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第8話 変わった気持ちと変わらない気持ち

 

 王国を追い出されるように去って三度目の冬がやって来た。

 帝都の住人達が冬支度を終え、厳しい寒さに耐えて命が芽吹く春を待っている。

 昨日から降った雪が薄っすらと積もっている日の午後、私は王宮にいた。

 椅子に腰掛けている女性の大きく膨らんだお腹に触れる。


「順調ですね。このままいけば冬の終わり頃に産まれそうですよ」


「それは良かった。二回目は真冬の大雪の日で教会から聖女が中々来れないのなんので大変だったから助かるねぇ」


 ホッとして肩の力を抜きながら皇后様は愛おしそうに自分のお腹を眺めた。


「今回は私が帝都内に滞在してるので何かあればすぐに駆けつけますから」


「頼もしいな。聖女エリーゼ」


 顔を上げ金色の瞳を細めた皇后様はそのスラリと長い腕を伸ばして私の髪をぐちゃぐちゃに撫でる。


「皇后様、おやめください! 私を子供扱いしないでくださいといつも言ってるじゃないですか」


「良いではないか。丁度そこに可愛い女子がいるのだから愛でないと勿体無い」


 女性にしては背が高く、美しさよりも逞しさを感じる姉御肌の女傑。

 荒れた帝国を皇帝陛下と共に立て直した凄い人に私なんかが敵うわけもなく、解放された頃にはぐったり疲れてしまった。


「いやー、若返った気分だ」


「皇后様は吸血鬼か何かですか?」


 肌の艶が良くなった皇后様が櫛を持って慣れた手つきで私の髪を整える。

 自分で滅茶苦茶にするのも好きだがそれを元に戻すのも彼女の好みらしい。


「いつもはチビ達がいるが、今はな」


「皇太后様の所に遊びに行っているんですよね。って、私は皇子達の代わりですか……」


 皇帝陛下、そしてサヴァリスの母である皇太后様は帝都から少し離れた物静かな森の中に住んでいらっしゃる。

 王宮は広くて部屋も余っているが、帝位継承争いで心身ともに疲れてしまった皇太后様は騒がしい場所から離れてたくて住まいを移されたとか。

 そうして、年に何度か皇帝一家が顔を見に行くらしい。

 しかし、今年はそういうわけにもいかず、せめて子供達だけでもとお婆ちゃんの家に遊びに行っている。


「余も行きたいと言ったのにな」


「妊娠してらっしゃるのですから大人しくしていてください」


 この方なら周囲の反対を押し切ってでも旅について行きそうだけど本当に勘弁して欲しい。

 もしものことがあれば私の首が物理的に飛んでしまうのだから。


「つまらんな〜。何か面白い話は無いのか?」


「一番返事に困る話の振り方をしないでください。どうして私にそんな事を聞くんですか」


「数少ない女友達だからだ。それも堅苦しい貴族連中とは違うな」


 ニカっと見ていて気持ちのいい笑みを向けられては悪い気はしなかった。

 皇后様は私を友達と呼んでくれる。

 友達の頼みとあっては仕方ないので、私は最近あった出来事をいくつか話し会話に花を咲かせる。


「ははっ。しかし、そろそろ身を固めたりはせんのか?」


「身を固めるですか?」


 皇后様が言った言葉の意味がよく分からずに私は首を傾げた。


「もう結婚して子供がいてもいい歳であろう。独り身だと色々とうるさい連中から声をかけられることもある。エリーゼのように可愛い女子であれば口説きに来る男も多いだろうし」


「まさかそんなことありませんよ。私なんてパーティー会場でも全然男の人達に相手にされませんもん。教会内でも他の聖女はそういうのに飽き飽きしてるって言ってましたけど」


 帝国には同じ聖女の称号を持つ人が何人かいる。

 仕事の都合で地方に行くことが多いが、たまに会った時は聖女あるあるを語ったり仕事先の名産品を交換したりと交流がある。

 王国時代では考えられないことで、同じ使命を背負った同僚がいるのは心強かった。聖女としての能力が低くて虐められるなんていうのは私の杞憂で、人手が増えたと喜んでくれた人達だ。


「聖女が高嶺の花なのは知っておるが、エリーゼが相手にされないのはちょっと理解できんな」


 顔に手を当て、難しい顔で考え込む皇后様。

 彼女がこんな顔をするのは珍しいけど、皇族に男性関係で心配をかけるのはちょっと……いや、かなり恥ずかしいのではないだろうか?


