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いつかきっと  作者: 原田楓香
43/53

43. せめて今日は


 佳也子は、来月、新しい仕事の面接の予定が2つある。

東京まで行かないといけないので、英子に想太を預けて

出かけることになっている。


新しい仕事、想太の保育所、住む場所、そして、

圭がファンに向けての報告をどうするか。

不安も、考えないといけないことも、山ほどあるけれど。でも。

(せめて今日は、今は、圭くんのそばで、おだやかな時間を

一緒に過ごせたらいいな)

佳也子は心の中で思う。


そんな佳也子の心の声が聞こえたのか、圭が言った。

「今日は、佳也ちゃんちで、想ちゃんと3人で眠りたいな。

だめかな?今日は、なんか、このままそばにいたいな」

「え、え・・・。あの、い、いいです、けど。でも」

佳也子の胸が、どきどきし始める。

きっと、顔も赤くなっているにちがいない。

「今日は、とうちゃんになった記念すべき日ですもんね。

一緒にいたいよね。あとで、うちからお布団運んでいったらいいよ」

英子が、笑って言う。

「は~い。じゃあ、そうと決まれば、想ちゃん、起きて起きて」

圭が、いたずらっぽく笑って、想太を優しくゆすって起こす。

「う?・・・なに?」

目をこすりながら言う想太に、圭が笑いかける。

「想ちゃん、今日はね、想ちゃんとこにお泊りするよ。

一緒に、お風呂入って、一緒に寝よう」

「え?ほんまほんま?やったああ~」

想太が、圭の膝から滑り降りて、跳びはねる。

そんな想太を、圭がとろけるような笑顔で見ている。


「その前に、晩ご飯、食べましょうよ」

英子が言って、佳也子も圭も想太も、いつのまにか、

そんな時間になっていることに驚く。

「じゃあ、お昼の残りで、軽く、ね」


4人の夕食は、いつも以上ににぎやかだ。

でも、佳也子は、なんだか、ご飯がのどを通らないような、

というか、のどを通っていても、どこを通ったのか、

まるで気づかないような、そんな気さえしている。

夕食の間中、落ち着かない、不思議な気持ちで過ごした。


圭が、佳也子たちの部屋で泊まるのは初めてだ。

彼が泊まる。

そう思うと、佳也子の心臓がすごいスピードでドクドクいう。

そのスピードが速くなるにつれ、頬がどんどん熱くなる。

でもそこでハッとする。

ちょっと待て。部屋の中の掃除は、大丈夫か?

少し血の気が引く。

むむ。どうやったっけ?

頭の中で、目まぐるしく考える。

いろいろ散らかってたりしないか?

お風呂は、もう洗ってあったっけ。

洗濯物!洗濯物、ベランダに干したままかも。

いや、部屋干ししてたかも?

台所は?きれいになってたっけ?

あ、トイレ掃除は?

ああ。あせると、思考がぐるぐるしてしまう。

(落ち着け。落ち着け、わたし)


「佳也ちゃん」

笑いを含んだ圭の声がした。

「さっきから、何、1人で赤くなったり青くなったりしてるの?」

「え?え?そ、そんなことないですよ」

「きっと、佳也ちゃん、部屋片付いてたっけ?とか思って

焦ってたんじゃないの?」

からかうように圭が言う。

「え?な、なんでわかったん?」

「なんとなく」

圭がくすくす笑いながら言う。

「佳也ちゃん。今日、水原さんたちと話をしたのは、誰の部屋?

あのとき、部屋はとってもきれいに片付いてたし、

佳也ちゃん、昨日朝から部屋中掃除したって、自分で言ってたよ。

だから、大丈夫だよ。安心しな」

「そっか・・・!そうでした。すっかり忘れてました!

・・・そうだった~よかった~ホッとした・・・」

圭と英子が吹き出して、想太も、笑いだす。


「とうちゃん、お風呂のあとで、絵本読んでくれる?」

「いいよ」

想太はご機嫌だ。

佳也子は、どうも自分はロマンチックとは程遠いなぁと、

ちょっぴり、ため息をつく。

その一方で、佳也子の顔は、ついつい笑いで緩んでしまう。

(・・・嬉しい。あかん。嬉し過ぎて、一晩中眠られへんわ。きっと。

ずっと、朝まで圭くんの顔見てしまいそう・・・)

「佳也ちゃん?」

圭が笑う。

「嬉しい?」

「うん」思わず素直に答えてしまう。

「たぶん、俺の方が嬉しいよ」

「ぼくのほうがうれしいで!」

想太が力いっぱい断言して、

4人で、思わず声をあげて、笑う。


温かな空気に包まれて、

佳也子はちょっぴり泣きそうになる。


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