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自閉スペクトラムな私 事件簿その3

作者: 辻音彦

この間、実家に帰った時、たまたま父親がテレビを見ていたので、私もちらっと眼を向けた。

テレビにはピン芸人のAさんとコンビである芸人Bさん、Cさんが映っていた。

話しの中身はコントについてで、Aさんが、BさんとCさんのコントの設定が上手いという内容だった。

「いや、(BさんとCさんの)コントのあらすじは本当にリアリティがある」

とAさんが言うとBさんが

「いやいやそんな事ないですって。Aさんだって上手いですよ。だから人気があるんじゃないですか」

「昔は俺のコントも人気があったけど、今は全然。例えば45歳の男性が初デートをしたなんて話、誰がリアリティあると思う?」

と話してみんなが笑っているのを聞いて、私は内心ドキリとした。

実は私が女性と初デートしたのは37歳の時なのである。

45歳と37歳ではほとんど変わらない。

ひょっとして、すごく恥ずかしいことなんだろうか、と思わず反省した。

過去に女性とデートするチャンスが私には無かったのか、過去を振り返ってみた。


あれは私が大学3年生の時のことだった。

早朝にコンビニのバイトを入れていて、その日も大学の授業前に仕事をこなしていた。

バイトに入っていたのは私ともう一人後輩の女性。

早朝のコンビニは割と忙しくて、私とその後輩は話をする機会もなく時間が過ぎていった。

そうしてバイト終了30分前になって、ようやく一息つくことが出来た。

私は授業に提出するレポートの事で頭が一杯でほとんど上の空だった。

そんな時、後輩の女性が

「辻さん、辻さん」と話しかけてきた。

「うん、何?」とほとんど条件反射で答えると

「もうすぐ給料日ですよね。何か買う予定でもあるんですか?」と聞かれたので、

「え? え~とそうだね、ゲー・・・いや、ゼミの専門書でも買おうかな。」

ゲームと言いかけたが、大学生にもなって恥ずかしいので、慌てて言い直した。

「君は何か買う予定でもあるの?」

と聞き返すと、

「実はですね、今着ているこのセーター、なんとバーゲンで買ったんですよ。どこで買ったと思います?」と訊かれたので、

「どこって・・・、服屋さん?」

普段、ユニクロでしか服を買わない私は適当に答えると

「馬鹿ですね。当たり前じゃないですか」と呆れられたので、

(しまった! 自スぺ(自閉スペクトラムの略)地雷を踏んだか!)

と思い、恐る恐る後輩を見ると、笑っている。

どうやら怒った訳ではないみたいだ。

安心した私はホッとしていると

「ところで、これいくらしたと思います?」となおも質問をしてきた。

バーゲンと言いながら値段を訊いてくるくらいだから、余程高かったんだろうなと思い、

「2万円くらいかな」と少し高めの金額を出すと

「そう思うでしょう。なんと1万円だったんですよ。どうです? すごいでしょう」

と言われた。

(要するに安物でしょう)と思ったが、さすがにそれを口に出すのはマズイと分かったので、

「うん、凄いね。ホントにラッキーだね」と言ったら、その後輩は嬉しそうな顔をした。

なるほど、こういう子がモテるんだなと、密かに勉強になったと感謝した。

もちろん、その後輩とは何も起きなかった。


とは言え、こんな私でも一度くらいは女性に告白した事があるのだ。

あれは大学のゼミの飲み会でのこと。

ゼミの教授と学生で近くの居酒屋で飲むことになり、みんなでその居酒屋で飲んでいるとたまたま私はとある女子学生と隣になった。

私は飲み会が苦手で早く終わってくれないかと時間ばかり気にしていたが、そう思いながらも飲み会に参加したのには訳があった。

実は私、その女子学生の事が密かに好きだったのだ。

それもあって半分以上無理に参加したのだが、その甲斐があったのかその女性と隣同士になる事が出来た。

しかし、運もここまでで一体何を話せばよいのか、全然分からない。

どうしようどうしようと思っていると、なんとその子が話しかけてきてくれた。

「辻君って、いつも真面目そうだけど、普段何をしているの?」

これは上手く応えなければいけないと思い、

「べ、勉強だよ。公務員になりたいからね。」と何とも詰まらないことを言うと、

「へえ、そんなんで恋人とかできるの?」と聞かれ、

実は恋人がいるんだ、と見栄を張ろうと思ったが、その子が気になっていた私は

「好きな子はいるんだけどね、でも恋愛には発展しないかな。」と答えた。

「辻君が好きな子って、どんなタイプなの?」ときたので、私はとっさにある事を閃いた。

「実は僕が好きな子って・・・」

「うんうん」

「ショートヘアで優しくて頭も良くて・・・」

「いやに具体的ね。」

「とってもチャーミングで・・・」

「へえ」

「とても素敵な子なんだ」と言ったが、

「ええ、誰だろう?」いう始末。

この時、私はありったけの勇気とお酒の力を借りて思わず言った。

「多分、君が一番よく知っている子だよ」と。

すると、

「あ! 分かった!」と言ったので、

私は思わず、ドキンと心臓が辺りに鳴ったのではないかと思ったくらい心が動いた。

しかし、

「広末涼子でしょう!!」と言われ、思わずガックリしてしまった。

だが、ここで本当の事を私の口から言うと全てが台無しになってしまうので

「あ、分かっちゃった!」と嘘を言ってしまった。

(ホント鈍い子だな)と思ったが、傷つくこともなかったので、まあいいかとも思った。


まさかその後、37歳までデートしたことがないなんて、この時は思いもしなかったが。



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