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いつかきっと  作者: 原田楓香
52/53

52. 発表

 

 週明けの圭の結婚発表は、佳也子たちの想像以上に大きな反響があった。

事務所のホームページとマスコミ各社にFAXで送られたメッセージは、

あちこちのチャンネルの情報バラエティー番組で、繰り返し、取り上げられた。

テレビのレポーターが、街頭で、圭の結婚について、道行く人にコメントを求めている。

佳也子の見ている番組は、関西ローカルなので、圭のいる関東では

どうなのか、わからないけれども。


圭の結婚発表を街頭で聞かされた人たち、特に若い女性たちは、

みんな一様に、大声で驚きの声をあげていた。

おそらく誰も予想していなかったのだろう。

「え~。うそ!え、ほんとですか?」

「え?相手の人誰か女優さんとかモデルさんとか?」

「あ、アナウンサーの人ちゃう?何年か前に一回ウワサになったことあったやん」

「あ、そうかも。え・・・ちがうの?」


相手が、圭より5つ年下の一般女性だと聞くと、みんな

「ひぇ~。どうやって出会ってんやろ」

しかも、子連れ、ときくと、

「え、なんでなんで。じゃあ、相手の人再婚?」

「え?ちがうの?」

「え~。どんなひとなんやろ。めっちゃ気になる~」

「うっわ~、なんにしてもすっごいショック・・・」

「え~。もう明日から仕事行く元気なくなったわ・・・」

「え~ショック・・・」

中には、涙ぐんでいる子もいて、その子の友達が、慰めるように

その子の肩を抱いて、しゃあないやん、そういう年やしと繰り返している。


レポーターはさらに、いろんな年齢層に声をかける。

女性たちの多くは、ショックを隠せない。

それでも、中高年女性たちの多くは、

「まあ、おめでたい話やしねえ。ええことやねぇ・・・でも、なんかちょっとショック」

「ドラマでは、フラれてばかりしてはったけど、ちゃんとええ人いてはってんねえ」

「優しそうなええ感じの方やから、お幸せになってほしいわぁ」

と全体に、好意的なコメントが多く見える。

圭の31歳という年齢も、あり得る年齢だととらえられているようだ。


レポーターは、さらに、アイドルとは無縁そうな40代くらいの会社員らしき

おじさん達にも声をかける。

妹尾圭を知っているかと問われたおじさん達は答える。

「あ、知ってますよ。あの、ピアニストのドラマ出てた人でしょ。うちの嫁さんが

めっちゃファンで。一緒にドラマ見てたんで」

「うちもやで。毎週必死で見て、何回も録画したやつ見直して。夢中になってた」

「え?結婚?31歳。まあ、ちょうどええ年なんちゃいます?」

「相手の人は女優さんとか?」

「え?一般女性で?へ~」

「そんなんどこで出会わはるんやろねぇ」

「いや、でも、今日、やばいなぁ。帰ったら晩ご飯どころやないかも・・・」

「ほんまやなあ。ケーキでも買うて帰って、サービスしたらな」

「うちも、めっちゃショック受けてるかもしれん。ドラマ終わったときも、

ロスやいうて、大騒ぎしてたからなあ」

「いやぁ、ちょっとびっくり・・・」


高齢の夫婦にもマイクが向けられた。

圭の名前をレポーターが口にすると、

「知ってますよ。ええ感じの子ですわね。孫にしたい子やなあ言うてましてん」

「え?結婚しはるん?そら、おめでたいわねえ。よかったよかった」


街頭でのレポートは、みんなのショックは大きいながらも、おおむね、

圭への好感度の高さを示すもので、番組の司会者も、

「みなさん、大変驚いておられましたけれども、おめでたいことだという反応で。

妹尾さん、お相手の方、おめでとうございます!お幸せに」

と笑顔で締めくくっていた。



一緒に番組を見ていた英子が、言った。

「全体的に、好意的なコメントが多いけど、なかなかここから先が大変かも・・・。

知りたがりの人もいてるだろうし」

「そうですね。なんだか、落ち着かない気分です」

佳也子は、少し身を縮めながら言う。

「そうねえ。でも、あまり気にしすぎないことよ。はじめは、あれこれあっても、

そのうち落ち着いていくはずだから。心配しすぎないで。書店の方は?」

「はい。店長さん達にも麻友にも知らせたら、すごくびっくりしてたけど、

ほんとによかったねって、言うてくれはって。でも、相手が圭くんやというのは、

バイトの子たちには、伏せといた方がいいかなと、店長が言うので、

結婚して退職するってことだけ、バイトの子たちには伝えました」


麻友は、伝えると、一瞬絶句していたけど、次の瞬間、

「やった~!!すごいやんすごいやん。なあなあ、もしかして、大ちゃんにも

会った?」 麻友は、HSTのメンバー大樹のファンなのだ。

「ううん。メンバーのひとには、まだ会ってない」

「そうなん?もし、大ちゃんに会ったら、サインもろといてな。めっちゃ応援してますって」

「うん。もし会えたら絶対伝えるね。・・・なあ、ずっと内緒にしててごめんな。

ほんまは、麻友に聞いてほしいことや相談したいって思ったこと、何回もあってん」

「そうか・・・。そやなあ。ただの遠距離と違って、なかなか会いに行ける人ちゃうし、

しんどいときもあったやろ?よう我慢したね」

麻友が、そう言ってくれたとき、佳也子の目からは涙がこぼれた。もしかしたら、

自分には何も言わなかった、と責められるかもしれないと思っていたから。

「そんなん、私が同じ立場でも、そうしてたよ。しかたないもんな。それに、

黙ってるのもつらかったやろ?だってさ、ドキドキする恋バナしたくてもできへんのやもん。

もどかしかったやろ~」最後の方は、笑いながら麻友は言った。

「うん。たしかに」

「これからも、いろいろ言われへんことやしんどいこともあるかもしれへんけど、

私で力になれることあったら、言うてや。話聞いても、よそでは、絶対話さへんし」

「うん。ありがとう」

店長夫妻も、あのドラマの俳優が相手と知って、びっくりしていたけど、

「よかったねえ。ほんとにおめでとう」と笑顔になった。彼らと相談して、

よけいな取材攻勢に振り回されないように、佳也子と圭のことを知っているのは、

夫妻と麻友だけにとどめることにした。


バイトの大学生、福本は、夕方、佳也子の勤務終わりに報告を聞いたとき、

一瞬凍りつくような表情になって、

「よかったっすね。おめでとうございます」

それだけ言うと、その場を離れて行った。


それとなく彼の好意を感じてはいた。

彼には、命がけで助けてもらったこともあった。

ずっと年下でも、頼もしい存在で、いつも優しい心遣いのできる彼。

そんな彼が、今日はそっけなく離れて行った。


(・・・ごめんね)

佳也子は、心の中で、つぶやくしかできなかった。


圭にも、同じようなことが、起きているはず。

たくさんのファンたちの、落胆する顔が浮かぶ。

もし自分がファンだったら・・・。

かといって、ごめんなさい、と思うことも、なんだか

上から目線で、違う気がする。

ただただ、身の置き所がないような気がしてしまって、

佳也子は、身を縮める。


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