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いつかきっと  作者: 原田楓香
20/53

20.  会いたいね


 

 圭の手が、そっと彼女の肩を抱く。

静かにほほ笑みながら、彼女を見下ろす眼差しが、

優しい。

とろけるように、なめらかな眼差し。

ほんの少し、唇の両端をそっと上げただけなのに、

なんだか、見ているこちらが泣いてしまいそうなくらい、

甘い表情になる。

彼女が、彼をそっと見上げる。二人は静かに目を合わせ、

圭が、ゆっくりと、彼女の方にかがみこんで・・・。

                           


「うああ・・・」

テレビの前で、佳也子は、思わず、ため息をもらす。

かっこいいのだ。めちゃくちゃ。

例のドラマが、ついに放送開始になったのだ。

英子も想太も、息を詰めるように、画面を見ている。


どうやら、ちょっと惚れっぽくて、おっちょこちょいな

ところもある、キャラクターらしい。

毎回、ツアー先で出会う、ゲスト出演者の演じる

ヒロインに一目惚れし、ついついその人のために

奔走してしまい、そして、毎回、そのヒロインには軽く

かわされる、というかフラれてしまう設定のようだ。

でも、2人きりになったときに、彼が醸し出す雰囲気が

何とも言えず、甘やかでロマンチックなのだ。



                           

画面では、あと一歩で、あわや、キスシーンかと

思われたが、圭が優しく肩に回した手をさらっと

くぐり抜けて、彼女は、向こうから走ってくる男性に、

呼びかける。

『あ、裕貴さぁ~ん。ここよ、ここ』

溢れんばかりの笑顔だ。

『あ、里佳子ちゃん、よかった。ここにいたんだね』

『ええ、こちらの花村さんが、助けてくださったの』

圭の役名は、花村 礼だ。

『花村さん、この人、あたしの婚約者で、三田裕貴さん。

裕貴さん、こちら、花村さん。ほんとに、お世話になったの。

あなたからも、お礼を言ってね』

『そうだったんだ。・・・彼女を助けていただいて、ほんとに

ありがとうございます。なんとお礼を言っていいか・・・』

花村に頭を下げる三田氏。

『いえいえ、そんな大したことは、何も…』

ちょっとがっくりしてるのに、ニコニコっと笑って見せる

圭、いや礼。

横から、マネージャーであり助手でもある、おじさんが、

『先生、いきますよ。演奏会のこと忘れてませんか』

と声をかける。

『わかってますよお~』と礼。

マネージャーのおじさんが、ヒロインと三田氏に、

『あ、よろしかったら、今日の6時から、市民ホールで、

演奏会しますんで、よかったら、聴きにいらしてください』

と、チケットを手渡している。

『ぜひ、行かせてもらいます!』

2人は、幸せそうに見つめ合い、腕を組み、去っていく。

少し名残惜しそうに、2人の姿を見送る礼。

そんな彼の肩をポンポンたたいて、うながすおじさん。


場面は切り替わって、コンサートホール。

会場は、ほぼ満員。

ステージで、難曲を鮮やかに弾きこなして、万雷の拍手を

受ける礼。

アンコールのときに、リクエストをどうぞ、問いかける礼の

声に応えて、会場のあちこちから手があがる。

スタッフが、マイクを持って走っていく。

礼の指した女性が、『浜辺の歌』と言い、それに応えて

礼が、軽く右手を挙げて、とろけるように優しくほほ笑み、

静かに、前奏を弾きはじめる。


ピアノに向かう瞬間の彼は、本当に、しあわせそうだ。

ほほ笑んだ彼の指先から生み出される音は、きらめいて、

降り注ぐ日差しのように、会場中を満たす。

奏でる音に、愛が溢れている。

その音色に惹きこまれるように、会場に、歌声が響き始める。

その歌声に合わせて、彼の紡ぐ音がより一層、優しさと

温かさを増す。


客席にいる観客の姿が、映し出される。

ほほ笑みながら、歌を口ずさんでいる人もいる。

感極まって涙を流しながら、歌う人もいる。

たくさんの人たちの大合唱が、会場を包み込む。

舞台上で、素晴らしい音を奏でている彼の瞳も

優しく潤んでいる。


やがて、場面はまた切り替わって、

礼とマネージャーのおじさんが、街を歩いている。

『ねえ、あれ、あのお団子、まだ食べてない。

あれ食べてから、帰ろうよ』と礼。

『え~、もう電車来ますよ~。それに、あのお団子は、

楽屋に差し入れしてもらってたやないですか』

おじさんが答える。

『え、うそ。そんなのなかったよ』

と不思議そうに首をひねる礼。

次の瞬間、

おじさんが、(しまった…)という顔をする。

おじさんの回想シーンが流れる。

演奏会が始まるちょっと前に、おじさんが、

最初、試しに1個食べて、美味しかったのか、また1個、

また一個と食べて、とうとう空になってしまった箱を

こっそり処分してるシーンだ。


『もしかして…』と礼が軽くにらんで、

ギクリ、という顔をしたおじさんが、

『あ、電車来ましたよ~』と走り出して、

『あ~、食べたんでしょ、僕の分!え~ずるい~』

と、礼が笑って追いかける。

列車の窓辺で、風に吹かれている礼の笑顔で

ドラマは終わった。

                        



思わず、見終わった瞬間、英子と想太と佳也子は、

テレビの前で大きな拍手をした。

英子は、演奏会のシーンをもう一回見る、と言って

巻き戻しボタンを押している。


「圭くん、かっこいい。・・・すごくピアノうまいね」

想太が、うっとりした顔で言う。

「ほんまやねえ。めっちゃよかったねえ」

英子が答える。

佳也子も、力いっぱいうなずく。


再び、画面に、演奏会のシーンが映る。

真剣な顔で、難曲を鮮やかに弾いて、拍手を浴びる彼。

とろける笑顔で、リクエストに応える彼。

会場中にあふれる大合唱と、きらめくようなピアノの音。


「ほんとすごいですよね」

「ほんとにねえ・・・」

「ピアノに向かうときの顔が、とっても嬉しそう・・・」

「演技じゃなくて、きっと心からの笑顔だよね。この、

歌いながら泣いているお客さんたちも、これ、演技じゃ

なくて、自然に涙が流れた、って感じよね」

「ほんとに。きっとそうですよね。見ている私らも、自然に

涙が出て・・・」

「ほんとほんと」


3人で、幸せな気持ちになる。

画面の中の圭は、お団子を食べ損ねて、軽く頬を

膨らませているけど、乗り込んだ列車の窓辺に座って

気持ちよさそうに風を受けて笑っている。


「圭くん、楽しそうやね」佳也子が言う。

「うん」画面の中の圭を見つめながら、想太がうなずく。

「元気そうでよかったね」

「うん」

「また、会いたいね」

「うん!」

想太が、佳也子と英子に笑いかける。


会いたいね。

こんな素敵なシーンをいっぱい見せてくれた彼に。


(そうだ。ほっぺ、そんなにふくらんでなかったよ、って

言わなくちゃ。

それより何より、すっごく、素敵なドラマだったよ!って

まず伝えなくちゃ。)


佳也子は、スマホを手に取る。


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