり、そこで倒れたらアタマをぶつけてしまう!!

 肩肉を成形していた俺は即座に、作業台とアタマとの間に手を差し出してサワリのアタマを守った。


「ぐっっ!!」


今朝切った指の傷が更に広がり、手袋の中が血でタプタプする感覚がある。あ~あ、やっちゃった。

 咄嗟に右手を隠して左手を差し出す。


「大丈夫?」


びっくりして今まで泣きそうだった顔が、少し恥ずかしそうに赤みを帯びている。差し伸べた手を途中で受け取らずにゆっくりと引き、うつむきながら答えた。


「ありがとう・・・御座います・・・」


やはり顔が赤い。耳まで赤い。俺の手を取るのを恥じらってるなんて、なんてカワイイんだ!!


「なに。キミが怪我しなくてよかった。でも、気をつけないとね」


紳士的にややトーンを低めにカッコつけてみた。


「ちょっとサワちゃん大丈夫!?サワちゃんボケッとしてるとこあるからさ~!!気をつけ・・・な・・いと」


アミアミが心配して近寄ってきたが、突如固まる。

 なんだ!?サワリは恥じらってるしアミアミは固まってるし、どういう事!?


「・・・テンチョー。それ・・・」


「は??」


「・・・出てます」


アミアミの視線をたどると、そこにはあってはならないモノがポロッと!!しかもけっこう上向きで!!


「きゃああああっっ!!」


恥ずかしさのあまり、変に高い声が出る。

サワリをガードしようと踏ん張った時にチャックが壊れ、勢いで出て来てしまったようだった。急いでしまおうとした時チャックで手袋が破れ、たまった血がこぼれる。


「テンチョー!!血!血!」


「もう!!テンチョー!!やだもう~~!

私のせい!?どっちも私のせい!?」


「いや!ちょいまち!!色々とあってこんなになって。怪我はせいじゃなくて、コレはせいもある。いや!なくて!ワケを!!ワケを話させてー!」


嗚呼、もう阿鼻叫喚だ。なんなんだ今日は!!!イジメか!?社畜時代でもこんな恥辱プレイなかったぞ!!

 神様のばかぁ!!


 その後、会話なく気まずい時間が流れて行ったのは、言うまでも無い。

 二人が帰った後、臨時休業の張り紙を出して、ひざを抱えて独り泣いた。

・・・もう、お婿にいけない・・・グスン。

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