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いつかきっと  作者: 原田楓香
15/53

15.   ほんまに?

 「え?!HSTのライブ!ほんまに?」


思わず大きな声が出た。

男性向けファッション誌を立ち読みしていた

若い男性が一瞬、顔をあげて、カウンターの

佳也子たちの方を見た。


佳也子は、あわてて、声を低くくして、

「え、ど、どうして?」

胸がドキドキしている。

「一緒に行くはずやった友達がさ、急に

行かれへんようになってん」

同じシフトで入っている麻友が、言った。

「ダンナの両親が急に、田舎から出て来はる

ことになって。とてもライブに行ってる場合じゃ

なくなってしまいやってん」

「・・・気の毒に。楽しみにしてはったやろうに」

「そやねん。めっちゃしょんぼり、ていうより、怒り

狂ってた。ひとの都合もきかんと、なんで来るねん、

って。ライブの日より前か後なら、全然かまへん

のに、よりによってって。でな、代わりに行けへん?」

「え、いいの?・・・行きたい!でも、ちょっと相談せな

あかんしなあ・・・。返事、晩でもかまへんかな?」

「いいよ。じゃ、わかり次第、メールして」

「うん。ありがとう」


もしかしたら、ライブに行けるかもしれない。

もしかしたら。

そう思うと、ふわあっと体に羽が生えたような

気持ちが湧いてくる。


ふわふわな気持ちで、一日が終わって、佳也子は、

夜、英子と一緒に晩ご飯の支度をしながら、HSTの

ライブの件を相談した。


「よかったねえ!それは行かなくちゃ!大丈夫。

佳也ちゃんが行ってる間、想ちゃんは、うちに来て

もらって、ふたりで楽しく過ごすわよ。ねえ、想ちゃん」

「うん。やったあ!何して遊ぶ?」

「そうねえ、何がいいかなあ。あとで相談しようか」

「うん!」

「ありがとうございます。でも、なんか私だけ、行かせて

もらうなんて、申し訳なくて」

「いいのいいの。私は、もうライブで、立ったり座ったり

する体力、あまりないから、家で、DVD見るほうがいいの」

「ぼくもDVDがいい!圭くんが大きく見えるほうがいいもん」

「よかったね。佳也ちゃん、楽しんできてね」

「よかったね」

英子と想太が、口々に言ってくれる。

「ありがとう」

嬉しくて、なんだか泣いちゃいそうだ。


大急ぎで、麻友にOKのメールを送る。

彼女からは、やった~!という返事が来て

明日の待ち合わせの約束が決まる。


その晩、嬉し過ぎて、佳也子は、なかなか眠れ

なかった。

ライブのチケットなんて、ファンクラブに入らない

限り手に入らないと、はじめからあきらめていた

から。


幸い、シフトが入っていない日だったので、

待ち合せした麻友と、ライブの開始時間より

少し早めに着いて、グッズ売り場に並ぶ。

圭の笑顔がプリントされた大きなうちわと

ペンライト、メンバーカラーのタオルを2枚買う。

これは、英子と想太へのおみやげだ。


見ていると、同じように、圭のグッズを

買っている人もたくさんいる。

「あら、佳也ちゃん、いつのまに、圭くんのファン

やったん?」

「う、うん。つい最近。想太と、想太を見てくれてる

家主さんも、ファンやから、おみやげに」

「そうなんや~。可愛いしかっこいいもんね。

私は大ちゃん。歌ってるときの表情とか、もう、

最高にいいよね~」

「うんうん。ほんまにいいよね~」

ふたりで、気分がどんどん盛り上がってくる。

会場に入って、自分たちの席をさがす。


「うわあ。 今までで一番いい席やわ。 

メインステージの前から12列目って!

しかも、真ん中の花道のすぐ横!

うわあ、どうしよ。大ちゃんと目があったら・・・

わたし、心臓バクバクで、めっちゃやばい!」


麻友は、もう大興奮状態だ。

いつも、仕事場では、穏やかな愛想のいい笑顔で

接客し、何か緊急事態が起きても、冷静に行動する、

そんな彼女が、すっかり高校生ぐらいのテンションに

なって、はしゃいでいる。

会場中に熱気があふれ、誰の表情もワクワクしている。

おそらく、佳也子も、同じ顔をしていると思う。


圭には、何も知らせていない。

たぶん、ステージからは、佳也子たちの姿は見えない

だろうし、もしかして、余計な情報を伝えて、気が散ったら

あかんし、と思ったのだ。


でも、思っていたより、ずっとステージが近い。

ひょっとして、もしかすると、麻友が言ってるみたいに、

目が合ったらどうしよう。ドキドキする。


私が客席にいてるの見て、びっくりして、

圭くん、歌詞、間違えたりせえへんやろか?

びっくりして、ダンスのステップ、間違えたりとか

せえへんやろか?

自分なら、知り合いの姿を、客席に見つけたら

絶対、びっくりして舞いあがってしまって、

しどろもどろになるだろう。


そう考えた、次の瞬間、佳也子は気づいた。

客席のあちこちにいる、圭のうちわを持っている

たくさんのファンの人たち。

メンバーカラーのライトやタオルを手にしている

人たち。

これだけたくさんの人たちを惹きつけている圭は、

プロだ。

佳也子が、どこにいようと、そんなことで、動揺する

ことはない。

誰にも見えないところで、一所懸命努力を重ねて

いる圭。

ステージで、最大限にその輝きを放てるように、

自分を磨こうとしている圭。


そんな彼だから、これほどたくさんの人たちが、

彼を応援せずにはいられないのだ。

もちろん、佳也子もその一人だ。


すごいなあ、圭くん。

あらためて、思う。

ステージに立つ、ということの重さを、

この客席の熱気とともに感じながら、

佳也子は、ステージを見上げる。

少し、圧倒されそうになって、でも、

思い直す。


とにかく、英子さんと想太が、

気持ちよく送り出してくれた、

大切なステージだ。

思いっきり楽しんで、帰ったらいっぱい、

ふたりに話してあげよう。


圭くん、がんばれ~。

ていうか、思いっきり楽しんで!

私も、いっぱい楽しむよ!


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