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いつかきっと  作者: 原田楓香
36/53

36.  一緒に行こう


 「相談したいことがあるの」


夜、英子が佳也子たちの部屋を訪ねてきた。

想太は、早々に眠りについている。

佳也子たちが英子の家に行くことは多いけど、

その逆は、めったにない。

何の相談だろう。少し不安な気持ちになる。


リビングに座って、佳也子がいれた温かいお茶を、

そっと一口飲んだ後、英子が言う。

「埼玉に戻ろうと思うの」

「え?」

「もともと埼玉で生まれ育って、退職した後に、

ダンナの故郷の大阪についてきて、今に至るんだけど、

もう、肝心の本人もいないしね・・・」

「はあ・・・」

先月、従妹から、夫が亡くなったとの知らせを受けて、

駆けつけた英子だ。

そのときに、従妹から相談を受けたらしい。

子どももいないし、ダンナもいない。

1人で暮らすのが心細いから、帰ってこないか、と。

条件は英子も同じだ。

「一緒に住むか、近所に住むかは、まだ決めてないけど。

でも、子どものころから仲のよかった従妹なので、

それもいいかもしれないなあ、って思って。

このところずっと考えてたの」

「じゃあ、ここは、どうされるんですか」

「売りに出すか。管理会社に委託して、そのまま、

アパート経営は続けるか・・・。まだ考え中なんだけど。

今、物件を検討しはじめたところなの。そこで、

佳也ちゃん、相談なのは、ここから」

「え、あ、はい」

「佳也ちゃん、想ちゃんも、一緒に行こう」

「え?」

「もちろん、無理にとはいわない。でも、圭くんのことも

考えたら、いつかは向こうへ行くことになるでしょう」

「・・・はい」

英子には、圭から、「3人で家族になりたい」と言われた

こと、イエスと答えたことは、伝えてある。

英子は、圭から、時々相談を受けていたらしく、その報告を

とても喜んでくれた。


英子は、大阪は、住み心地がよくて好きだと言っていた。

以前、この街で、一生暮らしていく、と言っていた。

「英子さん、もしかしたら、私たちのことを考えて、埼玉へ

戻ろうと・・・」

言いかける佳也子に、英子は笑って答える。

「そうね。もちろんそれもある。でも、すべては、

ご縁とタイミング。佳也ちゃんにとっても、私にとっても、

今がチャンスな気がするの。でも、この先私も、年をとって

佳也ちゃんたちのお役に立つどころか、迷惑をかけるかも

しれない。だから、そのときのことも考えながら。でも、

今は、まだ何か力になれることもあるかもしれないしね」

「英子さん・・・」


佳也子が、大阪を離れることになったら、英子は一人に

なってしまう。

佳也子にとって、英子は、いつのまにか、肉親のように、

とても大切な存在になっている。

もし、大阪を離れるなら、一緒に行きたい、と佳也子は

思っていた。

けれど、夫の墓もある、大阪を離れることを、英子は

どう思うだろう。アパートの経営のこともある。

一緒に行こうというのは、自分のわがままにすぎない。

そう思って、なかなか言い出せずにいた。


「英子さん。私も、一緒に行きたいって、思ってました。

だから、一緒に、行きましょう!関東進出です!」

佳也子は、胸の前で、両手を握りこぶしにして、

力強く、宣言する。

「ふふふ。佳也ちゃん、気合入ってるわね」

「はい。私、強くなろう、ならなきゃ、と思ってるんです。

まだまだですけど」

「そう。じゃあ、私たち、動き出しましょう」

「はい」

「じゃあ、まず、私は、今の家とアパートをどうするか、

考える。向こうで住む物件は、佳也ちゃんたちが、

どうするのかに合わせて、探すことにするわ」

「私、向こうでできる仕事、さがします。書店の仕事、

大好きですけど、向こうで、書店に勤めるのは難しい

と思うので」

「佳也ちゃん、教員免許持ってたわよね。司書の資格も」

「はい。ただ、できるなら、本に関わる仕事をしたいって、

思っています。なので、司書の仕事ができないかな、って

考えてるんです」

「そうね。ただ、司書は、なかなか正規雇用のところが

少ないよね。正規雇用のところがないか、探してみましょ」

「ありがとうございます。私も、探します。ただ、ちょっと、

心配なことが」

「なあに?」

「私の仕事のことで、圭くんに何か迷惑がかかったら、

どうしようって・・・」

「犯罪を犯すんじゃないんだし、普通に働く分には、

大丈夫よ。むしろ、佳也ちゃんの方が、やりにくいことも

あるかもしれないわね」

「そうでしょうか」

「必要以上に、注目されてしまうかもしれないから・・・」

そう言われて、佳也子は、正直、不安になる。

佳也子の頭には、自分が圭にかける迷惑のことばかりが、

真っ先に浮かぶ。

でも、頭を振って、不安を振り払う。

そう。強くなるって決めた。

だから。

臆してなるものか!



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