「一つ質問するが、義弟は宴の席におるのか?」


「サヴァリスですか? まぁ、彼は私の護衛役なので同じ会場にはいましたよ。あっち色んな人に声をかけられていましたけど。ただ、私が男の人とは話してたらいつの間にか後ろに立ってるんですよね。それで会話にも割り込んでくるし」


 いつまでも世間に疎い田舎娘のままじゃないから心配されなくても一人で大丈夫なのに。

 これでも少しは大人として成長したという自信がある。


「あの馬鹿義弟め……。それならさっさと……」


 最後の方は声が小さくてよく聞こえなかったけど、サヴァリスの過保護っぷりに皇后様も同意してくれたようだった


「よし。愚弟は家族会議で吊し上げるとするか」


 皇后様が脳内でどういうことを考えたのかわからなかったが、とりあえずサヴァリスが苦しめられるのは決まったようだ。


「では、話を変えるが義弟はどういう連中に声をかけられていたのだ?」


「ええっと、割合で言うと女性が大半ですね」


 帝国に戻ってからのサヴァリスの人気は王国の比では無かった。

 本人は皇族に戻ったわけではないとハッキリ否定しているが、貴族達はそんなのお構いなしに猛アピールしてくる。

 皇帝陛下が強面の美丈夫として既婚者にも関わらず女性に人気が高いので、そんな方より話しかけやすい独身のサヴァリスは黄色い歓声をよく浴びていた。


「流石は余の見込んだ男の弟だな」


 さらりと惚気た皇后様。

 陛下もだけど皇后様もお互いをよく自慢しているのを見かけるので、それが夫婦円満の秘訣なのだろう。


「エリーゼは義弟がモテモテなのを間近で見て何か思わないのか?」


「私は別に……」


 皇后様に聞かれて私は口籠った。

 親友が何をしようが誰とお付き合いをしようが本人の自由なので関係ありませんと言いたかったのに上手く言葉が出ない。

 サヴァリスは私の《親友》である。

 聖女になったばかりの頃からの長い付き合いで、仕事もお互い何も言わずに相手に任せられるくらいだ。

 王国からただ一人だけ私について来てくれて、帝国に早く馴染めるように各方面に手を回してくれた恩人でもある。

 軽口を言い合ったり、だらしない姿を見せても恥ずかしくないような関係だ。


「ほぅ……。そうかそうか」


 ちょっと返事の詰まった私を見て皇后様は何か納得した様子で頷く。

 格好の獲物を見つけたいたずら小僧のような笑みを浮かべると私にそっと耳打ちしてきた。


「実はな、余の知り合いからしつこくサヴァリスを紹介してくれと頼まれていてな」


「へ、へぇ……。そうなんですか」


「余には劣るがこれまた美人でな。帝国の歴史ある名家の娘であわよくば見合いの席を設けてくれと言ってきておるのだ」


「ふ、ふ〜ん」


 イケメンで実は料理上手で面倒見が良くて小さい子供からも懐かれやすい。

 帝国の元皇子で今、教会の中で最も期待されている幹部候補者。

 おまけに武器を持ったならず者を素手で簡単に制圧してしまうくらい強い。

 ちょっとやり過ぎなくらいの超人だと思う。

 そんなサヴァリスと釣り合いをとるならやっぱり皇后様の言うような人かもしれない。


「いくら忠犬とはいえ、首輪がついていなければ野良犬と思われても仕方ないだろうな。しかし、余としては悩ましいな〜。どうしようかな〜?」


 でも、


 やっぱり、


「皇后様。ちょっとその話、詳しく聞かせてもらっていいですか?」


 私のモノなのに誰かが盗ってしまうのは凄くモヤモヤした気持ちになるのだ。


「おや? 気になるのか?」


 多分、これは今まで気付かなくて無意識に意識しなかった私の欲張りな感情。


「当たり前です。だって、彼は────」


 この気持ちが芽吹くような私に育てたのは他の誰でもないサヴァリスだ。




 ♦︎




「うへぇ。まだこんなにあるんすか……」


