敗残兵、剣闘士になる 094 新人奴隷
翌朝早々にマクシミヌスとカヒームと何故か自分も一緒に奴隷市に行くことになった
治療代金は今回は銅貨1枚たりとも入ってきていないがアルティマタスと折半した金貨25枚があるためそれを使えと言うのだ
渋々と連れてこられた奴隷市は人種の坩堝だった
言い方は悪いが黒人、白人、赤茶けた肌の人、インド系の浅黒い感じの肌の人、中国っぽい感じの人も数人いた
今回の奴隷市は買う方もだが出されている人数ももの凄く多い
剣闘士奴隷に出されるのは奴隷中でも志願した者、奴隷として労働していたが態度の悪い者、犯罪を犯して落とされた者、小さい頃に拾われ売りに出された者など理由などそれぞれにある
マクシミヌスが2人、カヒームがレティアリウスの跡継ぎに1人、自分が1人買う予定でそれぞれの思惑に見合った奴隷を購入することにして売りに出された奴隷を1人ずつじっくり説明を聞き観察した
マクシミヌスは20歳前の屈強な黒人の男を2人合わせて金貨200枚近い値段で購入、カヒームは漁師をしていたという白人の男の子を金貨40枚で自分は一番若いが栄養状態が優れないという目付きの悪い小さいアラブ系の子供を金貨12枚で購入した
「マツオは毎回子供ばかりだな」
「なんならもっと小さい子供がいい、大人に覚えさせるよりも小さい頃に仕込んでおくと色々楽だからな
カヒームは狙い通りなのか?」
「まあな、網の使い方に少し慣れている若い人材がいいと思って漁師の子供ならそこそこ網が使えるだろうってね
マクシミヌスはよく分からん農奴下りので良かったのか?」
「あれ農奴なのか?体が出来てる方が最初から楽だろう?」
「「ハァ〜ァ」」
「なんだよ2人してよ!直ぐにチロから出られる方が良いだろう?うちはグラディアトルが少ないんだぞ」
「それなら戦闘経験で選べばいいだろう?あんなの練習相手にすらならん」
「多分俺の買った子供のほうがすぐに強くなる」
「バカにしやがって!」
奴隷の4人を連れて登録を済ませカスタノスを荷車に乗せて郊外の焼き場にお願いした
数時間後に骨だけになったカスタノスを小さい壺に詰めてカヒームが大事そうに抱えた
寄宿舎でもう一泊を過ごし奴隷とオディッセアスを連れてルリーア・オクタヴァノルム(現フレジュス)を出発した
新たな奴隷とオディッセアスにも歩き方をレクチャーしながら進む
オディッセアスはムリをかけなくてもまだまだ腕は痛い、奴隷達は農奴だった2人は良いが他の2人は栄養不足の状態だ
奴隷を購入したあとの時間で肉や魚を買い野菜とともに食わせていく、勿論道中にも油漬けした肉を炙って食わせたりアルティマタスが弓矢で落とした鳥を蒸し焼きにして食べたりと体を戻すように多めに食わせていく
「鳥の骨を持って帰る、口に入れた物で申し訳ないが炙るから我慢してくれ」
海水で綺麗に洗い石焼きで乾燥させて持っていく、冬空の海岸沿いはなかなかに寒い
カイロの代わりに茹でた石を腹に抱いて進む
夕食のおかずに石で粉々に砕いた鳥の骨の出汁を使った大麦の雑炊を食べさせたときには皆が笑顔になった
なるべく一軒空き家を借りて火を絶やさずに眠る事を心掛けて固まって暖を取りながらサンーアまで帰った
ルドゥスに戻るとマクシミヌスとカヒーム、オディッセアスも連れてハルゲニスに報告した
「バッカモーン!体付きが良いだけの農奴をそんな大金で買うとは本当にバカタレー!」
マクシミヌスは蟻ほどに小さく丸まってしまっていた
「それに引き換え2人はバッチリだ、しっかり鍛え上げるように!
