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第二話「ゲームは現実の延長なのか?」 3

 数分後。


「これくらいにしておきましょうか。私は初心者のあなたにどうしても勝ちたいというわけではありませんので」


 サミジーナの残りライフギリギリでミチルがゲーム終了を宣言する。


「た、助かった……」


 膝に両手をつきながら彩花が言う。


 徹底的に、こてんぱんに、彩花はミチルに叩きのめされた。


 彩花の攻撃は当たらず、ミチルの攻撃はほとんどが当たる。


 走って射程に入ろうとしても、ミチルはその分、距離を取る。


 ライフを見ている余裕もほとんどなかった。


 紗希のスキルを使っても、ミチルのフォカロルは避ける避ける。


「避けすぎ……」


 ミチルは顎に手を当てる。


「タイミングが遅すぎる、連携が出来ていない。及第点には到底届きませんが、まあ、初戦にしてはまずまずでしょう。しかし、このゲームはすでに初級者がほとんどいなくなっていますので、この先はちょっと厳しいですね」


 新規参入に優しくないゲームか。


 開始から長期間経ったオンラインゲームと同じ現象がこのゲームでも起こっているのだろう。


「それにそうですね、私は紗希のスキルを把握していますから、大体の対策も思いつきますし。彼を知り己を知れば百戦危うからず、ですよ」


「ずるい……」


 距離を取ろうにも足場が悪いのもあって足がもたつく。


「それに、やはり、運動不足のようですね」


 ミチルの言う通りだ。


 彩花は前半で体力を使い切り、後半はよたよた歩いてしまっていた。今も肩で呼吸しているし、酸素も足りない。仰向けになって寝そべりたい気分だった。


 倒れ崩れてしまいそうなのを、意地で我慢しているだけだ。


 もう少し戦っていれば、彩花は敗北して、あの電撃を再び味わうことになっていただろう。


 対するミチルは息も切らしていない。


 かなり余裕があるところを見せている。


 ふーと胸をなで下ろして、彩花は少し安堵をする。


「ね、ねえ」


「はい」


 疑問に思っていたことをミチルに聞く。


「た、たとえば、なんだけど、私が、あなたを押し倒したりしたら……。どうなる、の?」


「押し倒したいんですか?」


 真顔でミチルが返す。


「い、いや、そうじゃないけど、だって、ゲームで熱くなったりするかもしれないし」


 これはゲームだとわかっていても、ゲームだからこそ、熱くなるかもしれない。


 生身の人間同士でケンカになることもあるかもしれない。


 それは放っておかれるのだろうか。


「やってみた方がいいですよ」


 さもそれがどうなるか知っているかのように、ミチルが言った。


「えっと、それじゃ」


 彩花はゆっくりと歩いて、動かないミチルへと近づく。サミジーナはついてきたが、フォカロルは反応しない。


 あと一歩で手が届くほどまで近づいて、二人のサークルが重なり、彩花が砂に映るミチルのサークルを踏んだ。


『警告です。プレイヤーが対象のサークル内に侵入しました。警告です。いますぐ離れてください』


 すると、空で浮いている裁定者から警告が入った。


 裁定者が白い日傘を閉じる。


 そして、その日傘で彩花を指した。


 すごく、嫌な予感がした。


「そのまま、どうぞ」


 顔を横に向け、左頬をミチルは彩花に向けた。頬を叩けという意味だろうかと、彩花はペちっと痛みがない程度に叩いた。


『プレイヤーが接触を行いました』


 裁定者が彩花に向けていた日傘をくいっと少しだけ上に動かす。


 まるで、銃を撃つように。


『ペナルティが与えられます』


「え、あっ」


 裁定者の声がしたかと思うと、間を開けることなく左手に強い静電気に触れたみたいなショックが走った。


「い、いったあ」


「こうなります」


 だから先に言え。


 まあ、ちょっとわかっていたけど。


「接触行為はペナルティの対象です。指輪を通して電気が走ります。意図的な接触はグリモアのライフを強制的に減らしますし、複数回繰り返せば、自動的に負けになります。もっとも、この電撃を何度も耐えられるかどうかはちょっと実験していないのでわかりかねますが」


 かなり痛い。


 静電気の数倍というダメージはあるだろう。遊びにしては、ちょっと冗談がすぎる痛みだ。


 だからさっきミチルが射程の話をするために近寄ってきたときも、サークル分だけは距離を取っていたのだ。


「と、そろそろですね」


『タイムアウトまであと一分です』


 裁定者の宣言だ。


「一試合の時間制限は十五分です。こればかりは表示がないので、タイマーをあらかじめレンズに設定しておくか、勘で計るしかありません。大抵はもちろんタイマー管理ですね。私もそうしています」


 それも最初に言っておくべきことではないか、と突っ込みを入れたくなる気持ちを抑えて、彩花は慌てて残り一分のタイマーを起動する。


「それ以上は続けられません」


「そ、そ、そうするとどうなるの?」


「何事も経験です。試してみましょう」


 彩花のレンズに減り続ける残り時間が表示される。


 3,2,1……


 この後起こることが、なんとなく予想できた。


 ジリリリリリリ


 イヤフォンからアラームが鳴り響く。


『タイムオーバーです。ゲームが終了しました。両者にペナルティが与えられます。お疲れ様でした』

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