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第四話「願いは現実の拒絶なのか?」 5

「さあ、始めよう」


 こなたがまず宣言をした。


 紗希が彩花に合図を送る。


「それじゃ、まずは予定通りに」


「うん」


 こなたとかなたに向かう二人は、彩花を前に、紗希が数歩後ろを陣取った。


「なるほど」


 こなたが顎に手を当てる。


 剣を持つ彩花のサミジーナが前衛、弓を持つ紗希のレラージュが後衛になる、オーソドックスな陣形だろう。


「レラージュ、雨霰」


 紗希の指示通り、レラージュが上空に矢を放ち、空からいくつもの矢が降り注ぐ。


 対するこなたかなたコンビは、二人揃って並んでいた。


「ムルムル、死霊を」


 こなたが指示を出す。


 ムルムルが杖を振った。


 するとムルムルの前に十数ものぼんやりとした影が現れる。影は次第に姿を形作り、それぞれ黒い人型の靄になった。


 死霊たちはムルムルの周辺で壁を作るように立ち塞がり、レラージュの矢を代わりに受け止める。


「この程度なら大丈夫か」


 こなたが言う。


「へえ」


 紗希が感心していた。


「かなた」


「うん」


 こなたが促す。


「フルフル、雷鳴」


 かなたが宣言した。


 フルフルが首を大きく振る。それに合わせて炎の尻尾も揺れた。


「避けろ、彩花!」


 空から細い雷が振り注ぎ、サミジーナに向かっていく。


「うわっ」


 サミジーナがギリギリで避けるものの、接触した分、少しだけライフを持っていかれる。


「死霊よ、隊列を組め」


 こなたの命令で、靄たちは四列になった。


 いつの間にか、死霊の手には剣や槍などが握られている。


「総員、攻撃を」


 こなたが前に進み、彩花との距離を詰める。


「サミジーナ、向かい打て」


「レラージュ、死霊に矢を」


 サミジーナがいくつかの死霊をなぎ払い、残った分をレラージュが射貫く。最後尾にいるムルムルには攻撃は届かない。


「大丈夫か彩花」


「大丈夫、そんなに強くない」


 紗希の言葉に彩花が返した。


 一体一体は攻撃力も防御力も高くない。今の彩花でも捌ききれるくらいだ。


「その通り、なんだけどね」


 二人の会話を聞いてこなたが小さく笑った。


「ムルムル、死霊を」


 すぐに靄の死霊は復活する。


「隊列を組んで、進め」


「フルフル、雷矢、レラージュに」


 今度はかなたの鹿から、真っ直ぐに長い雷がレラージュに向かう。


「レラージュ避けろ!」


 速度のある雷は避けきれず、一部がレラージュの右肩を擦る。


「擦っただけでダメージか。矢じゃ雷は撃ち落とせそうもないしな」


「死霊、攻撃を」


「サミジーナ、攻撃!」


 レラージュがサミジーナの助けに入ればフルフルの攻撃に晒されてしまう。サミジーナ一体ではムルムルの死霊の攻撃をすべて捌ききることができない。


「急ごしらえのコンビでは、私たちは崩せないよ」


 こなたが余裕の表情で言った。


 そこから先は、防戦一方になった。


 ムルムルが死霊を呼び出し、前衛のサミジーナに攻撃をする。


 サミジーナはすべてを倒すことはできず、弱いもののいくらかのダメージを負ってしまう。


 レラージュはフルフルに牽制されているのでうかつに助けにいけない。


 それをただ繰り返しているだけではジリ貧になっていくのは目に見えていた。


「このままじゃ、サミジーナがやられちゃうな。彩花、ここは一旦引こう」


 紗希の指示通り、彩花が下がり紗希の横まで戻る。


「サミジーナのコピーを使うしかない」


「うん」


「それじゃ一緒に。レラージュ、魔弾を放て」


「サミジーナ、魔弾」


 レラージュから二本、サミジーナから一本の矢が放たれ、正面に構えている死霊たちを避けるように左右からムルムルに襲いかかる。


「なるほど。死霊よ囲め」


 残っている死霊がムルムルをドーム状に囲み、全方位を守る。三本の矢は死霊の壁を崩せず、死霊に当たり消滅した。弾けた矢の破片が多少ムルムルに当たる程度で、大きなライフ減にはなっていないだろう。


