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いつかきっと  作者: 原田楓香
45/53

45. 居場所  


 佳也子は、とても緊張している。

よくドラマで、こんなシーンを見て、そんなもんなんかなぁと

思ったりはしていたが。

今日は、想太も一緒に、圭の母親の家に、挨拶に来たのだ。



今日の午前中には、圭の父親と会った。

そのときは、圭の住むマンションに、父親がやってきて、

そこでの対面となった。なので、あまり緊張することもなかった。

お茶を出す手が、ちょっぴり震えただけだ。

彼は穏やかな笑顔で、圭の報告を聞き、佳也子たち3人に

おめでとう、と言った。

そして、小さな想太を見ると、

「なんだか、とてもよく似ているね、圭に」

そう言って笑いかけて、想太を抱っこしてくれた。

想太も、照れくさそうに抱きしめ返していた。

想太は、圭に似ていると言われるのが、とても嬉しいらしく、

圭を見上げて、目を合わせては、ニコニコほほ笑み合っている。

圭の父親は、お茶を飲みながらしばらく話したあと、じゃあ、また、

と言って、わりとあっさり帰って行った。

「あの人は、昔っから、ああいう人なんだ。だからといって、べつに

冷たい人ではないんだけどね。あまり自分の気持ちを表現しない。

淡々として、いつでも冷静で。でも、子どもの頃は、そんなところが、

正直苦手だったよ」

「だった、ということは、今は違うんですね」

佳也子が言うと、圭は、うなずいて言った。

「うん。そういう人なんだってわかったから。必要以上に悪く思うことも、

良く思うこともない。だから、今は、逆に、安心して話せるようになった」



佳也子と想太は、圭の住む東京のマンションに、昨日着いた。

一晩泊って、翌日、圭の両親それぞれに会うことになっていた。

昨晩、圭は、自分自身の家族について話してくれた。


圭が、まだ小学生の頃、圭の両親は離婚し、圭は母親と暮らす

ようになり、その母親は、圭が中学生になる頃に再婚した。

父親も同じころに再婚した。

母の再婚相手と圭は、ぶつかりあうこともなかったけれど、かといって

馴染むこともできず、家には、いつも微妙な空気が流れていたそうだ。

そんな中、母に再婚相手との赤ちゃんが生まれ、家の中で、ますます、

圭は、居場所がないように感じていたという。


「それでね。オーディション受けて、事務所に入った。家から通えるけど、

家を出て、事務所の寮に入らせてもらって。その頃からだよ。担任だった

英子先生とダンナさんの伸太郎先生に、いっぱいお世話になったんだ。

相談ごとは、なんでも、先生たちにしてた。母親も父親も、それぞれ、

新しい自分たちの家族のことで、精一杯だったから」

「そうだったんだ・・・」


佳也子の頭に、中学生の頃の圭が浮かぶ。

昔の雑誌で、事務所の研修生時代の、圭の写真を見たことがあった。

夏らしく、Tシャツとハーフパンツ姿で、弾けるように笑っている写真だ。

その笑顔の向こうにある圭の想いを、佳也子は今少しだけ知った。

佳也子は、その頃の圭を、心の中でそっと抱きしめる。

同情ではなく、愛情で。

安心できる居場所を探していた、その子、圭を。


「今になってさ、思うんだよ。あの頃の俺は、やっぱ、すねてたんだな。

どうせ、俺のことなんか、どうでもいいんだろうって。

俺の居場所はここにはないって思いながら、自分で、どんどん

彼らから離れていってたんだ」

佳也子は、うなずきながら、圭の瞳を見つめる。

薄い茶色がかった彼の瞳に、小さな光が揺らめく。

「誰かがさ、言ってたんだ。テレビか何かで。

『自分の居場所は、自分で作れ』って。

はじめ、それ聞いたとき、思ったよ。

『何言ってんだ?そんなことできるわけないだろ。

俺以外のみんなが、楽しそうにしてるとこへ、どうやって割り込んで

いけるんだよ。俺が入っていったら、たちまち微妙な空気にかわって

しまうのに、そんなことできるわけないだろ』って」

「うん」

「そんなことするくらいなら、俺から離れる。俺がいなければ、

うまくいくんだったら、俺はそこにはいたくない。いる必要はない。

そう思った」

圭の目が、佳也子を優しくのぞき込む。

「だから、俺は、いつか、俺自身の家族をつくろう。安心できる居場所を

自分でつくろう。そう思ったんだ」

「『自分の居場所は自分で作る』?」

「うん。佳也ちゃんや想ちゃんに出会って、一緒に過ごして、ここだ!って

思った。見つけた!この子たちと一緒にいたいって」

佳也子は、そっと圭にほほ笑む。

圭の想いが沁みてくる。

圭の手が、佳也子の手をそっと包むように握る。

指が長い、少しひんやりした圭の手。


「自分の居場所は自分で作れって、そういうことなのかなって、

ずっと思ってた。でもね、あるとき、ふと考えたんだ。

あの時の言葉は、ほんとに、それだけだったのかなって・・・。

自分の居場所はここにはないって、最初から諦めて、

自分から離れてっちゃだめだ、自分で自分を閉じちゃだめだ、

そういう意味でもあったのかな、て」

圭の瞳の中で揺らめく光が大きくなる。


「デビューする前も、してからも、自分の居場所がない、と感じることは

たくさんあった。デビューしてから、どんどん注目を集める仲間を見てて、

俺、なんでここにいるんだろう?新曲でソロパートがなかったとき、

歌番組に出て一度も映らなかったとき、俺、なんでここにいるんだろう?

ここに居場所なんかない。そう思ったときも何度もあった。

俺なんかいなくても、誰も困らないし、気にもしないんじゃないか、て。

どうせ俺なんか、て。

そんなときに、思い出した言葉が、『自分の居場所は自分で作れ』だった。

『おまえが必要だ』と思ってもらえる自分、『おまえがいい』と思ってもらえる自分を、

自分で作ろう。自分で自分をあきらめちゃだめだ、自分だけは、自分を

見放しちゃダメなんだって・・・」


佳也子は、そっと、でも強く強く圭を抱きしめる。

ぎゅうっとぎゅうっと抱きしめる。

腕の中には、今の圭だけではなく、小さな小学生の圭、中学生の圭、

デビューする前と、デビューしてからの圭、全部の圭を包み込んで。

「大好きだよ、圭くん。これまで一生懸命生きてきた、全部の圭くんを

抱きしめてる・・・」

言葉にしきれない想いを、彼を抱きしめる腕に込める。

「ありがとう・・・」

圭の頬を光の筋が、静かにすべりおちる。




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