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いつかきっと  作者: 原田楓香
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7. 秘訣は・・・

「今日は、圭くんと遊ぶ」

シャワーもすんで着替え終わると、想太が言った。

「え?いや、それは、どうかなあ。今日はもうお仕事しに、東京に帰りはるん

ちゃうかなあ」

「今日は休みって言うてた。やから、明日あそぼなって、やくそくした」

ほんまかいな?

いつのまに?

首をひねっていると、玄関のベルが、控えめに、ピンポンと鳴った。

「佳也ちゃん想ちゃん、起きてる?」

英子の声だ。

急いでドアを開けに行く。

すると、ドアの前に、大きな袋を抱えた英子が、ニコニコしながら立っている。

「二人とも、朝ごはんはもう食べた?まだ?」

「おはよう。おばちゃん。ぼく、おなかすいた」

想太が玄関にとんできて、返事をする。

「まあ、想ちゃん。おはよ」

英子は、想太の乾かしたてのふわふわの髪をなでる。

「昨日みたいに、また4人で、ごはんしようと思って、早起きしてパン買いに

行ってきたの。」

「ありがとうございます。昨日に続き今日まで・・・。ごちそうになってばかりで、

いいのかな?なんかもうしわけないです」

「いいのいいの、ていうか、昨日、4人でほんと楽しかったから、ついつい

今朝も、一緒に食べたいなあって思って。わがままきいてくれたら嬉しいな」

「はい。じゃ、ごちそうになります!想太、よかったね」

想太は、しゃがんでもう靴をはきかけている。

ほんとに、英子が好きなのだ。

それに、今日は、圭もいる。

「さき、いくよ。かあちゃん」

英子と手をつないで、ごきげんの想太が言う。


「すぐ行きまーす」

返事をしながら、急いで鏡をのぞきなおす。

(早起きしててよかった・・・)

今日は早く目が覚めたので、化粧も身支度もすんでいる。

とはいえ、ほんとに、あまりにも普段通りの、姿だ。


昨日は、勢いで一緒にいたけど、よく考えてみたら、彼は

アイドルで、きっと、毎日華やかで素敵な人たちを見慣れて

いるはずだ。


ん~。

のぞいた鏡の中には、ごくごく普通の自分が映っている。

とびきり美人というわけでもない、ほんとに、普通の、自分だ。


いや、でも、今朝は、いつもより、ちょっと肌の調子が良かった。

ような気がする(昨夜早く寝たせいかもしれない)

そう、今朝は、いつもの自分より、ちょっとお肌の調子が

いい分、+1点。

髪も、さっき、想太と一緒にシャワーを浴びて、洗いたて

乾かしたてで、サラサラ、といえる気がする。

よしよし、もう1点プラス。

つまり、今朝の私は、普段の私より、2点プラスだ。

上出来!

そう思うことにして、佳也子は部屋を出る。

ドアに鍵をかけると、母屋へ向かった。


「おはようございま~す」

キッチンから、お皿やコップ、お箸やスプーンなどを、居間に運んで

きた圭が、佳也子にほっこりする笑顔で言った。

着ているのは、上下黒のジャージ姿だ。

なんだか見覚えがあるジャージだ。

「おはようございます!」

笑顔を返して、佳也子もすぐにキッチンへ行く。

英子が、買ってきたいろんな種類のパンを、一口サイズに切って、

お皿やカゴに盛り付けている。

「美味しそうですね」

「でしょう。いろんな味を食べたいから、切り分けようと思って」

「じゃあ、私、フルーツ切りましょうか?」

「頼める?ありがとう。ジュースにするから、小さめの一口サイズに

切って、こっちのタッパーに、種類ごとに入れてくれる?」

「了解です」

リンゴ、オレンジ、キウイ、バナナ、いろいろある。

「小松菜も?一口大で?」

「そうそう。リンゴと一緒にジュースに入れようと思って」

適当に皮をむいて、適当にザクザク切る。

英子が、いつもこだわりなく手早く料理をする姿を見て、佳也子も

次第に慣れてきているのだ。


ずっと以前、まだ出会って間もない頃、初めて英子の家で一緒に

食事をすることになって、サラダに入れるリンゴを剥いているとき、

英子が言ったのだ。

「ちょっとくらい、リンゴの皮を厚めに剥いたからって、

何も問題ないわよ」

佳也子は、気を遣いながら、恐る恐る丁寧に皮を剥いていたのだ。


「大丈夫。ささっとやって、美味しく食べられればいいの。

美味しく食べる秘訣はね、美味しいって、心を込めて味わうこと。

そしたら、きゅうりの漬物一切れでさえ、とびきり美味しくいただける

わよ」

きゅうり・・・。その頃、佳也子は、正直きゅうりが苦手だった。

なので、きゅうりをとびきり美味しくっていうのは、むずかしいよなぁ・・・と、

つい思ってしまった。

もちろん、英子の話のポイントがきゅうりじゃないのはわかっているのだ

けれども。

おそらく、佳也子の反応で、きゅうりが苦手なのを察したのかもしれない。

「そう、きゅうり。きゅうりが美味しくいただけたら、カッパと友達になった

とき、一緒に美味しいねって言い合えるでしょ」

英子が笑いながら言うのを聞いて、

佳也子の頭の中には、カッパと並んで、きゅうりをかじる英子が浮かぶ。

思わず吹き出すと、

「あ、今、なんかおかしなこと想像したでしょう?」

「えっと、あの、英子さんとカッパが並んできゅうりかじってるとこ・・・

想像しちゃいました。」

なんだかすごくおかしくて、2人してツボにはまって、しばらく笑いが

とまらなかったっけ・・・。


「何、一人で笑ってるんですか?」

圭が、佳也子の顔をのぞきこむようにして、言った。

「え、えっとね。英子さんとカッパの話」

「なになに、それ?」


佳也子は、思い出して笑ってしまった、英子とカッパの話を

圭に聞かせた。

すると、圭は、くすくす笑いながら、

「英子先生、いろんなお友達いるからなあ。天狗が来たら、

何一緒に食べる?」

横で笑っていた英子が答える。

「そうねえ、ちらし寿司。作るのも手伝ってもらおうかな。

ほら、あのでっかい団扇みたいな葉っぱもってるでしょう。

酢飯作って混ぜるときに、天狗に言うわ。

『あおいで。・・・ほらほら、もっとしっかり』

『あーあー、それは力入り過ぎ、せっかく作った、錦糸卵が

どっか飛んで行ってしまったやん』 なんてね」

佳也子の頭の中で、英子さんのそばで、大きな体を縮こまらせる

ようにして、必死で、ちらし寿司をあおいでいる天狗が浮かぶ。

(カッパも天狗も、ご苦労様です)

思いがけず、特別出演してくれた二人をねぎらいつつ、

大人たちが笑う。

「え、天狗さんも来るの?」想太がふしぎそうにきく。

「いつかそのうちね」

「へ~。きたらいいな。ぼく、一緒におにぎり食べる」

「なんで、おにぎり?」

「ほいくえんで、よんだお話にでてきてん。はじめは、

仲よくなかったけど、一緒に、おにぎり、いーっぱい食べて、

さいご仲直りするの」

いーっぱい、と両手を広げる。

「いいねえ。やっぱ、おいしいって、しあわせなんだよ」

圭が言う。

「ほんとほんと」

カッパも天狗も、佳也子の頭の中で、満面の笑顔だ。


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