あとカスタノスについては残念だった、手厚く育てて貰ったが今回は仕方なかったと思って次へ進んでくれそして1年間だがドクトレとして働いてくれるのはありがたい宜しく頼む」
ハルゲニスはカヒーム頭を下げた
「いえ、これからもご指導宜しくお願いします」
「うむ、でそっちの腕の折れてるのがオディッセアスだな?中々に歳がいっているが家族は良いのか?」
「独身です、両親はもう居ません、家は兄の家族が居るので戻れません」
「ならば良い、腕の怪我が治るまでよく学び腕は動かせないが頭を使えよ?良いな?」
「はい、ありがとうございます」
オディッセアスは泣きながら頭を下げた
「マツオはまた仕合に出てきたそうだな?」
「出させられたというのが正しいですけど」
「仕方なかったのは分かるが皇帝陛下の元に行くのだ、怪我をするようなことはなるべく控えるように!良いな?」
「はい」
「あのぅ、横からすみませんが皇帝陛下のところに行くというのは?」
オディッセアスが当たり前の疑問を聞いてきたのでメディケとしてガレノスに指名されて手伝い?勉強?の為にダナウの戦線に行くことになったのを説明すると目と口を広げて固まっていた
オディッセアスが復活してから母屋で飯を食べた、温かい飯は美味いそれだけで幸せだ
翌日から訓練が始まった
農奴の2人は兄弟、確かに似ている
兄はギオルギ20歳、弟はトラニケ18歳
二人共こげ茶色の髪で少し癖っ毛、兄の髭は鼻下と顎、弟は顎だけ身長は175センチ程度だが体は大きくパワーがある
アラニ族というポントゥス・エクシヌス(現黒海)の上のラクス・マエオチス(現アゾフ海)からさらに東から来た部族出身だ、穀物危機に際してローマに輸出のお願いに来たが言葉が通じず囚われたのだという、なんというか大雑把な扱いで可哀想だ
漁師だったという男はアラム16歳、アエジプトゥス出身
頭は身長は170センチに届かないくらい、体は大分細身、彫りが深くギョロッとした目で髪は千切られたかのようにボサボサだ
酔っ払ったまま船に乗り転覆させた罪で落とされたそうだ
最後は自分が買った子供だ
髪は赤っぽい土で汚れておりボサボサ、顔は土汚れでくすんでいてはっきりとは分からない
身長は150センチくらいでマシュアルより少し小さい貫頭衣は着ていても体が小さく腹が出ているのが分かる
ローマ出身で13か14歳で拾い子奴隷らしい、兄弟のように育った実子の方に追い出されたことで剣奴になったんだとか
名を聞くとウンベッラと呼ばれていたそうだが言葉としては日陰という言葉だが一部では『捨て子』の隠語で使われている呼び名らしい
ということでなんと正式な名前が無かった
「名前ねえ、何がいいかな〜」
長男がマシュアル、次男がアルティマタス、三男か…
「ミツオ(三男)いや、ちょっと安直かサブロー(三郎)なんかなぁ〜、トシゾウ(歳三)じゃちょっと古風か、サンタ(三太)!サンタはどうだ?」
「神様みたいで嫌です」
「そんな神様いるのか?」
「大体頭にセントって付くでしょう?」
「なるほど」
「さっきの中ならサブローかな」
凄い照れ隠ししながら目を合わせずに答えた
「じゃあ今からお前はサブローだ
私は親代わりのマツオ、こっちが長男でメディケのマシュアル、後ろにいるのが次男でゲルマンの王族出身のアルティマタスだ
他も皆家族のようなもんだから仲良く頼むぞ」
「はい、父さん!」
「父さんは止めてマツオと呼んでくれ、これでもまだ27歳になる歳なんだ兄弟でもおかしくないくらいさ」
「マツオ、宜しくな!」
「おう!じゃあ全員で浜に穴を掘るぞ」
「「「はぁ?」」」
「今日最初のトレーニングだ、ドライオスにもカヒームにも了承を貰ってある
ニゲルとセバロス、オココもババンギもアルティマタスも全員で掘るぞ」
最初に直径4メートルほどの円を縁取りをして全員で掘り始めた
近くで野焼きをして暖を取りながらどんどんと進めていく
約1メートル程の深さで掘れたら全員でタライや鍋、壺なんかに海水を汲んで溜めていく
昼頃になりようやく水が溜まったので今度は野焼きの中にある石を木で挟んで次々と放り投げる
いくつかのヒビ入りの石が割れたが誰も怪我をしていないので良しとしよう
用意していた石は30個、全部入れてなんとか熱々のお風呂に仕上がった
「良し全員脱げ股だけは海で洗ってから入るぞ、走れええええええええ!」
「「「ええええ!?」」」
どうせ縮み上がっているのだ海に入ったところで大差はない、しっかりと洗ってからお風呂に飛び込んだ
『ドッボーン』
「気持ちいい!」
次々と飛び込んでくるが先に来た古参の連中は砂で走る練習をしているだけあって早い
新人の4人はかなりへばっているが風呂に入ると皆顔を綻ばせていた
垢と汚れを擦り落としながら風呂に入るとサブローが激変していた
「お前サブローだよな?」
「そうだけど」
「色白かったんだな、髪もな」
「まあな」
サブローの髪は白に近い金髪、肌は真っ白、気付かなかった目もとても白く瞳は赤に近い茶色だった、全然サブロー顔じゃないのは申し訳なかったなと心の中で謝っておいた




