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いつかきっと  作者: 原田楓香
10/53

10. きっと伝わる

 

 佳也子が勝った。

「よし、じゃあ、いくね」

圭と想太に背中を向ける。

「だるまさんがころんだ」

1回目2回目、2人の動きにスキはない。

2人のくすくす笑う声がする。

「だるまさんがころんだっ」

早口で言って、素早く振り向く。

想太が、ちょうど、一歩踏み出して、阿波踊りみたいに

両手を挙げたところだった。

「想太!」

「あ~。みられた~」

「大丈夫、たすけにいくよ」

圭が、たのもしく言う。

佳也子は想太と手をつなぐ。

「だるまさん、」

といいかけたところで、

つないだ手に、圭がポンとタッチした。

「わ~い」「やったあ」

想太と圭は、大笑いしながら、走って逃げた。そして、

少し離れたところで、はあはあ息を切らしながら、

まだ笑っている。

「佳也ちゃん全然気づかないもんね~」

「ほんとだね~」


佳也子の次は、圭がオニになった。

オニにみつかって、圭と手をつなぐことになった佳也子は、

どきっとして、一瞬ためらった。

(・・・うっかりしてた。だるまさんがころんだ、やったら、

その可能性があるの忘れてた。)

ちょっと焦る。


圭がふわっと笑い、さらりと佳也子の手を取る。

圭の手は、すべすべひんやりとしている。

次の瞬間、

「かあちゃん、たすけにいくよ!」

想太の声で、ハッとした。

「ようし!たのんだよ~」

佳也子は、少しおどけて元気よく答える。


圭の次は、想太がオニだ。

「やった!オニや! じゃ、いくよ」

想太がくるりと背中を向ける。

「だるまさんがころんだ」

圭と佳也子は、顔を見合わせて、そっと、一歩を踏み出す。

想太が振り向く。

2人は動かない。一瞬、くやしそうにして、また背を向ける。

「だるまさんがころんだ」

圭が、さっきよりは、少し大きめの一歩を踏み出す。

佳也子は、手を広げて、飛ぶようなポーズをする。

またしても、2人が動かないので、今度こそ!という顔をして、

想太がまた背中を向ける。

次の瞬間、圭が大きく走り出して、

だるまさん、をとなえている想太のすぐそばまで行き、

ふわっと、その体を抱き上げた。

「オニ、つかまえた~!」

「え~!」

びっくりしている想太を、肩のあたりまで抱え上げて、圭が笑う。

「へっへ~。想太オニ、ゲット!」

「わあ、やられた~」

オニなのに、つかまえられてしまった想太は、圭の肩にもたれ

かかり、嬉しそうだけど、少しくやしそうに、

「ずるいで~」と抗議している。

「いいのいいの」

きゅうと抱きしめて、圭が想太にほおずりをした。

そして、地面におろすと、手をつなぐ。

そのあとは、3人で、ゆったり歩きながら、公園の周りの堀や、

草むらの虫などを眺めて歩く。


土曜の午前中なので、まだ、そう多くはないが、他にも家族

連れの姿がちらほら見える。

でも、みんな自分の家族や連れのことしかみていないので、

圭の姿に目を止める人はいない。

まさか、こんなところで、のんびり散歩しているとは思わない

せいもあるかもしれない。


圭は、黒のキャップに黒のジャージ上下、黒づくめだ。

「そういえば、そのジャージ。もしかして、」佳也子が言うと、

「ん?あ、これね。伸太郎先生の。貸してもらった」

「やっぱり。なんか見たことあるなって思って。庭仕事のとき

とかに着てはった気がする」

圭が着ると、少し足首が見えている。

「下はちょっと短いけど、上はちょうどいいのよ」

「ふふふ。脚長いってことですね」

「まあね」

笑いながら、圭がつぶやくように言った。

「ありがとう」

「え?脚のこと?」

「ちがうよ。英子先生のそばにいてくれて、ありがとう。

想ちゃんと佳也ちゃんが、先生のそばにいてくれて、俺、

ほんとにホッとした。伸太郎先生の葬儀のときも、仕事で

どうしても来れなくて。あとでお線香あげさせてもらいに

来たけど、すぐに戻らなくちゃならなくて、結局、なかなか

こっちに来れないままで、ずっと心配だった」

「そっか・・・」

「俺ね、先生たちに、めちゃくちゃお世話になったんだけど、

まだ何も恩返しできてなくて。英子先生が1人になっても、

電話かけるくらいしかできてなくて。それなのに、先生は、

いつも、『元気よ。あなたこそちゃんとご飯食べてる?』って

逆に僕のことをいっぱい心配してくれて」

「英子先生らしいね」

「うん」

「英子先生は、いつも元気にしてるけど、もしかしたら、

ほんとは、さみしかったり、つらかったりするんじゃないかって、

圭くん、心配してたんやね」

「うん」

うつむきがちに短く、圭が答える。


佳也子は、少し考えながら言う。

「私ね、思うんやけど。そうやって相手を気にかける気持ちが、

まず一番大切なんちゃうかなって。 その気持ちを上手く

伝えられへんかったり、実際には何もできへんこともあるかも

しれへんけど、その気持ち大事にしてたら、相手には、きっと

伝わると思う。それで、伝わった気持ちが、相手の元気の素に

なるんちゃうかなって」

圭が、ふっと柔らかく微笑んで佳也子を見る。

「そうか。ありがとう。なんかちょっとホッとした。俺、何もできて

ないよなって、後悔ばっかりしそうだったけど、後悔より、今の

自分にできることを、ちゃんとやっていこうって気持ちになった」

そして、しゃがんで、想太に言う。

「想ちゃん、抱っこ」

圭は、そう言うと、手を広げて、想太を抱き上げて、

自分のおでこと想太のおでこをくっつけて、きく。

「おうちまで、抱っこしていい?」

「いいよ」

想太がニコッと笑って、圭の肩に腕を回す。


佳也子は思う。

(もしかしたら、この人は、自分もさみしくて、だから、

ひとのさみしさも気にせずにはいられないのかも・・・)


佳也子は、すぐ前を歩く圭のジャージの肩をぎゅっと

握っている小さな想太の手を見つめる。





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