「つべこべ言わずにさっさと整理しろ。終わるまで飯抜きだからな」


 帝都にある教会本部。

 その中に最近設立された部署に俺は配属され、聖女の側近の仕事と兼任しながら副所長をしている。

 今日は天候不良のせいで各地から遅れていた郵便物が一斉に届いたため、優先順位の確認や書類の整理に追われていた。


「サヴァリス先輩。僕もう無理……」


「仕方ねぇな。少しこっちに寄越せ」


 不慣れな新人がやる気を無くして無駄口が増えて来たのでフォローしてやる。

 いつの間にか俺も人に任せるん側じゃなく、自分から引き受ける側になった。

 というより、潰れそうになるまで頑張り過ぎる誰かさんを身近な所で見ていたせいだな。


「カッコいいな先輩。ハイスペックな上にあの聖女エリーゼ様の担当なんて……」


 新人の言葉には皮肉じゃなくて羨望の感情が込められていた。

 近くにいた同僚達も同意するかのように頷いた。


「羨ましいか?」


「当たり前じゃないすか。だって聖女エリーゼ様といえば今最も注目されてる人ですよ!」


 膨れっ面で新人が言ったので俺は思わず胸を張りたくなった。

 エリーゼが追放されて三年の間に帝国は大きく変わった。

 この大陸では昔から聖女が病気や怪我を癒して人々を救ってきた。

 おかげで聖女を保護してサポートする教会は組織として成長し、各国に対して強く影響力を持つようになった。

 しかし、これによって国と教会はある問題を抱えることになる。

 治療を受ける側は自分を優先してもらうために多額の金が必要になり、教会側は希少な聖女達を酷使せざるを得なかった。

 この帝国でさえ聖女の数はギリギリだったのだから王国の患者をエリーゼ一人で治すのは無理だったんだ。


 そこで俺はエリーゼが王国で進めようとしていた作戦を帝国に持ち込んだ。

 兄貴には帝国の教会本部でエリーゼを受け入れてもらえるよう進言してくれと頼んだ時に説明をして協力を取り付けた。

 むしろ、兄貴にとっては俺が皇族に戻ることよりエリーゼ考案の作戦の方が優先順位が上だった。

 元皇子って肩書きが大活躍でこの時ばかりは自分の生まれに感謝した。


 作戦の目的は国民の意識改革だ。

 誰もが聖女に頼るのが当たり前になったせいで貧乏人はすぐに怪我や病気になったやつを見捨てるようになっていた。

 聖女の力が無くても医者や薬屋の手を借りれば救える命は多いのに、教会の一部の馬鹿が利益目的で医療関係者を冷遇しており、そのせいで医学の進歩が遅れて地域によってかなりの差が生まれた。

 だからまずは医者や薬屋から協力者を集い、知識や技術の交換をして平均のレベルを上げる。

 

 次に行ったのは国が主導になって医者や薬屋に払う治療費を肩代わりするという制度だ。

 これで金が払えない患者を医者達が受け入れ拒否しなくなる。

 患者側は分割で国に金を払えばいいので治療を受けるハードルが低くなった。


 一方で教会側がやり始めたのが患者の優先順位の見直しだっだ。

 金持ち優先、貴族優先だったのを止めて一部を除き怪我や病気の進行具合によって聖女の魔法を使うようにした。

 反発もあったが、実際に医者や薬屋の方が安上がりになることを説明したらあっさりそっちに流れた。

 教会に入って来るお布施の額は減るかもしれないが、今までが稼ぎ過ぎだったのだ。元ある姿に戻るのは悪くない。

 このおかげでエリーゼと同じ聖女様達には大いに感謝されることになった。

 年中国内のあちこちを走り回る仕事漬けの日々から解放されたんだから当然か。


 そして、最後は怪我や病気についての教育の徹底だ。

 これには魔法が無くても自宅で対応できる簡単な治療やそもそも病になりにくくなる予防策や健康維持について学校の授業で必須にしたり、危険が伴う仕事をする人間は定期的に事故を防ぐための講習会に参加させる。

