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いつかきっと  作者: 原田楓香
27/53

27. 俺ら


圭が表紙の雑誌に、英子と想太は大喜びだ。

今日一日、この雑誌の売れ行きにハラハラしたことを、

佳也子が面白おかしく話して聞かせると、2人は、

笑い転げ、一冊だけでも買えてよかったねえと、

言ってくれた。

そして、3人で、圭の写真をたっぷり眺め、記事を読んで、

撮影時の裏話を楽しんだ。


表紙もいいけど、中のページにも、楽しそうな圭の笑顔が、

あちこちにある。

その表情から、ロケ先の美味しいものや景色を、圭が、

ごく自然に、楽しんでいることも伝わってくる。

そのロケ先の景色や食べ物の写真は、プロのカメラマン

の撮ったものだけど、佳也子たちも、圭が撮った写真で

同じ食べ物や景色を見たことがあった。

「これ、圭くんのしゃしんにもあったね」

想太が嬉しそうに、写真のいくつかを指さす。


圭が行く先々で、自分たち3人のことを思い出して、

こまめに送ってくれたのだと、あらためて感じて、

なんだか胸が熱くなる。


「1冊しかないのにいいのかしら」と英子は言ったけれど、

「大丈夫です!もう1冊ちゃんと注文を出してあるんで」

佳也子がそういうと、とても嬉しそうに、その雑誌を、

表紙を見せて、棚の上に飾った。

そして、ちょうど放送日だったので、3人で、ドラマを見る。


笑っている圭。

美味しいものを思いっきりほおばっている圭。

真剣な顔で語る圭。

フラれてがっくりしている圭。

いろんな表情の圭が、画面中にあふれる。

3人で画面の中の圭に笑ったり、見とれたりしながら、

佳也子は思う。

今日言葉を交わしたお客さんたちの顔が浮かぶ。

みんな、今、この瞬間、同じように一生懸命、

テレビの前で、彼を見つめているのだろう。

そう思うと、圭の仕事のすごさを感じずにはいられない。



夜遅くなって、圭からの電話が鳴った。

もちろん、テレビ電話だ。


「こんばんは。今日はどうしてた?」

「今日は、一日、ハラハラし通しでしたよ」

「え、なんで?」

「圭くんのせいで」

「俺、・・・なんかしたっけ?」

圭の顔がちょっと不安そうになる。

「雑誌です。ピアノに向かってほほえんでる表紙の」

「ああ!あれ。今日発売だったんだ・・・。買ってくれたの?」

「もちろんです!ただし、今日は、英子さんの分だけ。

初日完売で、私の分は、追加注文分が届くまで、

おあずけです」

「そうだったんだ。え~、そんなに売れたの?」

圭もちょっと嬉しそうだ。

「そうですよ~。私、自分の分買って帰りたかったのに、

次々、お客さんが買って行くから。それで、私、一日中、

めっちゃハラハラしてたんです。『どうか売れないで』って、

あんなに願ったの初めて」

「ははっ。そうなんだ~」

圭が笑っている。

くつろいだ笑顔。

ゆったりしたトレーナー姿。

なんだか、それが嬉しい。

思わず、佳也子も笑顔になる。


「圭くん」

「ん?」

「今日、お店に来てたお客さんたちとね、いっぱい、

圭くんの話、したよ。みんな、毎週楽しみにしてて、

リアルタイムで見て、録画したものも何回も見るって。

男女関係なく、ほんとにいろんな年齢層の人たちが、

とても楽しそうに嬉しそうに、圭くんのこと話してくれてね」

「うん。ありがたいな。・・・素直に嬉しい」

「ほんとに。よかったね、圭くんの、ひそかな努力がちゃんと

実ってるんやなあって思った」

「うん」

少し照れくさそうな、神妙な顔で、圭がうなずく。

「みんな、とっても幸せそうに、圭くんの表紙の本買って行くの。

胸に抱きしめるようにして。すごく嬉しそうに。それ見てたら、

しみじみ思った」

「うん?」

「圭くん、ほんとに、すごいお仕事をしてるんだなって。

こんなにたくさんの人を、笑顔に、幸せに、してるんやなって。

もちろん、その中に、私や、英子さんや想太も含まれてますよ」

圭は、柔らかな笑顔で、

「ん~。俺としては、先生も想ちゃんも、佳也ちゃんも、別枠で、

笑顔にしたい、幸せにしたい存在なんだけどね」

まっすぐに、佳也子を見た圭が、言った。

そして、言葉を続ける。

「次に会うとき、って言ったけど。俺、我慢できないから、

今、どうしても言いたい」

「す・・・?」佳也子が首を傾けてほほ笑むと、

「ちがう」真剣な顔で、圭が首を振る。

「す、じゃなかった」

「え?」

一瞬きょとんとする佳也子に、圭が、極上の笑顔で言った。

「だ」

「大好きだよ、佳也ちゃん。

会えないときも、ずっと、いつも、大好きだよ」

佳也子は、耳まで熱くなるのを感じた。

画面の向こうで、圭が、つぶやいている。

「ああ~、だめだ~言った瞬間に、抱きしめたくなった。

だから、直接会ったときにしようと思ったのに、俺・・・」

じたばたしている圭を見ていると、佳也子は、

つい吹き出してしまう。

「圭くん。大好きですよ。私も。たぶん、圭くんが思ってる以上に、

もっともっとたくさん」

「いや、たぶん、俺も、佳也ちゃんが思ってる以上に、

もっともっともっとたくさん」

子どもみたいにむきになって言う圭が、愛おしい。

「もう。何はり合ってるんですか」佳也子は笑う。

「へへ。恥ずかしい…バカップルみたいじゃない?俺ら」

「・・・ですね」

自然に、圭の口から出た、『俺ら』という言葉に、

佳也子は、ドキッとする。

でも、すごく嬉しい。


誰かを好きになって、

その人にも自分を好きになってもらえることは、

本当に奇跡のようなことだ。

基本、奇跡は、そうしょっちゅう起きたりしない。

だから、今、起きている奇跡を、大事にしたい。


この先への不安が、ないと言えばうそになる。

でもそれ以上に、今、こうして、2人で笑い合えることを、

大切にしたいと思う。


「佳也ちゃん」

「はい」

「今日も一日、ありがとう。また明日も元気でがんばろうね」

「はい。また明日も、笑顔で乗り切りましょう」

「うん。そうしよう」


静かに切れた電話の向こうに、まだ、圭の笑顔が、

見えるような気がする。


着信音が鳴る。

スマホの画面の中では、

白いお団子のようなキャラクターが、パジャマ姿で

おやすみなさい、と布団の中から手を振っている。

佳也子も、ほほ笑みながら、同じ、おやすみなさい、を返す。


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