「これでも致命傷はダメか」


「サミジーナのコピー能力は知っているよ」


「ああ、そうか」


 彩花のサミジーナが、本来一条のグリモアであることを二人は知っているのだ。


「私がもう一度行く」


 彩花が飛び出して、左へ回りながら走り出す。


「サミジーナ、剣を」


 ムルムルに近づき、残り数体になっている死霊ごと、ムルムルに斬りつける。死霊は消え去り、ムルムルが杖で受け止める。


 その衝撃でムルムルが後ずさった。


「やった、サミジーナもう一回攻撃を」


「彩花、突っ込みすぎだ!」


 チャンスとばかりに攻めようとした彩花を紗希がなぜか制止する。


 こなたは剣を振ろうとするサミジーナを避ける命令を出すどころか、自ら一歩サミジーナに近づいた。


 こなたが直接、仮想現実のサミジーナの中に右手を入れる。


「ムルムル、魅了」


 ムルムルが杖を振り鳴らす。


「サミジーナ、魔弾」


 こなたが、サミジーナに命令をした。


「えっ、サミジーナ!」


 こなたの指示を受けたサミジーナは、くるりと反対を向き、レラージュに向かって弓を引く。


「レラージュ、撃ち落とせ!」


 紗希が命令をするが、矢はレラージュに向かわずもっとも近くにいたフルフルに向かって飛んでいく。


「ち、ミスった」


 難なくフルフルは矢を避ける。


「ムルムル、サミジーナを打て」


 杖を振り上げ、ムルムルがぼうっと立っているだけのサミジーナを打つ。


 紗希が走り、困惑している彩花の手を引いて無理矢理後ろに引き戻す。


「なにあれ!」


「一定時間味方に引き込むスキルだ!」


「そんなの知らなかったよ」


「とにかく退却だ」


 紗希に引きずられるようにして、彩花がこなたから離れていく。


「あと一手。死霊を!」


 こなたが追撃のため二人のところへ向かおうと走る。


 かなたがこなたの後ろを追いかける。


「こなちゃん待って!」


「つっ」


 走りすぎたのか、こなたが手で胸を押さえた。


「こなちゃん!」


 ムルムルが召喚していた死霊が消滅する。


「大丈夫」


 位置が入れ替わり、かなたが前衛になった。


「なんだか知らないけどチャンスだ」


「レラージュ、フルフルを射貫け!」


「フルフル、雷壁、焼き尽くせ!」


 フルフルの前に光の壁が現れて、レラージュの矢を焼き落とす。


「サミジーナ、曲射!」


 その隙をついて壁を回り込むように弧を描いてサミジーナの矢がフルフルへと向かう。


「ムルムル、死霊でフルフルを守れ」


「レラージュ、雨霰」


 ムルムルが死霊を構成してフルフルを包み込もうとするが、紗希の牽制もありいくつかは消滅してしまい、フルフルに向かうもすでに遅かった。


「ん!」


 避けきれなかったフルフルにサミジーナの矢が刺さる。


「レラージュ、速射」


 ぐらついたフルフルに連続してレラージュが何本もの矢を突き立てた。


「こなちゃんごめん!」


 かなたが勢いでずれたメガネを戻しながら言った。


 防御できなかったフルフルが消滅する。


「いまだ彩花!」


「うん!」


「レラージュ!」


「サミジーナ!」


 それぞれのグリモアに命令をする。


『必中!』


 声を揃えて、彩花と紗希が残ったムルムルに向かって矢を射る。


「ちっ、死霊を」


 二つの矢は死霊の壁をもろともせず、勢いを失うことなく隠れているムルムルに突き刺さった。


『ゲームが終了しました。勝者レラージュ、サミジーナです。勝者には栄光を。敗者にはペナルティが与えられます。この勝負により、レラージュはAクラスに昇格しました。おめでとうございます。両者お疲れ様でした』

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