第六話「諦めは現実の妥協なのか?」 2
彩花がドアを開ける。
そこは円形のホールになっていた。バスケットコートくらいはあるだろう。
その中央に、ベッドが一台置かれている。
誰かが眠っているようだった。
先ほどの部屋とは比べものにならない数のケーブルがベッドから伸びていて、そこから大きな機械に繋がっていた。
ベッドに近づき、彩花は眠っている人物が誰なのかようやく気づく。
白いワンピースを着て、目を閉じている。
「裁定者?」
眠っているのはこれまで何度も見た、裁定者だった。
違いはトレードマークとも言える眼帯をしていないことくらいだろう。眼帯はないが目は閉じられている。日傘も手にしていない。手から伸びているのは無数のコードだ。
「え?」
彩花の指輪が光った。
呼び出してもいないのに、サミジーナが召喚される。
「ようやく、会えた」
「い、ちじょう、さん」
裁定者のベッドの向かい側に、いつの間にか一条がいた。一条はいつか会ったときと同じように、リアルと同じように、着物を着て、長い髪を揺らしている。
一条が黒縁のメガネに手を添えた。
「祈でいいって言ったのに」
「それは」
「あれは、夢の世界で、そしてもう一つの現実よ」
嬉しそうに彼女は微笑んでいる。
「じゃあ、祈が本当に」
夢の中で話しかけていたのか。
「そう。少なくとも、私にとっては、今は現実以上の現実」
話が通じていないのかと思うほど、祈は一人で話す。
「燐、起きて」
祈が眠っている裁定者に呼びかける。
燐と呼ばれた少女からふわり、と起き上がる。
少女はベッドから降りて祈の横に立つ。
「うん」
その声はこれまで聞いていた裁定者の声そのままだった。
「バエル、おいで」
天井からカエルが降ってくる。
カエルは少女の頭にぴったりと収まった。
少女が白い右腕を柔らかく横に伸ばす。
「傘」
空間からゲームのときに少女がいつも持っている日傘が現れて、彼女はその柄を握った。
祈がニコリと笑って言った。
「ようこそ、私たちの世界に」