 これは国と教会が協力して各地にある教会を会場にして行うようにした。


 基本的には自分で予防する。

 怪我や病気になれば医者を頼る。

 それでも間に合わない場合や緊急性の高い場面では聖女が先頭に立つ。

 これを多くの人間が知ることで国民一人一人の意識を変えて助かる命を見捨てないようにした。


 たった三年でまだまだ改善して見直すことは多いが、着実に成果は出ている。

 エリーゼ自身も積極的に医者や薬屋と関わることで知識を身につけてもう一人前の医者としてやっていけると太鼓判を押された。

 殺風景だった部屋にはよくわからない薬の材料や実験器具が散乱するようになって苦情が来てるがな。


「マジで先輩が羨ましい。人生交換して欲しいっすよ」


「死ぬほど後悔すると思うぞ。ずっと他人に振り回される人生だからな」


「それでもモテたいのが男でしょ。先輩知ってますか? 先輩が頻繁に訪れる王宮にはファンクラブが出来てて、聖女様達が旅のお供にこぞって先輩を推薦してるって」


「全部知ってるし、迷惑してんだよ。あとここ修正」


 血の涙を流しそうな新人の記入ミスを指摘しながら俺宛てに届いた申請書にお断りの文章を書く。

 神官は聖女を支えるのが仕事とはいえ、全部引き受けたら俺を五等分にしてもまだ足りない。

 それに俺が仕えたい聖女はこれまでもこの先も一人だけだ。


「そんな台詞をサラッと言うの憧れますよ。聖女様から気に入られるって教会からしたら凄い名誉なことなのに」


 神に選ばれて能力を授かった聖女から選ばれる。

 確かに神官としてステータスになるし、歴代の上層部の人間を見れば聖女と結婚した例もある。


「名誉なんていらねぇんだよ……」


 なんか自分で言って悲しい気分になった。

 今の俺は名誉よ地位も金だっていらない。

 本当に欲しいのはたった一人からもらえるたった一つの気持ちなのに……。


「急に泣き出してどうしたんすか先輩。仕事し過ぎて情緒不安定てますか? 休むならエリーゼ様の世話係を変わってください」


「うるせぇ。あとお前みたいな奴はエリーゼに近づけさせないからな。俺を倒してからにしろ」


「神官なのに騎士とやり合える先輩に勝てるわけないでしょ。そんなに鍛えて何するつもりなんですか……。あと、エリーゼ様の独占反対!」


「「「独占反対!!」」」


 ふざけたことを言った新人の頭を分厚い聖書で叩いたら他の連中まで乗っかってきやがった。

 悪ふざけのように聞こえるが、よく見れば全員の目が本気なので負けじと睨み返す。


 エリーゼは帝国に来てから変わった。

 正確にはあの日、王宮の片隅でこれまで溜まっていた鬱憤を全て吐き出した後に変化があった。

 他に仕事を頼める聖女がいるおかげもあったが、よく食べてよく寝るようになった。

 集中する時はこれまでより力を入れ、それ以外の時は程よく力を抜く。

 それから自分のやりたい事をする時間を確保するために他人に任せられる仕事や身の回りの世話は投げるようにした。

 おかげで俺も神経を使うことが減った。


 精神的な負担や悩みが減ったことで体から疲れが抜けやすくなり、顔色を隠すための化粧も薄くなった。

 触れるだけで折れそうだった小枝のような体にも肉がついてふっくらし、健康的に見える。


 国民に教えるのに自分が不健康では信用されないと運動もするようになり、あの男爵家を出た時の人形みたいなチビ女は立派な女性になった。

 本人はあまり背が伸びなかったことを気にしているが、俺としては持ち運びやすいので変わらなくて良かったと思う。

 髪を伸ばすようになって身なりや仕草にも気をつけるようになって大人っぽくなった。


