第五話「祈りは現実の否定なのか?」 5
「くっ」
勝負が終わり、ニーナが膝をつく。敗北の証、電撃を受けたのだ。
「こなたさん!」
彩花はこなたに駆け寄った。
こなたは仰向けに倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
どう見ても大丈夫ではない。電撃を受けたはずのニーナよりも体力がなくなっているようだ。
「いやあ、勝ててよかったよ」
「ありがとう、こなたさん」
「……でも、どうやら私はここまでのようだね」
倒れたまま、こなたは天井を見つめて彩花と目を合わせない。合わせるために首を動かす体力すらないようだ。
「こなた、さん」
「ちょっとだけでもコンビを組んだんだ、こなたでいいよ。私も彩花って呼ぶから。ね、彩花」
「……こなた、誰か呼んでくるから」
「私は本当に大丈夫だよ、そうだろ?」
こなたが少し声を大きくして、ニーナに聞こえるように言った。
ニーナはすでに立ち上がっていて、膝の埃を払っている。
「ええ、そうですね、あなたは大丈夫です。残り時間もないのによくやってくれましたね、もう大丈夫でしょう」
二度、大丈夫だとニーナは繰り返した。
「はは、そうか」
嬉しそうな、諦めたような、そんな声でこなたが言った。
「あとで救急班を呼んでおきます」
こなたとニーナは二人にしかわからない会話をしている。
「な、大丈夫だろ?」
こなたは彩花に言う。
「この先に行くのかい? 彩花にとってメリットはないだろう?」
「かなたさんを助けなくていいの?」
「……助けに行ってくれるのかい?」
「うん」
「そうか、頼むよ」
こなたがそう言って、思い詰めたように続けた。
「願いごと」
「かなたさんの」
彼女の心臓の手術をするという二人の願いごとだ。
「私は嘘をついていた」
「うん」
「……本当は、心臓が悪いのは私の方なんだよ」
こなたが告白をした。
「え……、かなたさんは」
「かなたは元気そのものさ。ああ見えて、元気すぎて困るくらいだ。でも私はもう限界だ。使用期限をすっかり越してしまっている。本当は走り回るのも辛い」
「そう、だったの」
「使用期限を伸ばす方法は一つだけだった」
KLSが所有している自己生体移植技術を適用することだ。
「私だけが戦っていればよかったのに。願いごととリスクの話を聞いたとき、かなたをゲームから降ろさせればよかったのに。かなたがどうしても続けたいって言うんだ。これは二人の願いごとだって」
ようやく合点がいった。
だからかなたは、こなたを助けてと夢の中で言ったのだ。
「かなたを巻き込んでしまった。それが一番の後悔だ」
こなたが目を閉じた。
「ああ、そうだね、君まで巻き込んでしまった」
「あの、こなたを」
彩花に話しかけれられたニーナがうなずく。
「我々が責任を持って保護します」
「……よかった」
「勝負に勝ったんだ、鍵を彩花に」
この先のドアを開けるための鍵のことだろう。
ニーナが持っているのだ。
こなたの言葉にニーナは首を振った。
「それはもう要りません。彼女ももうすぐ時間が来ます」
「……そうか、最初から君は勝つ気がなかったんだ」
「そうですね、ただの時間稼ぎではありましたが、正々堂々と相手はしましたよ。二人の時計が終わりを告げるまで」
「……それはすまないことをした。彩花、ごめん」
「なにを言っているの?」
彩花の質問にはこなたは答えない。
もう聞こえていないのかもしれない。
「もうだめだ。少し眠るよ。そうか、眠るのか、私は」
「おやすみなさい」
高圧的ではなく、優しい声でニーナはこなたに言った。




