表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかきっと  作者: 原田楓香
32/53

32. たぶん、足りない


圭は、佳也子が大急ぎで作った焼き飯、ポテトサラダ、

お湯を注ぐタイプのコーンスープを、あっという間に平らげた。

「ほんまに、お腹空いてたんですね。ごめんなさい。

もっといいもの作れたら、よかってんけど」

「すごく美味しかったよ。こんなに野菜たっぷりとったの、

久しぶりかも。ごちそうさま。ありがとう」

圭の笑顔を久しぶりに、間近に見て、単純に、

佳也子は嬉しい。

2人で食卓を片付けて、並んで流しの前に立つ。

目と目が合って、

「なんかさ、こういうのって、いいね」

とろけるような笑顔で、圭がつぶやく。



明日が早いので、今夜のうちに、奈良に戻ると言う圭は、

それでも、名残惜しそうに、奥の部屋に寝ている想太のそばに

寝転がる。

そして、すぐそばで、その顔をしげしげと見つめる。

「想ちゃん、寝てて残念だな・・・。話したかったな」

想太は、いったん寝つくとなかなか目が覚めない。

今も、とても気持ちよさそうに、なにやら、むにゃむにゃと言いながら、

ピンク色のほっぺに、にまあ、と笑いが浮かんでいる。

嬉しそうな表情だ。

きっと楽しい夢を見ているのだろう。

「可愛い、想ちゃん。顔が見られてよかった・・・」

圭は、そう言って、その丸いほっぺたを、手のひらでそっと包む。

そして、ゆっくりとおでこの生え際から髪をなでる。

「毎日、会えたらな。・・・会うたびに大きくなっていって。

なんだか、焦るなあ。毎日見ていたいな・・・」

そして、ぽってりした想太の背中を優しくなでる。

そのたびに、想太の顔が、にまあっと笑顔になるので、

一瞬、起きているのかと錯覚しそうだ。


しばらくそうしていた圭は、大きなため息をついて、

「はあ。もうそろそろ行かないと。先生のところは、もう電気も

消えてるみたいだから、寄らずに行くよ。よろしくって伝えてね。

ここに来る前に、一瞬、顔は出したけど、すぐにこっちへ

吹っ飛んできたから、ちゃんと話せてなくて・・・」

「メールしてみましょうか?もしかしたら、起きてるかも」

佳也子は英子にメールを送る。

しばらく待ったが、返信はない。

やはり、もう眠っているようだ。


「じゃあ、行くよ」

圭は立ち上がり、両腕で、佳也子をそっと包む。

「ありがとう。会えて嬉しかった。ほんとに無事でよかった」

「来てくれてありがとう。会えて嬉しかった・・・」

佳也子も、そっと圭の背中に手を回す。


佳也子は、部屋を出て、表の道まで見送る。

圭は、手を振って、静かに、駅の方向へ向かっていく。



佳也子は、静かになった部屋で、ひとり、思う。

自分は、たぶん覚悟が足りないのだ。

傷ついてもいい、覚悟。

泣いてもいい、覚悟。

その覚悟が、自分には、まだ、ない。


確かに、圭のことが好きだ。大好きだと思う。

・・・会いたくて泣いてしまうほどに。

それなのに、心の中に、いつも逃げ腰になっている自分がいる。

圭が信じられないのではない。

ただ、怖いと思う。

誰かを深く信じて、心を預けてしまうことが、怖い。


人は、いつか、いなくなってしまう。

心を預けて頼ってしまったら、いつかその人がいなくなったときに、

グラグラになった心をあらためて、立て直さなくてはいけなくなる。

そうなることが、怖い。

想太以外の家族を、失くしてきた佳也子は、そのたびに、

さみしくて、心細くて、グラグラになる自分を必死で立て直して、

ここまでやってきた。

自分の心を守れるのは、自分しかいない。

ずっとそう思ってやって来た。


だから、頼ってもいい。

心配かけてもいい。

そう言われても、一歩が踏み出せない。

そうすることで、自分が弱くなってしまいそうで。


弱い自分にはなりたくない。

不器用でも、なんとか一人で立っていられるように。

風に吹き飛ばされてしまわないように踏ん張っていたい。

強くはなくても、弱くはない自分でいたい。

佳也子は、そう願ってきたのだ。


でも、もしかしたら、そう思っている時点で、

佳也子の心は、自分の弱さに負けているのかもしれない。

そんな思いが、心に浮かんでくる。

結局、自分は、傷つくことが怖いだけなのか。

傷ついても、いつでも、乗り越えてやる、という強い自信が、

自分には、きっと足りない。

どうすれば、そんな強さを身につけられるのか。


(圭くん。ごめん。まだまだ、私の心は修行不足みたいです・・・)

佳也子は、心の中で、つぶやく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