 しかし、それが逆にいけなかった。

 成長したエリーゼの可愛さに帝国の馬鹿共が気付き始めたからだ。

 仕事熱心で普段はお淑やかで物静かな聖女様。それでいて他人をよく観察していて、気遣いに対して素直に感謝を述べ、小さな仕事でも労わってくれる。

 俺や皇族と一緒にいる時は多少砕けた態度になるが、一歩離れた他人からすると理想的な聖女様に見えるらしい。


 下積みだった王国とは違い、最初から皇帝や教会上層部を巻き込んだ計画を発案して短期間で実績を上げたことも評価される理由だ。

 実家や婚約破棄の事も同情を集め、追放されても異国で健気に頑張っていると人気を集める要因になっている。


 そのせいでエリーゼにちょっかいを出そうとする連中が増えてしまったがな。

 同性ならまだいい。口うるさい皇后の義姉が友人になってくれたのは喜ばしいし、エリーゼの交友関係が広まるのはいい。

 ただし、下心を持って近づく連中はダメだ。

 遠くから高嶺の花だと見守るくらいなら認めてやってもいいが、それより一歩踏み出すのは許せん。

 エリーゼから治療を受けた独身の貴族が花束を持って教会に求婚しに来た時は俺と二人きりで丁寧に話し合いをして納得してお帰りいただいた。

 時が過ぎるにつれてこういうふざけた輩が増えて処理が大変になる。


「仕方ねぇな。自分の仕事が終わったから全員が早く休めるように手伝ってやろうと思ったが、俺は帰る」


「ちょっ、それは無いですよ! 薄情者!!」


「「「裏切り者!」」」


「テメェらの心配より寒くてエリーゼ様が風邪ひかないか心配だからな。あばよ!」


 部署内から呪いや恨みの言葉が飛んでくるが全部無視して帰り支度をする。

 義姉が妊娠していることや、医者や薬屋や皇帝陛下との連絡が取りやすいようにエリーゼだけ他の聖女が住んでいる教会の本部ではない場所に住んでいる。

 最初に帝国に慣れなくてストレスが溜まらないようにと兄貴に無理なお願いしておいて助かった。

 今住んでる屋敷には俺とエリーゼの他に信頼できる使用人が数名いる。

 エリーゼは王宮と屋敷を。俺は教会本部と屋敷を往復する日が続いているが、外の天気がどうも気になる。


「サヴァリス君ちょっと」


 片付けを済ませて去ろうとすると、眼鏡をかけた婆さんで俺の上司をしている所長が声をかけてきた。

 優しそうな老婆だが、実は教会本部でもかなりのお偉いさんで、俺とエリーゼはこの人に頭が上がらない。


「うるさかったですよね。申し訳ありませんでした」


 我ながら大人気ない対応だったなと思って謝る。

 けど、やっぱりエリーゼの事となるとムキになってしまうのが惚れた男の弱みだ。


「いいえ。賑やかなのは良いことよ。会話の内容は神聖な教会に似つかわしくないけどね」


 全部聞いていたようで俺は血の気が引いて顔が真っ青になる。

 この人がその気になれば俺の配属先を変えたりエリーゼから引き離したりすることも出来るからな。


「まぁ、良いわ。私も思うところはあったもの」


 迫力のある笑みを浮かべながら上司は俺に一通の手紙を渡してきた。

 封筒の紙は上品なもので封蝋には見覚えのある紋章が使われている。


「騎士気取りもいいかもしれないけれど、そろそろハッキリ伝えてあげた方がよくってよ。聖女様を悲しませては神官失格だもの」


 手紙の内容を確認した俺は上司に深々と頭を下げて走ってその場を後にした。

 昨日積もった薄化粧の雪に刻まれた足跡を覆い隠すように暗くなる空から白い粒が降って来た。




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