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最終話 その後の聖女エリーゼの人生

 

 帝国歴史資料館には長い歴史のある帝国の様々な資料や文化的に価値のある芸術品、各分野で功績を残した偉人達の銅像が保管されている。


 その中でも最近用意された一組の男女の銅像が大きな注目を集めている。

 それが聖女エリーゼと神官サヴァリスの像である。

 この二人が帝国にもたらした功績はとても大きく、当時未発達だった医療技術を飛躍的に進歩させるきっかけとなった。また、病気や怪我による死者数が減ったことで帝国の人口は安定して増え、働き手が増加して産業も発展した。


 当時は教会の独占していた治療を医療関係者に分散させることで教会に不利益になるのでは? と囁かれていたが、聖女エリーゼの活動によって救われた命が多く、かえって熱心な信者を増やしたという。

 現在でも聖女による治療は最終手段として人の手では救えない患者を助ける神の奇跡として求められている。


 聖女エリーゼと神官サヴァリスによって発案された政策は今の国民全員の税金で治療費を負担する保険制度の礎になっている。

 この二人に目をつけ、帝国に迎え入れた当時の皇帝は血に濡れた冷血の皇帝として民に恐れられていたが彼の出した政策は奪うよりも救った者の数が多く、歴代の中でも優秀な名君として語り継がれている。


 帝国の輝かしい歴史が並べられている資料館だが、それに伴って周辺国の情勢も記録されている。

 先述の聖女エリーゼ関連でいえば、王国で起きた動乱が最も有名だろう。

 聖女エリーゼが帝国に移り住んだ後に王国の聖女として活躍していた聖女ルシアが夫であるヨハンと共に王位継承を巡って起こしたクーデターは王国に大きな被害をもたらした。

 泥沼になりかけた内乱は首謀者であるヨハンが仲間から裏切られ、死亡したことで終息した。

 王族側の勝利で幕を引いたが犠牲者の数が多く、聖女ルシアが投獄されたこともあり王国は帝国に助けを求めた。

 その際に真っ先に王国を訪れて派遣された医療チームを率いたのが聖女エリーゼと神官サヴァリスだ。

 かつて王国から汚名を着せられ追放された聖女エリーゼの助力に王国側は感謝し、現在では王国内の教会に聖女エリーゼの似顔絵が飾られている。


 なお、この内乱を引き起こした聖女ルシアはその称号を剥奪されたが罪の清算のため生涯をかけて患者を治療し、一生を教会の中で過ごした。

 聖女エリーゼ夫婦の活躍によって復興した王国は帝国と密な協力関係を結ぶことになり、現在でも帝国の友好国として良好な状態を維持している。


 王国での復興作業が終わると聖女エリーゼは大陸の各地を巡って医療の発展に尽力した。

 教会の信者数が増えたのも聖女エリーゼの活躍あってのものである。

 各国で生まれた女の子にエリーゼと名付ける者が増えたのは当然の帰結であると言える。


 聖女としてのエリーゼの活躍はこんな所であるが、プライベートではどうだったかというとこちらも記録が残っている。

 幼い頃から側に仕えていたサヴァリスと結婚した彼女は子宝に恵まれた。

 聖女と母の兼任にはかなり苦労したようだが周囲からの手厚いサポートもあり、子供達はそれぞれ立派に成長して多くの孫が誕生した。


 晩年の聖女エリーゼは多くの関係者から惜しまれる形で勇退し、王国のとある町に住まいを移して町の産婦人科医として生涯を全うした。

 帝国を去った事に対して彼女は、


『帝国でやりたい事は全部やりました。でも、たった一つだけ心残りがあの家にあったんです』


 そう語った記録が残っている。

 王国で聖女エリーゼが暮らしていたのは田舎の貴族が売り払ったボロの屋敷で、帝国に建てられた立派な豪邸と比べると見劣りするが、彼女は満足そうに過ごしたそうだ。

 聖女エリーゼの葬儀は大陸全土から関係者が参列し、盛大に執り行われた。

 その後、彼女の後を追うように夫のサヴァリスも亡くなりこちらも葬儀に大勢が駆けつけた。

 二人の墓は教会の本部にある特別な区画に建てられ、毎年多くの親族や信者が墓参りに訪れている。


 功績を後世に残すため建てられた銅像と資料は帝国の歴史を語る上で必要なものとなり、素晴らしい活躍をした夫婦の名は未来の子供達に託されていくだろう。

 いや、そうすることが帝国歴史資料館館長でありエリーゼお婆ちゃんのひ孫である私の役目だと思う。




 ♦︎




「ねぇ、サヴァリス。私なんかと結婚して本当に良かったの?」


「それを今更言うのか?」


「だって、自分でもかなり面倒臭い女だと思うし」


「あのな。それなら俺の方がずっと面倒だし、嫉妬深いし、頼りないと思うぞ」


「そんなことないわ。サヴァリスはとても素敵でカッコいいわよ」


「俺も同じこと考えてる。お前は面倒なんかじゃない。綺麗で真っ直ぐで、側にいるだけで幸せな気持ちにしてくれてる凄い奴だ」


「サヴァリス……」


「俺は他の女でも聖女様でもなくてエリーゼじゃなきゃ駄目なんだ。それでいいか?」


「うん。それでいい」


「ったく、式の直前に心配かけさせやがって」


「直前だからだもの。もう引き返せないんだから」


「心配すんなよ。俺にはそんなつもりはない。お前がお婆ちゃんになってもずっと側にいて、死ぬ時に聞きたいことがあるからな」


「聞きたいことって?」


「お前の人生は幸せだったか……ってな」


「それ、聞く必要はないわよ」


「はぁ? 何でだよ」


「だって、私はもう貴方が側にいるだけで幸せなんだもの」


「…………」


「あ! 顔を背けないでこっち見てよ!」


「無理。絶対に無理」


「サヴァリスって恥ずかしがり屋なところがあるわよね」


「エリーゼが直球過ぎんだよ。いつもど真ん中に投げてくるから」


「そうかな?」


「そうだよ。よくそんな真っ直ぐに恥ずかしいこと言えるよな」


「だって、サヴァリスには私の思ってること、考えてることを全部知って欲しいし、伝わって欲しいから」


「…………」


「大丈夫!? 顔を隠してしゃがみ込むなんてどこか痛いの!?」


「幸せ過ぎて逆に苦しい」


「何よそれ……こっちまで恥ずかしいじゃない」


「あぁ、マジで早く結婚式終わらせて家に帰ってエリーゼを押し倒したい」


「な、何言ってるのよ! 他の誰かに聞かれたらどうするのよ!」


「いっそこのまま連れ去って帰るか?」


「駄目に決まってるでしょ! 式が終わるまで我慢しなさいよ」


「よし、言質取ったからな」


「も、もう! サヴァリスの馬鹿!!」











 終わり。







最後までお付き合いいただきありがとうございました。

本編はここまでとなります。

今後はオマケを何話か投稿する予定になってます。(二、三話くらい)


誤字脱字報告をいつでもお待ちしてます。すぐに修正しますので。

そして下の方から感想を送ったり・評価をつけたりできます。

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