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いつかきっと  作者: 原田楓香
47/53

47. これでいいのか


 HSTのドームツアーがいよいよ始まる。

このツアーが終わる来月初めに、圭は、結婚を報告することに

なっている。

そのときのことを思うと、佳也子の心は不安で一杯になる。

どんな反響が起きるか。

彼の仕事への影響は。

そんなことを考えるたびに、胃が、きゅうっと縮みそうになる。


 今朝のテレビの情報番組では、グループのメンバーが、

ツアーにむけての意気込みを、輝くような笑顔で語っている。

歌にもダンスにも定評があるグループだけに、ファンのツアーへの

期待感はとても大きい。

圭も、ツアーの合間に、新しく始まるドラマの準備もあって、

これまで以上に、忙しそうだ。

毎日のように電話やメールで話してはいるものの、

やはり、直接会えないのは、とてもさみしい。

佳也子だけではなく、想太も、もしかしたら、佳也子以上に

さみしいと感じているようだ。


テレビの画面の中の圭を見ながら、

「とうちゃん、いそがしいね」

想太がため息をつく。

圭の両親やその家族に会ったりしたときに、何度か出会う機会は

あったものの、そのあとは、なかなか、圭に直接会えないままなのだ。

とうちゃんと思い切り呼んで甘えたい想太にとって、物足りないのは

無理もない。

電話やビデオ通話では、どうしたって温もりが足りない。

ぎゅうっとしたくてたまらない。

それは、佳也子だって同じだ。


「うん。そうやね。めっちゃ忙しそうやね」

「でも、あいたいね」

「うん。めっちゃ会いたいね」

前は、1人で、『会いたい』と心でつぶやいていた佳也子だけれど、

今は、一緒に、『会いたい』と言い合える仲間?が増えた。

2人で、ため息をついていると、佳也子のスマホが着信を知らせた。

圭だ。


「おはよう。どうしてた?」

スマホの画面の中で、圭がはなやかな笑顔で問いかけてくる。

「テレビで、ドームツアーのインタビュー見てました。いよいよですね」

「とうちゃんとうちゃん、おはよう」

想太が、嬉しそうに画面をのぞき込む。

「おお。起きてた?想ちゃん!おはよう。会いたいな」

圭の顔がトロトロになる。

「うん。いまね、かあちゃんと、そういうてたところ」

「そうかあ。ごめんな。忙しくて。でも、もう少ししたら、毎日、

会えるようになるから、もう少しだけ待っててね」

「うん!」

「そしたら、毎日ぎゅうぎゅうしようね」

「うん!」

「だから、想ちゃん、しっかりご飯も食べて、いっぱい寝て、

いっぱい遊んで、元気でいるんだよ」

「うん!とうちゃんもね」

「うん。ありがとう。・・・佳也ちゃん、就活の方、どんな感じ?」

圭が、佳也子にきく。

「先月面接があった分は、残念ながら・・・という通知が来て・・・

なかなかうまくはいかないです」

「そうか・・・大変な思いさせて、ほんとにごめんね。そのまま大阪に

いられたら、そんな苦労しないですんだのに・・・ほんとにごめん」

圭が、申し訳なさそうな顔になる。

「大丈夫ですよ。何事もチャレンジです!もう一息がんばってみます」

佳也子は笑ってみせる。

「うん。でも、あせらずに、気長にいくんだよ。」

佳也子はうなずく。その様子を見て、想太は、大人同士の会話が

ひと段落したと察したのか、

「とうちゃんとうちゃん」と声をかける。

「なになに?想ちゃん」

「こんどあったら、とうちゃんにピアノひいてあげる」

「え?弾けるようになったの?」

「うん!」

「何の曲?」

「まだひみつ」

「そっか~すごい。すごい楽しみ!」

「それまで、いっぱいれんしゅうしとくね。だから、とうちゃんも

がんばってね」

「うん。がんばるよ。ありがとう、想ちゃん」

「じゃあ、佳也ちゃん、想ちゃん。ツアーがんばってきます!」

少し高めの明るい声で、電話は切れた。

圭の声が弾んでいた。

めちゃくちゃ忙しいけど、楽しい。

仕事がない不安より、ずっといい。

彼はそう言う。

(休みなんかいらない)

個人の仕事が全くなかったとき、

そう思ってさえいたのだと話していた。


今、たくさんのやりがいある仕事に恵まれて、彼は

とても輝いている。

彼が輝いている姿を見ると、佳也子も嬉しい。

生き生きと幸せそうな彼を見ると、自分も幸せな気持ちになる。


でも。

その一方で、自分自身を振り返らずにはいられない。

私は、これでいいのか。

ついついそう思ってしまう自分がいる。


面接の不合格のメールを受けたときも、

正直、自分で思っていた以上に落ち込んでしまった。

自分には、何もできることがないような気がして。

自分が、とてもちっぽけに思えて。

自分には、いったい何ができるのだろう。

そんな思いが頭の中で渦巻いている。

悔しいような、情けないような気持ちで。

実は、今、佳也子は少し、いや、結構へこんでいるのだ。

もちろん、今、ツアー真っただ中で忙しい圭に、

こんなことは言えないし、言いたくない。


(ごめん。圭くん。何でも話してって言われたけど、これは、

なんかよう言わへん・・・)

佳也子は、そんな自分にもちょっと情けない気がして、

また、少しため息をつく。


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