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いつかきっと  作者: 原田楓香
34/53

34. 3人で


スマホの着信音が鳴る。

圭からのメールだ。


『今から行く』

行くって?どこに?

『今、先生のとこに着いた。今晩、先生のところに泊まる。

だから、今から会いに行く。いいかな?』

え?


びっくりしているうちに、玄関のドアホンが鳴った。

急いで、佳也子は玄関に走る。

ドアの鍵を開けると、立っていたのは、満面の笑顔の圭だ。

「久しぶり!会いたかった!」

圭に気づいて、リビングから転げるように走ってくる想太を

圭が両手を広げて、抱きとめる。

「圭くん圭くん!」

「想ちゃん、会いたかったよ~。今なら、ぎりぎり起きてるかもしれない、

って先生に聞いて、飛んできちゃったよ」

そこからは、2人で頬ずり合戦だ。

そして、ぎゅう~と言いながら、力一杯抱きしめ合っている。

見ていると、佳也子も胸がいっぱいになる。

そんな佳也子に、圭がほほ笑みかけた。

「佳也ちゃん、ただいま」

とろけるような笑顔だ。

そして、想太を抱きあげて、リビングのソファに座る。

「あ、最終回見てくれてたの」

「2かいめ」

想太が、小さな手をチョキにして、2を示す。

「そうかあ。見てくれてありがとう」

想太を、またぎゅうっと抱きしめて、ふわふわの髪に

顔をうずめる。

「一緒に、続き見てもいい?」

「うん」

想太が、嬉しそうに、ピンク色のほっぺで答える。

そして、「かあちゃん、ここ」

圭の隣を指さす。もちろん、自分は圭の膝の上だ。


想太を膝にのせた圭の隣に、佳也子も座る。

画面の中の礼を、彼を演じた圭と並んでみるのは、

とても不思議な感覚だ。

気がつくと、想太は、圭の胸にもたれて

気持ちよさそうに寝息を立てている。

圭の手が優しく、想太の髪や背中をなでる。


最後の演奏会シーンを見ながら、『心の瞳』を圭が口ずさむ。

「このシーンね、はじめは、俺は歌う予定じゃなかったんだ。

でも、最終回、できたら俺も歌いたいって、すっごく思ってて、

相談した結果、歌わせてもらえたんだ。会場の皆さんの雰囲気が

すごく温かくて、とても気持ちよくて。歌えて、嬉しかった」

圭は言う。


「俺ね、実は、この歌、歌ってる間、礼じゃなくて、圭だった」

圭が、ぽそっという。

「ん?」

佳也子は、首をかしげながら、画面の礼から、隣の圭に目を向ける。

「このとき、歌いながら、ずっと、俺、佳也ちゃんと想ちゃんのこと、

考えてた」

圭が、膝の上の想太に、柔らかな眼差しを向ける。

そして、顔をあげると、佳也子の瞳をまっすぐに見つめて言った。

「佳也ちゃん、俺ね、佳也ちゃんと想ちゃんと、3人で家族になりたい」


圭が、真剣に、けれど、穏やかな声で続ける。

「俺の仕事のせいで、もしかしたら、いや、きっと、迷惑かけることも、

あると思う。でも、なんとか、そうならないように精一杯、努力する。

だから、少しだけ、俺に時間をくれる?

あ、いや、それ以前に、まず、俺と家族になってくれる?

なってもいいと思ってくれる?」

佳也子は、胸に熱い塊がこみ上げて、うまく言葉が出てこない。

「じゃあ、選んで」

圭が、佳也子の目をじっとのぞきこむ。

「1番、喜んでイエス、2番、もちろんイエス、3番、力一杯イエス。

1番から3番のうち、どれか1つ選んで」

まばたきもしないで、まっすぐに佳也子を見つめている。

彼の瞳が、かすかに不安に揺らぐのを見て、佳也子は、心を決める。


「・・・もう、全部!」

はじけるようにほほ笑んだ圭の腕が、ぎゅっと佳也子を抱え込む。

両腕で、佳也子と想太を抱きかかえた圭は、

「ありがとう・・・」

そう言って、心底ほっとした笑顔になった。


「この先、いろいろ乗り越えないといけないこともあると思うけど、

がんばって、解決していくから。少しだけ、時間をください」

圭が頭を下げる。

佳也子は、一生懸命、心をこめて答える。

「圭くん、一緒に、考えよう。乗り越えなきゃならないことは、

一緒に乗り越えよう。一人で、がんばらなくていいからね。

ちゃんと私にも相談してね」

「うん。わかった。・・・ありがとう」

佳也子を包む腕に、そっと力が加わる。


想太を布団に寝かせると、圭は、英子の家に戻っていく。

明後日の午前中までは、オフなのだという。

残念ながら、明日は、佳也子は、仕事が入っている。

(いい子で、先生と一緒に待ってるよ)

そう言って圭は笑ったけど、なんだか、佳也子は落ちつかない。


選択肢が全部イエスで、

その上、圭の心細そうな不安げな顔を見て、

佳也子は、3つの選択肢をまとめて、全部選んでしまった。

後悔する?

いや、たぶんしない、だろうと思う。

何より、

(3人で家族になりたい)

その言葉が、佳也子の心にまっすぐに入ってきたから。



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